2024年度 マレーシアの労働事情(フィリピン・マレーシアチーム(英語部))
以下の情報は招へいプログラム「フィリピン・マレーシアチーム(英語部)」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
参加者情報
マレーシア労働組合会議(MTUC)
はじめに
マレーシアはアジア諸国の中でもビジネス環境が整備されており、世界的グローバル企業が進出し日本企業も多い。また、政治・社会情勢も安定しており安心して経済活動が出来る国として注目されている。
また、外需依存度が高い。特に中国経済への依存度は高く、中国政府の方針によって大きく影響を受ける。2023年度は、内需、外需ともに不透明感からGDP経済成長率は鈍化、経済基盤の脆弱化が際立った。
加えて、人件費や生活費の高騰、離職率の高さや労働力不足、交通渋滞、人口過密、環境問題(排気ガス、廃棄物)など様々な社会問題を抱えている。
新型コロナウィルスの影響もいまだに続き、昨年末から再び感染者数が増加、行動制限が厳しかったことから物流や人手不足の解消に時間を要している。
以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。
マレーシアの労働事情
(1)社会保障制度
- マレーシアの社会保障制度は、公務部門は全額政府が負担し本人の負担はない。
老齢保障年金と医療保障も終身国が面倒をみる制度となっている。 - 民間の老齢年金保障は、使用者と労働者が負担する保険料を財源とする積立基金で、公的援助はなく公務部門と民間部門の格差が大きい。
また、日本のような医療保険制度(国民健康保険、被用者保険、後期高齢者医療制度)はなく、使用者が従業員向けのグループ保険に加入する場合や、実費を会社に請求することができる医療費クレーム制度がある。そのための法律として、労働者社会保障法、労働者災害補償法が制定されている。
年金制度としては、従業員積立基金法によって会社及び従業員に加入が義務付けられている。
(2) 組織や職場で直近発生した労働争議
- 不当解雇
マレーシアの労使関係法第20条では、正当な理由や弁解の機会なく解雇された場合、不当解雇とみなされる場合があり解雇は厳しく制限されている。
しかし使用者側は様々な理由で解雇を通告、労働者にとって解雇は自主退職とは異なり社会的に悪いイメージを作り上げるものであり、マレーシアの文化から再就職の道を困難なものとしている。法律には正当な理由の定義がないため、パフォーマンスの低下や不法行為を理由にする必要がなく、人種、性別、宗教などの差別的な解雇も多い。
また、従業員への様々な方法で辞職するような圧力をかけて退職させる追い込み解雇も多い。
- 労働争議の事例
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- 労働争議の経過
使用者が従業員の健康診断結果に基づき、一方的に就労が困難と判断して健康上の理由により解雇。従業員は、日頃から使用者側から悪意に満ちた扱いを受けており、会社に医療委員会が設置されていないためセカンドオピニオンを受ける機会も弁明する機会も与えられずに、解雇通告を受けた。これによりこの従業員は労働裁判所に提訴。裁判で会社側は、解雇についてはあくまで健康診断結果を基にした正当な理由であって、誠意をもって対応したと反論。双方の意見は平行線をたどった。
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- 労働争議の結果
裁判所は、今回の件は原告側と被告側の主張から判断すると、双方ひどい緊張関係に基づいており、原告をこのまま復職させる事は双方に有益ではないと判断、復職に代わる補償として賃金24カ月分と退職手当の支払いを会社側に命じた。
(3)労働法制
マレーシアの労働法は英国法をルーツに持ち、雇用に関する法律は雇用法と労使関係法がある。雇用法は、労使の法的関係を規定しており、日本との違いは全ての労働者ではなく一部の労働者のみに適用される点である。賃金が一定額以下の労働者にのみ適用され、それ以外の労働者には、労使で合意した雇用契約に則った労働条件が適用される。
また使用者による解雇は、慎重な手続きが要求され労働者を解雇しにくい法規制となっている。特に外国人労働者の管理については、雇い入れから雇用契約終了まで使用者に厳しい責任を義務付けている。
最低賃金制度の導入については、これを求める労働者側とコスト増を懸念して反対する使用者側とで議論が続いたが、2016年に施行された。2019年と2020年には最低賃金命令が出された。
2023年1月から施行された改正雇用法は、従来の雇用法とその適用対象が大きく異なり、すべての労働者(高額な賃金を受け取る労働者は除く)がこの適用を受けることになった。
主な法律
・雇用法
・労使関係法
・労働組合法
・従業員積立基金法
・労働者社会保障法