UAWのバッテリー工場での画期的協約、ガザ侵攻抗議、連邦監視官の調査
6月10日と12日のニューヨーク・タイムズ(NYT)は「昨年のビッグ3交渉での成功に続くGMバッテリー工場での大幅労働条件改善」「大学キャンパスでのガザ侵攻抗議活動」「内部告発による不正会計疑惑の連邦調査」などを報じた。
全米自動車労組(UAW)は6月10日、昨年秋に組織化したオハイオ州のUltium Cells社(旧GM)ローズタウン工場で画期的な労働協約を結んだ。内容は3年間に30%の賃上げで時給35ドルへ、最低所得層は112%の賃上げ、協約批准手当の3,000ドル、それに安全担当に4名、衛生担当に1名のUAW係員を配置などとなっている。
協約についてオハイオ・インディアナ州地域のグリーン本部長は「電気自動車への移行での賃金や労働条件の低下に歯止めを掛けるだけではない素晴らしい協約が結べた。」と述べた。フェインUAW会長も「この協約は電気自動車バッテリー業界の将来を変えるものとなる。」として、他のGM2工場、フォード2工場、ステランティス2工場に適用する構えである。
今回の協約締結は、昨年のビッグ3との労使交渉成功に続き、米国労働者のあいだで、労働運動の先駆的、象徴的存在としてのUAWの地位を高めることになり、また地球温暖化対策を唱えるバイデン政策の電気自動車移行が労働者を置き去りにするものでないことを証明するものとして評価される。
もう一方では、UAWは数万名の大学労働者を組織して、ガザ地区におけるイスラエルの戦闘停止を要求していることで注目を集めている。カリフォルニア大学では「戦争反対の座り込み活動に対する攻撃について大学が傍観的態度を取り、保護措置を怠ったことは言論の自由侵害だ」として、UAWローカル4811(48,000名の教授助手や採点担当)が5月20日からストライキを起こした。
同様の抗議活動が各地大学に広がる中、UAWの教育分野における組織化は過去7年間にカリフォルニア大学、ワシントン大学、コネチカット大学、ニューヨーク大学、ハーバード大学などでUAW組合員391,000人の4分の1以上を占めるに至った。
ハーバード組織化担当でガザ運動を主導するマンシラUAW役員は「UAWの再建は戦う組合を目指すことだが、組合の組織化だけでなくヒューマニティーの実現を目指して戦う。野心的で広範な意味合いを持つこのような取り組みは従来とは違うものだ」と語る。しかし政治的意味合いの強いこのような取り組みにUAW内部からの反対も強い。
ニューヨーク大学のUAWローカルが、イスラエル軍によるパレスチナ領土占領と封鎖の即時解除と停戦を決議した時には強い反対が巻きあがった。また先月、下院共和党委員会がUAWニューヨーク・ローカル委員長を査問して、ガザ停戦決議の意図や反ユダヤ的主張の有無を質問したときには「これは魔女狩りだ」とする一派と「UAWを提訴する一派」が生まれ、その対立が際立ち、大学や一般国民との関係にも悪影響を及ぼしている。
なお、カリフォルニア大学については、学生の授業に修復不能な重大な影響があるとする大学側の指摘を受けて、6月7日、裁判所がストライキの一時中止を命令した。
このような状況の中、6月10日司法省監視官(モニター)が「UAWの会計処理に疑問を呈した幹部2名が不当な処罰を受けた」とする内部告発への調査を開始した。
告発者の1人は、2月に解任されたモック財政事務局長だが、財政監視責任上の不正行為があったとされる。しかし同局長は、会長室への費用支出を拒否したことなどへの報復だと主張する。2人目は、5月にステランティス担当を解任されたボイヤー副会長だが職務怠慢の責任を問われた。しかし、同副会長は、他の役員への不正な便宜供与を拒否した事への報復だと主張している。さらに、監視官からは執行部の協力や証明資料提出の遅れの問題が指摘されている。
なお、連邦監視官は数年前のUAW汚職事件に関連して2021年に司法省が任命したものであり、同時に、代議員選挙に代わり組合員直接選挙が同意され、その組合直接選挙によりフェイン新会長が選出されている。
以上のような状況についてフェイン会長は「監視官には充分な調査を期待する。またUAWの取り組みは、先人であるウオルター・ルーサー会長によるベトナム戦争反対、市民権運動支持、南アフリカの人種差別反対と同じ姿勢だ」と説明しているが、筆者は学生という新たな組合員を包含しつつ、守旧派との勢力争いを経験する新生UAWへの産みの苦しみを感じる。
他方、UAWは去る4月、ノース・カロライナ州ダイムラー・トラック労働者7,300名に4年間で25%の賃上げ協約、数日後には労組に敵対的な南部テネシー州のフォルクスワーゲン工場でのUAW結成に初めての勝利を得たが、5月のアラバマ州メルセデス工場のUAW結成には失敗した。