活動報告 各国の労働事情報告

2024年度 タイの労働事情(タイ・ネパールチーム)

以下の情報は招へいプログラム「タイ・ネパールチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

ITUCタイ協議会(ITUC-TC)

  • 民間産業労働組合会議(NCPE)
  • 国営企業労働連盟 (SERC)
  • タイ労働組合会議(TTUC)
  • タイ労働会議(LCT)

タイ産業労働組合総連合(CILT)

タイ自動車労働組合会議(ALCT)

基本情報 (外務省令和6年5月27日更新データより)

  • 人口:6,609万人(2022年)
  • 宗教:仏教 94%、イスラム教 5%
  • 政体:立憲君主制
  • 主要産業:製造業、農業、観光業
  • 名目GDP:5,135億ドル(名目、2023年)
  • 経済成長率:1.9%(2023年)
  • 失業率:0.9%(2023年第3四半期)

はじめに

タイでは少子高齢化が進行しており、近い将来には生産年齢人口の減少が始まると推測されている。労働力不足の深刻化が懸念される一方、次世代の働き手として期待される若者については厳しい雇用環境にある 。技術関係の発展による人員確保も求められており、賃上げの必要性や格差による福利厚生の公平性など労働条件の整備が急務である。
加えて、コロナ禍の経済停滞で特に影響を受けたのも若者であり、2022年以降、全体の失業率の改善が続くなか、若年失業率はコロナ禍以前の水準を依然上回っている。若年層の失業率も高く、長期化すると賃金の低下などの雇用不安が懸念される。
他方、タイ国内には労働組合のナショナルセンターが複数存在している。それぞれの組織が労働者の権益を守るために様々な活動を行っており、タイの労働運動に重要な役割を果たしている。しかし、組合役員や組合員の減少が進んでいることが組織の課題と考えられる。

以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。

タイの労働事情

(1)社会保障制度

  • 社会保障制度の現状

現在、タイは高齢化社会に突入している。その結果、将来、老後資金に問題が生じる可能性があり、年金の増額を求める声も高まっている。現在の社会保障基金制度では、老齢年金は被保険者一人一人の拠出金に依存しているため加入率は低い。医療については、社会保障基金制度の医療被保険者が受ける治療サービスについて、同じレベルの病院の他の患者と同等の治療を受けられないという問題があることから、その権利を現在より増やすよう求めている。子育て支援については、社会保障制度に加入している労働者は、出産手当金を受け取り、その後、月800バーツの子供手当を1人につき6歳まで、3人までで受け取ることができるが、社会保障制度に加入していない労働者は、社会的ケアがほとんどない。

  • 現状における問題意識とナショナルセンターの取り組み

 高齢化社会への突入に伴い今後さらに社会保障基金が拡大していくなかで、被保険者への還元と給付増のため、労働組合として一層行政へ働きかけていくこととしている。

(2) 直近発生した問題視されている労働争議

  • ケース1

2009年10月、プラチュア・キリー・カーン県カオタオ駅で発生した急行列車の脱線事故で乗客7名が死亡、多数の負傷者が出た。この事故後の対策として、安全のシステムの導入などの対応を求め、タイ国鉄に設備の修理と保守の取り組みが行われてきたものの、タイ国鉄は関係者13名を不当に解雇した。その後、この13名は現在職場に復帰している。しかし、中央労働裁判所は損害賠償(1,500万バーツ)をタイ国鉄労組に支払う命令を下した。本件については、バンコクの組合幹部7名が責任をもって対応しているが、タイ国鉄労働組合としても支援を行っている。現在も経営側との交渉を継続している。

  • ケース2

タイ繊維企業労組は、繁栄していた時代には数千人の従業員がいたが、繊維業の低迷により退職や解雇が行われ、現在の従業員数は約400人となっている。そのほとんどが女性である。勤務は三交代制で、1勤務は8時間勤務で毎週日曜日を休日としていたが、使用者は一方的に週休日の変更を要求した。使用者が休日のローテーションを指定し決定することは交渉の争点となり、紛争となった。ほとんどの組合員が同意していない使用者の決定によるローテーション休日は、現在も交渉中である。

  • ケース3

繊維企業内では、雇用条件の年次変更について毎年交渉が行われている。その要求は年次賃金調整、ボーナス、福利厚生、手当、職場の安全に関するものである。交渉で問題が発生し合意に至らない年もある。このようなケースでは、労働関係法の手続きに入り、労働関係当局を介入させ問題の調停を行うこととなる。そのような中、使用者はマネージャー・監督者と労働組合の代表者との会議を招集し、組合の解散を提起してきた。組合の運営を妨害することは労働法に違反する問題であり、労働組合は労働当局に通告し、このような行為を止めるよう使用者に要求した結果、全てにおいて使用者側が条件を受け入れた。

  • ケース4

繊維業では、労使協定で全国労働者デーの行事を開催する際、使用者は支援金を支払うことになっているが、これに違反し支払いを拒否した。2023 年の年次総会で、組合員は使用者を訴えることを決議した。これまで3回交渉が行われたが、いまだに合意に至っていない。現時点で争議調停を行い、2024年5月に交渉の約束をしている。

  • ケース5

別の繊維企業での案件では、タイ人労働者の代わりに外国人労働者(ミャンマー人)を採用することで、タイ人労働者と外国人労働者の間に不平等な雇用条件を設けている。会社は外国人労働者を低い労働条件で労働させており、タイ人労働者で短期間での退職者が発生している。労働組合は会社との話し合いを実施したが効果はなかった。そこで労働組合は、県の労働者保護福祉事務所に会社に対する異議申立書を送った。労働者保護福祉事務所は労使と交渉し、発生した紛争を和解させるための協議を試みたが、結論は満足のいくものではなかった。 現在も労使の協議中である。