活動報告 各国の労働事情報告

2024年度 ネパールの労働事情(タイ・ネパールチーム)

以下の情報は招へいプログラム「タイ・ネパールチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

ネパール労働組合会議(NTUC)

基本情報

  • 人口:3,054万7,580人(2022年)
  • 宗教:ヒンドゥー教徒(81.3%)、仏教徒(9.0%)、イスラム教徒(4.4%)他
  • 政体:連邦民主共和制
  • 主要産業:農林業、貿易・卸売り業、不動産
  • 名目GDP:4兆9,300億ルピー(約408.3億ドル)(2022年度)
  • GDP経済成長率:5.6%(2022年度)

はじめに

ネパールのナショナルセンターである「ネパール労働組合会議(以下、NTUC)」は1947年3月に設立された。1960年から約30年間労働組合の活動ができない時期があったが、1990年5月にNTUCは再確立され、労働者の経済的、政治的、社会的地位を向上させるために様々な組織活動を行ってきた。直近では、NTUCの第7回全国会議が2023年6月に開催された。サービス、生産、非正規、個人経営など労働組合未組織の企業など各部門の労働者を団結させ、労働組合運動全体を強化するために、社会保障、労働の尊厳、女性と若者のエンパワーメントを目指して活動してきている。現在NTUCでは、27産別、45万人の組織で運動を展開している。取り巻く環境としては、①2020年から猛威を振るった新型コロナウイルスの影響もあり、それによって大きく雇用が失われていること、② 正規労働者と非正規労働者の労働条件格差が拡がっていること 、③加えて、雇用の海外流出で若年層の組織化が進みにくい状況に置かれていることがあげられる。

以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。

ネパールの労働事情

(1)社会保障制度

  • 社会保障制度の現状

NTUCは、既存の社会保障制度を統合・合理化し、非正規部門を含むすべての労働者に適用を拡大する包括的な社会保障法の制定を提唱した。個人経営など労働組合未組織の企業や非正規労働者も、利用可能な一つまたは複数の制度を選択して参加できる内容で次の社会保障制度を運営する。「 医療・健康保障プラン」、「出産保障プラン」、「傷害保障プラン」、「 障害者保障プラン」、「老齢保障プラン」、「扶養家族保障プラン」、「失業援助プラン」、「基金が指定するその他の保障制度」の制度である。

  • 現在の課題とナショナルセンターの取り組み

NTUCは非正規労働者及び自営業者の社会保障を実施するためのキャンペーンを開始したが、使用者側の拠出について混乱があるのが現状である。そのため、NTUCは、政府に拠出を要請するとともに、地方においても「誰が、どこで、誰に雇用され、どのような仕事に従事しているのか」を明確に把握されるように、地方自治体へ協力を要請している。

(2) 直近発生した問題視されている労働争議

  • 労働争議の経過

2023 年10月にネパール・ガンダキ県で、経営陣とネパール工場の労働者との間で紛争が発生した。工場での労働組合は、通常通り賞与を要求していたが、経営側はこの要求を真っ向から拒否した。争議は対立と衝突に発展し、状況はさらに悪化した。社会的対話がない状況が続き、経営側はこの問題に無責任な態度をとった。労働者側の主な主張は賞与の要求であったが、利益を上げているにもかかわらず、経営陣が要求を拒否し対話に応じようとしなかった。さらに経営陣は虚偽の貸借対照表を使用し、赤字だと主張した。

  • 労働争議の結果

紛争はまだ解決していない。経営側からの苦情により、9人の労働者が逮捕され刑務所に送られたが、NTUCが協議に入り現在は保釈されている。さらに30人の労働者が1ヶ月の停職処分を受けたが現在は仕事に復帰している。9人の労働者に対する訴訟は高等裁判所に提訴されており、まだ裁判所で審議中である。労働者が勝訴すれば、労働再開が許可される見込みである。

(3)労働法制

2015年に公布されたネパール憲法は、ネパールを連邦民主共和制国家として確立した。新憲法公布後、新しい労働法とその規制、拠出金ベースの社会保障法が承認された。これらの法律は、労働者の社会的保護とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)という観点から、労働市場の発展にとって重要な出発点であると考えられている。インフォーマル経済を新たな社会保護制度に組み込むことはまだ困難な状況にあり、労働組合やその他の利害関係者は、新たに制定された法律や規則の条項の実施に向けて継続的に取り組むことが求められている。

  • 労働法の現状

2017年労働法には、非正規労働者だけでなく正規労働者にも適用されるいくつかの新しい規定が盛り込まれた。福利厚生は、契約や仕事の種類に関係なく、すべての労働者に拡大されている。労働組合にとっては、企業による契約・日給労働者の承認という長年の要求を満たすものである。一方、労働者を解雇するプロセスが容易になったことが危惧される。

  • 現状における問題意識とナショナルセンターの取り組み

ネパールでは労働組合を中心とした闘争を経て、2つの労働関連法が導入された。労働法と社会保障法である。労働組合はこの法律を策定するために使用者・政府と交渉を実施してきた。これらの内容には、拠出金ベースの社会保障の導入、労働法適用部門の拡大、女性労働者の保護強化、ILO基準との整合性などがある。NTUCとしては、非正規部門や第三者請負労働者の保護強化と雇用の拡大を求めて、組織化を加速させるべきと考える 。