活動報告 メールマガジン

ドイツ企業による集団的職業再訓練

2024.06.13掲載

5月10日のニューヨーク・タイムズは「産業再編成を迫られるドイツにおいて、地域の各企業が連携して労働者の職業再訓練と資格証明の取得による雇用の維持をはかる事例」を紹介している。

紹介されている企業は、自動車部品メーカー、コンチネンタル社のギフホルン工場(従業員 約800名)だ。排ガス規制への高まりなどで労働力過多が問題となった2021年、数年中に閉鎖を余儀なくされた。その際、周辺の70企業と協力して、関連する270万労働者への職業再訓練を目指す連携を始めた。参加企業には薬品のバイエルや運輸のDHL、半導体のInfineon、それにシーメンスなどが加わり、他企業労働者への訓練も実施している。

ドイツの製造業は自動化に遅れを取る中、自動車などの製造業には多数の余剰労働力を抱える一方、必要技能とされる70万の職種では人手不足に直面している。他方、伝統的に社会的責任を意識するドイツ企業にあって、41,000人のギフホルン地域で第3位を占めるコンチネンタル工場の責任感も強く、労働者を守るための職業再訓練の道を選んだ。

ドイツの職業訓練制度には誇るべきものがあるが、それは学校学習と実際の仕事経験を組み合わせたもので、330職種に資格証明制度が在る。資格証明が無いと仕事に付けず、面接にも呼ばれないと言うが、証明取得には中央政府や州政府からの支援があり、昨年の政府予算では30億ユーロが計上された。現在、2年以上の失業者の20%は資格証明を持たず、低賃金の仕事を探すしかない。なお、資格取得には3年が必要とされる。

また、時代が円滑に進まない一例として、長期失業者130人を選んで資格取得訓練を始めたところ、アマゾン配送センターの開設で、その内の117人が時給16.50ユーロで資格を持たずに採用された。しかし、数か月後にはその全員が解雇されて失業したというケースがある。

コンチネンタル社ギフホルン工場のケースでは、ヒートポンプ・メーカーが事業拡大に必要として同工場の一部を6,500万ユーロで買取り、300名を採用することになり、所在するニーダーザクセン州からは500万ユーロの補助も出た。更に今週、ウクライナ戦争で事業を拡大する武器メーカー、ライン・メタル社からの申し込みで100名の転職が決まり、同工場の半数に転職のめどがついた。
この転職者は社内の職業再訓練制度の下でスキルアップ訓練をしており、現在28歳から60歳までの労働者が電機工や倉庫管理者、機械工、工場管理者の資格取得に取り組んでいる。訓練は勤務時間中に実施され、受講中にも給与が支払われるが、この訓練においては通常の3年間から数か月に短縮されている。