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【インタビュー】アランSPWS(スミ・フィリピン・ワイヤリング・システムス)労働組合委員長

2024.06.06掲載

「フィリピンにおける企業別組合の運営」

はじめに

アランSPWS労組委員長に、話を聞く機会があった。※彼は、昨年(2023年)5月にJILAFの招請事業で来日し、日本の労使関係について多くを学んでいった。筆者は、今年(2024年)に再会したのである。

彼の会社は、マニラから3時間ほどの距離にあるバターン半島のエコゾーンにある。主に自動車などに装備される様々の端子を結び付けたワイヤーの束(ハーネス)を製造している。従業員は1万人だが、組合員(正規従業員)は約4,200人、他は非正規、派遣社員となる。(フィリピンでは法的に正規従業員のみが組合員である。)私が彼を訪れた時間は午前中だったが、組合事務所にはひっきりなしに勤務明けの組合員が訪れる。「不良品を出して処分をされそうだ」というような苦情処理にはじまり、「家族に病人が出てしまい、治療費などを組合から貸し付けが出来ないか」など様々な相談をしている。組合活動は、相当活発という印象を持った。工場は若者が多いうえ、ハーネス製造では今なお手作業が多く、製造現場は非常に活気があった。基本は3交代制だが、勤務時間は枝線が細かく組まれていた。

Q 会社の経営状況を教えて下さい。

A 注文が落ち込んでおり、経営状況は厳しい。顧客である日本の大手自動車企業が我が社との取引を停止したからだ。残業はほとんどなく、今後どうなるか心配している。最近は苦情が多い。例えば、車が故障し、その原因が当社の製品にあるとする苦情が今年に入って50件も寄せられた。その状況で経営陣から「こういう状況が続けば、会社を別の地域に移動せざるを得ない。」と言われた。ワイヤーの接続を間違えたなどの基本的な過失が多い。会社は、4段階の懲罰(段階1「文書注意」、段階2「戒告」、段階3「10日間の停職」、段階4「解雇」)を持って労働者に臨むが、組合から要請があれば、苦情処理委員会での話し合いとなる。昨年度、組合は一人の解雇者も出さずに済んだ。

ここで製造した製品は全て日本にある本社の管理下にある。日本からこの部品をいくつ作れと指令があり、それに従って製造し、日本に輸出する。兄弟会社はフィリピンにもう2社(SNPWとIWS)あるが、組合間の連携は無い。IWSには全くの企業別組合があり、SNPWは未組織である。

 

Q あなたはどのような経過でこの職場で働くようになったのですか?

A 私はタルラック出身だが、高校卒業後IWSで非常勤職員として働き始めた。2017年に、「もしバターンのSPWSに移れば正規職員にする」と言われ、ここに移った。当時バターンでは正規職員は1,500人しかいなかった。

 

Q あなたの組合の上部組織はPTGWU(TUCP*加盟)だが、どのような関係がありますか? 
*TRADE UNION CONGRESS OF THE PHILIPPINES(フィリピン労働組合会議)

A 組合費は月150ペソ(約402円)である。組合費の半分は我々が使い、残り半分をPTGWUに納める。いろいろ面倒を見てくれ、相談に乗ってくれる。実を言えば、組合結成から私で委員長は4代目となるが、私が初めて選挙によって選ばれた委員長で、それ以前は指名だった。私の前の委員長はラジカルで経営との対立が絶えなかった、私は、労使は相互理解の上で、話し合いで問題解決を行うことを推奨している。2022年選挙で勝ってすぐ、2023年に協約交渉を行い、無事調印、次期交渉は2026年である。

※1ペソ =  2.68円(2024年6月3日現在)

 

Q 会社の労働条件のレベルはどうでしょうか? また、今後の課題は何ですか?

A 現在、マニラの最低賃金は1日610ペソ、バターンでは1日500ペソだが、私は690ペソ貰っている。全従業員平均で600~620ペソを獲得している。正規職員の利点は、年金までしっかりと保障されていることだ。フィリピンの若者は良い給料を提示されると、すぐそちらに移るが、年金まで含めて考えると日本と同じ終身雇用制の方が良い。フィリピンでは、製造業の多くの会社は定年退職が50歳である。50歳では、まだ子供も学校に行っており、お金がかかる。そこから別の仕事と言っても難しく、なにか自営業の仕事を見つけるしかない。製造業の経営者は特に若者を好む。疲れを知らず、タフで、しかも目が良いからだ。次回の協約交渉では、是非とも退職年齢を55歳に引き上げたいと思っている。

 

Q 組合活動は活発との印象を持ったが、具体的にどのような活動を行っているのでしょうか?

A 今後、組合運動を担ってくれる人向けに基礎教育を中心に活動を進めているが、年間に40人を教育しても、4,200人の組合員の約1%だ。まだまだ少ない。エンタメ的要素として、昨年12月ミスコンを行った。優勝者は組合員の相談に乗る仕事を引き受け、多くの人々が組合事務所に寄るきっかけになった。また、今年の3月から5月はバスケットボール大会、6月15日には女性セミナーとLGBTセミナーを行う。ここでは男女がほぼ半々だ。だが、中にはLGBTQIA+の職員も10%程度いる。

毎月一度は組合行事をおこなっている。

 

結論

バターン半島には南にマリベレスという町があり、ここは靴や被服製造など軽工業を中心とした輸出加工区がある。ここエコゾーンは北に位置し、医療用機械やハーネス製造など製造業が集中している。この中で幾つの工場で組合が組織されているのかは不明だが、組合が出来れば必ず条件は良くなるという見本をSPWS労組は示している。(I)