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国際労働運動は「外国の代理人」か?

2024.05.23掲載

ジョージア議会で「外国の影響の透明性に関する」可決

ジョージア議会で「外国の影響の透明性に関する」法案の審議が始まり、首都トビリシでは連日デモと抗議集会が開催されている。この法案は昨年にも審議が始まるかに見えたが、反対運動のため与党は審議を見送った。それが今与党「ジョージアの夢」は、再び法案を提出した。この法案は、ロシアの「外国の代理人」法と似ていると言う理由で、反対派からはロシア法と呼ばれている。その骨子は、活動資金の20%以上を国外からの支援によってまかなっている団体を「外国の代理人」として登録させ、政府の監視を厳しくすることにある。議会も大荒れで、4月15日には与党会派の会長が野党議員に殴られる事件も起きている。サロメ大統領もこの法案に反対しており、拒否権を発動するとしているが、「与党は大統領の拒否権を覆すことができる。」(読売新聞5月2日号)EUもこの法案に懸念を示し、「欧州委員会のクープマン拡大局長は、トビリシで会見し、同法案がジョージアのEU加盟の深刻な障害になると警告した。」(ロイターズ5月3日)ジョージアでは3回の読会を経て、多数決で法案の決定は行われることになっており、5月14日に可決された。

なぜ反対派はこの法案にこれほど激しく反対するのか。ロシアの例が参考になる。

ロシアの「外国の代理人」法

ロシアの「外国の代理人」法は2012年に登場し、その後増補された。このカテゴリーに登録されると、実際上ロシアでの活動は大きく制限される。(自分が外国の代理人であることを示す、公職に就けないなど)以降「権力を有する者が指名する」外国の代理人登録リストは拡大し、現在では316人の個人、81のマスコミ、98の未登録社会団体などが「外国の代理人」に指定されている。この法が怖いのは、政治とは無関係の労働組合までが「外国の代理人」と指定され、組織の清算を命じられることだ。例えば、グローバルユニオンが国際活動支援の資金を使って、ロシアの労働組合に対し、セミナーを企画すると、「外国の代理人」のカテゴリーに入りかねない。例えば、自動車産業労働者地域労組(MPRA)というロシア・カルーガ州を基盤にした労組の例を見よう。(この組織は2013年に改名し、地域労組「労働者協会」となったが、略称は同じMPRAである。)

カルーガ州は、サンクトペテルブルク市近郊の自動車工場が密集した地域で、フォルクスワーゲンやフォードなど多国籍企業が多い。グローバルユニオンのIMF(国際金属労連は後に統合し、2012年インダストリーオール・グローバルユニオンとなる)は、労使協調色が強い旧ソ連式の労働組合運動に代わって、西欧式の労働組合運動を導入すべく、ここで様々な教育活動に取り組んでいた。IMFの働きかけもあり、ロシアの自動車労働者とブラジルの自動車労組が交流するなどの事業も行われ、ロシアの自動車労働者は独自の労働組合を結成するに至った。これがMPRAであった。組合結成後2007~2010年、フォルクスワーゲンでは大幅な賃上げを勝ち取る、労使協議会で10議席中8議席を獲得するなど、次々と成果を上げた。しかしこれが問題を引き起こした。州当局の利権との衝突である。2016年国営の地域テレビ局NIKAテレビで、MPRAが外国の利益のために活動する団体だとする「労働組合の力学」という番組が放映された。番組の中でドイツのフリードリヒ・エーベルト財団(社会民主党系の財団)、ローザ・ルクセンブルク財団(ドイツ左派党系の財団)がMPRAを支援しており、ロシアの政治に反対する組織とフレームアップされた。この番組の放送後、MPRAは「外国の代理人」として訴えられ、2018年1月サンクトペテルブルク地方裁判所は、これを是とする判決を下し、組織の清算を命じた。「労働組合が外国の資金源インダストリオールから資金を受け取っていたという事実から、外国からの資金提供を認定した」のである。この判決に対し、組合は即上訴した。2018年5月最高裁は、地裁の決定を覆し、組織の清算は認めないとした。現在MPRAは規模を縮小して活動を継続している。

このようにロシアの「外国の代理人」法は、国際労働組合運動に対し、死活的な影響を持つ。過去この法を適用された組合は、教職員組合に適用されたていどで、労働組合に対する適用は権力の側も注意はしているようではある。これは推測だが、労働組合組織に対する弾圧はILO結社の自由委員会で取り上げられるからであろう。しかしこの法が労働組合を抑圧する悪法であることは論を待たない。現在ロシアでは、検事総長がインダストリオール・グローバルユニオンやITF(国際運輸労連)を「望ましくない組織」と指定するなど、別の形で締め付けを始めている。(インダストリオール声明2024年3月9日)(ITF2023年9月13日)

ジョージアでなぜ?

ジョーアにも同じタイプの法が導入されるとあって、今反対運動が盛り上がっているわけだ。しかし、なぜジョージアの与党は反対が多いこの法案の導入をこれほどまでに急ぐのであろうか。今ジョージアの国論は完全に二分している。今年10月に行われる総選挙が焦点である。労働組合もこの法案に対する意思表示をしていないかに見える。しかしこの法案がジョージアで採択される影響は大きい。自由で民主的な労働組合が他国で障害にぶつかる可能性を大きくするからだ。外国の代理人というレッテルを張る行為は、国際労働運動自体を根本的に揺るがすことに繋がろう。

(I)


参考文献

  • ロシアの外国の代理人リスト

Список иностранных агентов (Россия) — Википедия (wikipedia.org)

Список иностранных агентов (Россия) — Википедия (wikipedia.org)

  • MPRA関係「いかに「外国の代理人」と認識された労組は、自らの権利のために闘うのか?(2018年5月1日ドイチェヴェレ・ロシア語版)

Как профсоюз, признанный “иноагентом”, борется за свои права