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ミシュラン・タイヤ社が生活可能賃金を保証

2024.05.20掲載

4月18日のヤフー・ファイナンス、26日のニューヨーク・タイムズ(NYT)が標記記事の中で、労働者の生活可能賃金を保証し、経営報酬を抑制するミシュラン社の取り組みを紹介している。

134年の歴史を持つフランスのタイヤ・メーカー、ミシュランがパンデミックで工場閉鎖を余儀なくされた時、アジアと欧米の十数万におよぶ労働者の生活困難が明らかにされ、同社は処遇改善を公約した。同社は世界26か国に131工場を保有し、約132,000名の労働者を雇用する。

その同社が先週、「社会計画の一環として、世界の如何なる労働者も生活に困窮することの無い公正な賃金を保証する」と宣言。 同社メネゴーCEOは「労働者がサバイバル・モードに置かれた状態は大問題だ。企業の不平等な所得配分に問題がある」と述べ、「生活賃金は労働者に支払われるべき賃金の最低額のことである。公正賃金とは、家族4-5人がきちんとした生活ができる、つまり基礎的な生活費や衣服や食費、レジャーの後にも若干の貯金を残して月末にお金が無くならないという国連指針に沿った金額だ」と説明した。

これについてフランス国内では「公正な賃金とは何か。他社も追随すべきか?」の論議が拡がったが、労働組合からは「ミシュラン社の保証は不充分だ。レイオフや工場閉鎖への保障もない」との指摘も出ている。
マクロン大統領からも、ミシュランの宣言に対しての賛同の発言があったが、国内では最低月収とされる1,766ユーロ所帯が数年前の13%から現在17%に増加しており、アッタル首相は業界代表に呼びかけて、最低賃金を上回る賃金支払いを要請している。

従業員への生活保障賃金を公約するフランス企業にはロレアル化粧品もあり、仕入れ先にも同様方針を要請、一般消費財のUNILEVER も同様の方針を掲げる。しかし、世界経済フォーラムによると、世界有力企業で同様の方針を持つのは4%に過ぎないとされる。

ミシュラン社では過去8%の退職率が2022年には13%に上昇する。スイスNGOによる同社工場の給与調査の結果では、世界で5%の約7,000名の従業員の賃金が不充分と判定された。
そのため、同NGO作成の居住都市生活費給与表に照らし合わせ、北京では年収69,312元(約9,000ユーロ)に改定、米国サウス・カロライナ州では年収40,000ユーロに改定した。フランスでの法定最低年間賃金は21,203ユーロだが、パリ工場の労働者年収は39,638ユーロ、本社所在の物価の低い中西部のクレルモンーフェランでは25,356ユーロと改定した。(1ユーロ=約160円 2024年5月8日現在)

それでも同社株価は過去5年の中で最高値にあり、賃金引き上げによる会社イメージ・アップと生産性向上に期待を強める同社社長は「きちんとした給与の下では、皆が一生懸命に働き、良い仕事をするようになる」と語るが、ある有識者は「同社の方針は資本主義の弊害に道徳の光を当てる。資本家は労働により価値が生まれると言いながら、価値を造り出す労働者への分配への反映はほとんど無い。各企業はその点を反省すべきだ」と指摘する。

フランスでは、労働者の半数の税引き後月収は2,100ユーロ以下(税除く)、1,500-2,800ユーロが中級、3,900ユーロ以上は高給とされる。一方、国会では、経営者報酬は従業員最低賃金の20倍以内に抑えるべきとの議論がある。
事実、フランス・プジョーが参加する自動車メーカー、ステランティスの社長の2023年報酬が従業員平均給与の365倍に当たる3,650万ユーロと発表され、怒りの声が出た。他方、ミシュランの社長の2023年報酬は業績ボーナスを含めて380万ユーロと計算されたが、社長は110万ユーロに減額して欲しいと要請した。
他方、大手労働組合の連帯労組連合(Union Syndicale Solidaires)は「2023年の同社業績は記録的な売り上げと36億ユーロの利益、12.6%の利益率をあげ、自社株買いに5億ユーロを使っているが、生活賃金への予算は少ない。パブリシティの裏に多くのことが隠されている。本社工場の労働者の手取り月収は1,700ユーロで4人家族を養うためには、福祉手当てが必要な状況だ。公正賃金とは程遠い金額だ。」と批判する。
一方、メネゴーCEOは「会社資産を、労働者に分配するか、自社株買いを減額するかは、難しい問題だ。良い会社にするか、会社を困難にさせるかは会社の社会への貢献度による。世界的に見て、資本主義には行き過ぎはあると思うが正しいと思う。従業員給与が将来を支えるものでなければ、それも問題だ。」と語る。