米国フォルクスワーゲンで圧倒的多数によるUAW承認、波は広がるか?
4月19日と20日のニューヨーク・タイムズ(NYT)、ワシントン・ポスト(WP)などが「テネシー州チャタヌガのVW工場における圧倒的多数でのUAW誕生」について次のように報じた。
今回のVW工場における労働組合結成投票は3日間の日程で実施され、賛成2,628票、反対985票でUAWが承認された。過去10年間に2回の失敗を重ねながらの今回の成功は米国における外国自動車企業最初の労働組合誕生として特筆すべき出来事である。
また、数十年にわたり反労組気運が強かった南部諸州に風穴を開ける事にもなったが、この成功はUAWが6か月前、デトロイトメーカーとの交渉で記録的な賃金労働条件の改善を成し遂げた影響が大きい。
UAWは過去80年以上にわたってGM、フォード、ステランティス、そして南部諸州の重量トラックやバス会社の労働者を組織してきたが、南部地方の20以上に及ぶ外国工場の組織化には失敗を重ねてきた。UAWは今回の勝利を力に、改めて外国工場の組織化に力を傾注する構えで、次の予定としては5月半ばのアラバマ州メルセデス・ベンツ工場(6,100名)があるが、今後2年間に6か所以上の労働組合結成を目指して4千万ドルの組織化のための予算を用意した。
この試みが成功すれば、南部諸州だけでなく全米の自動車産業労働者に大きな影響を与えることになるが、特に低賃金に置かれている非組合従業員の大幅な賃金労働条件改善と雇用の安定が図られることになる。UAWの新協約では、工場閉鎖にはUAWへの事前通知と追加失業給付が義務付けられた。(GM、フォード、ステランティスが該当。非組合のトヨタ、ホンダ、日産、テスラ、ヒュンダイなどは該当していない。)
カリフォルニア大学バークレー校のシェイケン名誉教授は「UAWの外国工場の組織化の成功は、自動車産業に転換をもたらすとともに、組合の無い他産業労働者へも大きな影響を及ぼす」と述べたが、他の労働専門家からも「ハリウッドやスターバックス、UPS、医療のカイザーなどに続く今回の成功で、労働組合結成への熱意は全米に広がる可能性がある。労働組合が怖いものではないという意識も生まれている」との声がある。
事実、ギャロップ世論調査では70%が労働組合を支持して、10年前の50%から大幅な上昇を見せ、2022年の組合員数は28万人増加、昨年も19万人増加した。しかし組織率の点では、労働人口がそれ以上に増加したため、2022年の11.3%が23年には11.2%に低下した。
現在のVWチャタヌガの最高時給は35ドルとなっており、デトロイト3社の40ドルに比較して低い水準にある。3社においては、医療保険の全額会社負担、利益分配制度、物価上昇を補う物価調整手当、高額年金、有給休暇の増加など、処遇改善の余地は大きい。他社からVWに高い賃金で転職した従業員の中には、一層の処遇改善を期待したと言う人もおり、UAWへの期待は大きい。
VWの有給休暇については、夏季とクリスマス時の工場閉鎖の際に使うことが多く、病気や家族などへの対応には数日しか残らないとの不満がある。3社協約では最高5週間のバケーションと19日の有給休暇、2週間の育児休暇の制度がある。
また、労働組合に反対した従業員の中には「UAWに何が出来るのか分からず、保障もない。成果と共に失うものもあるのではないか」との疑問を口にする。
政治面では、投票開始時期にアラバマ、ジョージア、テネシー、ミシシッピ、サウス・カロライナ、テキサスの各州知事(共和党)が共同声明の中で「労働組合結成は自動車産業の雇用に悪影響を与える。労働組合結成は、産業を発展させるための高賃金雇用維持を阻害し、労働者に損害を与える」と主張した。
これに対し、UAW反対の従業員でさえも「労働組合結成でチャタヌガ工場が危ないなどということはない。また、VW投資は巨額なため、工場閉鎖や他への移転などあり得ない。」と語る。
VWの工場は2011年に開設され、現在5,500名の従業員を持つが、労働組合結成投票の有資格者は4,300名、世界で労働組合が無い唯一の工場でもある。
またVWはドイツの強力な労働組合の、IGメタルの影響下にあるが、ドイツでは共同決定法という法律により経営に対する労働者の発言権が義務化され、会社取締役会に匹敵する監査役会の議席の半数は労働者代表が占めている。
反面、コーネル大学のカッツ教授は「対組合政策がそれほど友好的ではない他の外国メーカーからはかなりの抵抗が予測される。また1950年代の独立部品企業の95%に労働組合が存在していたものが、現在5%に低下した実情を考える必要がある」と指摘する。