外国自動車工場の組織化、UAWの賭け
全米自動車労働組合(UAW)による外国自動車企業への労働組合結成について、2月21日のUAWニュース、3月2日のニューヨーク・タイムズ(NYT)は次のように伝えている。
昨年のビッグ3との労使交渉を終えてフェインUAW会長は「2028年の協約交渉時の相手はビッグ5かビッグ6になる」と言明して、外国工場の組織化に強い意欲を示したが、最初のテストケースがテネシー州チャタヌガのフォルクスワーゲン(VW)工場となる。
UAWはVW工場の従業員4,000名の半数以上の署名を集めたとされ、労働者はビッグ3と同様の賃上げと有給休暇の積み増し、医療保険の充実を要求していると言う。
他方、VWはUAWのストライキ直後に今年の賃上げ11%を発表、最高時給を32.40ドルに引き上げたが、ビッグ3の4年協約最終時の最高時給は40ドルを超えると言われる。
労働組合は過半数の賛成があれば結成できるが、過去の失敗からUAWは、署名70%獲得と各職場に組織委員会を確立するまでは、労働関係委員会への申請は行わない方針だとという。
大きな課題は今回、アラバマ州でのメルセデス・ベンツ工場(50%以上の署名獲得)やヒュンダイ工場(30%以上の署名獲得)など、多数の外国工場組織化を同時進行させていることである。
こうした事態にUAWは先週、2026年までの自動車工場とバッテリー工場の組織化に従来を遥かに上回る規模の4千万ドルを計上した。UAWニュースは「これからの2~3年でバッテリー産業には数万名が新規雇用され、オンラインによる新たな基準が造られる」と述べる。
自動車労働問題の専門家は「VWが勝利すれば直ぐに他の工場に広がるだろう。今迄の組織化失敗は労働者が組合に反対したためではなく、結成できるとは思わなかったからで、結成成功となれば事態は大きく変わる。しかし、失敗となれば労働者の気持ちを砕き、他の工場では対策を強化することになる。また、テスラはとりわけ難しいケースになる。社長のイーロン・マスクはこうした変更を嫌う」と指摘する。
トランプ時代やパンデミック時の停滞のあと、労働組合は活気を取り戻しつつあり、全国労働関係員会によれば、昨年の労働組合結成は過去10年で最高の1,225件、失敗は500件にとどまった。世論調査では若者の支持が高く、ヒュンダイ工場の組織化に働く労働者は「若者の支持は励みになる。組合結成により若年労働者でも高い賃金が得られること、その後も賃上げが続くということを話している」と語る。
VWの若年労働者は就職後の1~2年に貯めた12日~13日の有休休暇が工場休業時のために使われることがフラストレーションとなっているというが、工場担当者は「そこは理解しており、緊急時の有給休暇を増やした」と語る。先月同社は物価上昇の倍額となる賃上げを発表したが、今年の平均労働者の年収はボーナスや残業代抜きで6万ドル以上、医療保険はコストの80%をカバーし、保険負担は2,000ドル以下だとした。
VWの組織化は2014年に行われ、世界各地の労働組合を持つ会社からの反対はなかったが、同州共和党から「労働組合は企業の発展を阻害する」との反対で結成は失敗した。2019年にも人員不足や障害事故の多発、残業増加の苦情などで再度組織化に着手したが、テネシー州知事や当時の同社社長の消極的な態度で組織化は僅差で失敗した。
UAWはこうした失敗を繰り返さないよう今回、職場125か所以上にリーダーを配置して噂や会社発言を探知することにした。「労働組合は会社の発展を阻害する」とする外部グループや友人・親戚の話から、労働者が後ろ向きになることへの対策である。
電気自動車(EV)が注目される現在、米国VWの売上げの11%以上をEVが占めているが、チャタヌガ生産のコンパクトSUVはEVであり、その比重は年々重くなると見られる。
ブルームバーグ社の自動車専門家は「量産増大となれば、バッテリーの製法改良やその量産効果も伴って労務費の上昇は吸収され、労働組合のコスト上昇にも耐えられる」と言う。
他方、別の専門家はEV生産に必要な労働力が少数で済む点について「労働組合が減員に反対すればレイオフ(一時雇用)でなく、移動ということになる」と指摘するが、VW担当者は「同工場ではすでにバッテリー組み立てとエンジニアリング部門で人員を増強した」と語る。
先月の記者会見でVW社側は「労働組合選挙では中立を守るが、中立は沈黙ではない。従業員の決定には公正な立場をとる。労働組合による賃金や労働条件についての誤情報は正してゆく」と言明したが、UAWニュースは組合潰しの不当労働行為を伝えている。
ある労働者は「労働組合に懐疑的な管理職は一般会社の宣伝パンフレットは片づけないのに、組合資料は直ぐに片づけてしまう」と言うが、会社は「整理・整頓が会社の方針だ」と述べる。