政府を味方の労使協議会、NYTが米・英読者の意見募集に乗り出す
1月17日のニューヨーク・タイムズの動画に2回掲載された「多くの労働者について労働組合が機能しない現状に必要なのは、政府も含めた労使協議会だ」とする意見記事だが、続けて25日、米・英両国の読者からの意見を募集するという異例の展開を見せ、労働運動改革に向けた世論喚起の大事業の始まりを予感させた。
3名の記者が記述する社説に近いこの記事は「世論調査による労働組合への支持が71%に高まりながら、労働組合の組織率が過去最低に落ち込んでいる理由には、50年にわたる大企業と政府双方からの攻撃がある」と指摘。「こうした事態の解決と労働運動強化への早急な対策として、Minimum Standard Council(最低労働基準協議会)の導入がある。これは職種別(industry)に労使協議会を設置し、政府機関を交えての賃金諸手当や安全基準の交渉(negotiations)を行う制度であり、労組結成が出来ない数千万の労働者を守り、労働運動に活力を与える」と述べている。
こうした労使協議会は、全米の12か所で制定されている。協議会の中には、カリフォルニア州のファスト・フード労働者対象のFAST法、ミネソタ州の在宅介護やニューヨークのネイル・サロン、また、シアトルの家政労働者への法律がある。
こうした動きを主導する国際サービス従業員労働組合(SEIU)では、賃金不払いや各種ハラスメントなどの労働基準違反に対する摘発を行い、「過去数年間、1日13時間、週6日働かされた家政婦に7万1千ドルの賠償を獲得した。」という事例がある。
FAST 法はファスト・フード業界を対象に最低労働基準を監視する政労使協議会を設置するもので、政府委員2名と労働者、使用者代表の計10名構成となるが、最高時給22ドルと、その後の物価調整などの労働条件の改定、賃金や残業代不払いの摘発活動などを定めて2022年に成立した。しかし、業界からの強い反対による多数の署名により、実施の有無は2024年11月の総選挙時に合わせた住民投票に委ねられている。反対派は協議会法により食品価格が20~30%値上がりすると主張、賛成派は2%程度に止まるとしている。
また2022年2月18日の雑誌CAP20によると、2018年以降、政労使を大半にして、一部には住民代表を含む労働基準協議会が4州と3都市(NY、ミシガン、コロラド、ネバダなど)で制定され、家政、運輸、農業、在宅介護、看護施設などを対象に、最低賃金だけでなく労働条件にも幅広い監視の目を広げ、その勧告には労働者側の声も強く反映された。また、議会答申などを通じて法的拘束力に繋がることから、労働者の関心と協力も高まり、企業活力も増進されていると述べている。
これら協議会は企業単位でなく職種別だが、企業は賃金を低くおさえようとする意識から、生産性と革新に目が向くことから、劣悪な労働条件を排除するという結果にもつながると言う。
この他に、労使協議会の必要を説く論議は2022年に発表された共和党のマルコ・ルビオ上院議員による「労使チームワーク法(TEAM)」法案がある。これは、全企業を対象に、労使協議制を義務付け、企業段階での労使話し合いを提案し、協議会設置の是非は労使合意に委ねるなど、使用者側の反対も予測して柔軟な対応を規定している。それだけに労働者の声を無力化させる恐れも強く、慎重な取り扱いが求められる。
いずれにしても、貧富における経済格差の拡大と所得分配の不平等が大きく問題視される現在、労働者の発言権を拡げることが急務だが、協議会が、産業別か職種別、企業別、くわえて政府機関も交えるかなど検討することは多い。
ここで、NYTが紹介する「政府を交えた地域の職種別労使協議会」が重要な指針を与えてくれる。政権交代が激しい米国の立法段階では、労働組合への共和党からの敵意も見られるが、一旦、労働基準が法定化された後は行政府が守り神となる。大多数の労働者が働く中小企業で、賃金不払いや各種ハラスメントの多発が指摘される中、上述の家政婦に対する7万1千ドルの賠償例にあるような最低労働基準を守る活動を梃にして、行政を味方に付けた労働運動が可能となる。
企業段階での労使協議制の確立を目指しながらも、地域における政労使による労働条件改善の同時進行の重要性をNYTなどで読み取ることができる。
またNYT記事が紹介する「労使協議法が、行政機能に加えて労使交渉機能を持つ」とする点にも注目したい。しかし交渉には協議以上の要求と言う意味があり、労働組合の交渉の場合には争議行為を伴うことがある。労使協議会が交渉権限を持つことは通常あり得ないケースだが、NYT記事では何処の法律かは明らかでない。