スウェーデン・テスラのストライキは労使合意重視体制との文化衝突
12月27日のニューヨーク・タイムズ(NYT)、29日のワシントン・ポスト(WP)などが「スウェーデン・テスラ・サービス工場の団体協約締結要求のストライキは2か月を過ぎた。スウェーデンの労使合意体制と米国企業とのカルチャー・クラッシュともいえるが、スト支援は北欧諸国にも拡がっている」と報じている。
ストライキ中のテスラ技術者達は「マスク社長の意図は理解するが、スウェーデンの企業文化*も受け入れて欲しい」と語る。「現在、会社からは、米国モデルの週6日労働、慣習化された残業、不透明な昇進基準を押し付ける。ただ、働け、働けというだけだ。」と話す。サービス工場は13か所、サービス労働者は130名といわれる。
(*)スウェーデン企業文化とは数十年にわたり定着したスウェーデン・モデルと呼ばれる企業利益共有のための労使協力を言う。
テスラ労働者を組織するのはIFメタル労働組合だが、ストライキを支援する動きはフィンランド、ノルウエー、デンマークの北欧諸国の少なくとも15組合、数万名の労働者に拡がっている。具体的には、港湾労働者は車の積載作業、運輸は同社製品の輸送、郵便は郵送物やライセンス・プレート郵送、電気関係では充電設備へのサービス提供、会社施設の清掃や廃棄物集荷のストライキが実施されている。
スウェーデンは65%という高い組織率を持ち、労働者の90%が団体協約の適用を受ける中、総合的にストライキは少なく、目指す労使合意に基づく企業運営への世論支持も高い。しかし、今回のストライキが長引くにつれ、目指す労使合意が企業の柔軟性や機敏性を阻害するとの議論も出ており、テスラ愛好クラブ(5万名)は資金力と政治力を持つ労働組合のパワー・プレーだと、批判をしている。
スウェーデンでのテスラ車は、ストライキの影響で滞っている部分を別の顧客に依頼するなどの対応により、売り上げが減少するなどの変化はない。一方では、IFメタル労組との団体協約に加入する独立の板金工場など、連帯ストライキ条項に縛られて、テスラ車の修理が出来ないことなどに疑問の声が出てきている。
スウェーデンの法律では、労働組合が連帯ストライキを宣言した場合、協約加入メンバーはそれに従うことになっている。
この点でNYTは、自由市場を主張するシンク・タンクが「連帯条項は行き過ぎだ。そこには平等性がない。」「テスラ同様に急成長する、2006年ストックホルム創業の配信企業SPOTIFYに団体協約が無い」と指摘したと紹介している。
スウェーデンでは、労働条件を法律ではなく団体協約で決めており、最低賃金の法的規定はない。また労使協定発効時にはストライキは出来ない。2010年~2019年の1,000人当たり年間スト損失日は僅か2日、ノルウエーの55日、フランスの128日に比較して極端に少なく、欧州諸国の中では最も少ないと言われる
IFメタル労組のニールソン会長も、ストライキの経験は1995年に米国玩具メーカーのトイザらスが団体協約を拒否した6か月間だけで、今回のテスラのストライキはそれ以来だと言う。「団体協約以上の労働条件を提案した。」と主張するテスラに対しニールソン会長は「そのような提案はない。」と否定している。
またNYTによれば、ストライキの労働者たちは電気自動車へのマスク氏の革命的才能を称賛しながらも、「労使合意を重視するスウェーデン・モデルと戦闘的なUAW(全米自動車労組)とを混同するのは間違いだ。IFメタルはUAWではない。国が違えば労働組合も違う」と述べた。
またWPによれば、デンマークの運送、港湾組合(5万名)の委員長は「マスク氏がスウェーデンで妥協しないのは米国への拡大を懸念するためだ。」と言う。ベルリンに近いドイツ工場では11,000名が労組結成への動きを見せ、UAWも米国工場での組織化に動き出している。
現在の状況は、会社側が十分な資金力を持ち、労働組合が130%のストライキ手当を支給する中で長期化の様相を見せているが、テスラ愛好家クラブからは「殆ど全ての工場で操業が続いており、ストライキは13~14名程度なのではないか」との指摘もある。一方、スト労働者は「代替え労働者が雇われた。」と言う。