UAWストライキに暫定合意、自動車だけに止まらないその意義
10月31日のニューヨーク・タイムズ(NYT)、ワシントン・ポスト(WP) などが「UAWがデトロイト3社と暫定合意に達した。この6週間のストライキで勝ちえた交渉と協約は労働組合の優位性を示す先例として、他の労働組合に大きな影響を与えると思われる」と報じている。
フォードのケース、今回合意で組合員は4年半で25%の賃上げ、熟練工は現行の時給32ドルから42ドル、年収にして84,000ドルを実現し、その上に約10%の物価調整手当がつく。他方、初任給については68%の引上げ、2工場では格差賃金の廃止、パート労働者には協約期限までに150%賃上げ、退職者年金の増額などとなっている。間もなく明らかとなるステランティスとGM協定についても内容は同様と見られ、組合員の承認投票を待つ。
今回の交渉を通じてUAWは、特定1社を先行させてその結果を他の2社にも適用する88年来のパターン方式を捨てて、全会社を対象に限定した工場にストライキをかけ、その後ストライキを拡大、交渉進展の会社には柔軟に対処しつつ、最終的には45,000人が9工場、38部品供給センターでストライキを行った。
UAWのフェイン会長は今回の交渉を通じて「真に富裕階級と対決し、国民多数に資する経済を再建するためにはUAWだけでなく全労働組合が力を合わせてストライキに取り組まねばならない」と語っていた。そしてフォードとの暫定合意が成立したときには「全米の労働組合が協約期限をUAWと合わせるよう要請したい」と述べた。
各労働組合がそれに呼応するかどうかは別にして、会長はその野心的な戦略を絵にかくようにデトロイト3社すべてに対し同時ストを展開した。そして数十年来最高の賃上げと諸手当の改善、そして会社窮乏時に譲歩した低額初任給の撤廃という成果を獲得したが、会長は繰り返し「全労働者のための戦い」を口にしながら、経営発言という大きな成果も実現した。
労働専門家は「UAWが3社と結んだ協約はUAW組合員を越えて大きな波及効果を及ぼす」と見ており、NYTが引用するカリフォルニア大学のリヒテンスタイン教授は「UAWの歴史的勝利は大きな変化を起こすだろう。長年、ストライキには用心すべきと教えられた労働者に、ストライキによる大きな利益を基幹産業で示す事になった。今まで経営者の専権事項とされた経営方針について労働者にも発言権がある事を主要労働組合が示した。投資に関する社会・政治的決定権を取り戻したことであり、左翼勢力が1世紀にわたり渇望したことだ」と見解を述べる。
事実、暫定合意には工場閉鎖反対のストライキを容認するという、経営決定に対する労働組合の発言権承認が盛り込まれ、関連してステランティスでは、閉鎖したイリノイ工場の再開と組合員の再雇用という譲歩も実現できた。この点について会社側弁護士は「こうしたストライキ条項や工場再開は今まで聞いたことがない。あり得なかったことだ」と語る。
その上に、UAWは未組織の工場へのUAW組合員の転籍を認めさせた。それはフォードが建設中のミシガン州とテネシー州のバッテリー電気自動車工場への組合員転籍で、そこに組合が結成されたときには全国協定が適用されるとするもので、労組承認投票の有無を問わないとされ、他の労働組合にも大きな影響を与えると思われる。
UAWにとって新規組合員の獲得は生死にかかわる問題だが、今回の合意はそれを促進できる機会を作り出したと言われる。UAW幹部は「今、EV工場で組織化に動き出さなければ、これからの交渉での大きな勝利は望めない。テスラ、トヨタ、フォルクスワーゲン、ヒュンダイでの組織化にも取り組む」と希望を語る。
労組組織化を支援する民間団体のある幹部は「電気自動車などで政府援助を貰っている企業については特に、政治家に賃上げの必要性を訴えるなどの機会が出来る。個人乗用車だけでなく配送車、大型バス、鉄道にまで広がる大きな分野だ。UAW新規協定のこの機会を利用して、労働組合の底上げが何処まで出来るかが課題だ」と語る。