2023年度 コロンビアの労働事情(中南米チーム)
本労働事情については、ナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき「労働事情を聴く会」、参加者との意見交換を基にまとめたものである。
参加者情報
コロンビア労働組合連盟(CTC)
・国民貯蓄基金職員組合国際部幹
・コロンビナ労働組合
1.はじめに
現在、コロンビア国内では、3つのナショナルセンター「コロンビア労働者総連盟(CTC)」、「労働者中央連合(CUT)」、「労働総同盟(CGT)」が存在し、労働者のための法案による労働改革を推進している。近年コロンビアでは、新自由主義イデオロギーの下で、労働の柔軟化、大企業のための減税、社会福祉事業の予算削減などにより、貧困が大幅に増加している。貧困率は全国レベルで12%、失業率は今世紀平均で10%を超え、ジニ指数は継続して0.50を上回っている。さらに、パンデミック後に、コロンビアや他の国々が抱えている課題を考慮する必要があり、過去数年間の逆行的な政策により失業やインフォーマル労働が顕著となり特に女性に深刻な影響を与えている。以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。
2.コロンビアの労働事情
(1) 社会保障制度
コロンビアの社会保障制度は総合社会保障制度 (SGSSS) に基づいている。この制度は 1993 年の法律100号によって設立され、すべてのコロンビア国民に社会的な保護を提供することを目的としている。
◎保健医療制度:
医療提供機関および労災保険会社を通じて保健医療サービスへのアクセスを保証している。制度の加入者は、医療、投薬、入院、予防医療サービスを受ける権利を有している。2つの制度があり、支払い能力のある人を対象とした拠出制度および低所得者を対象とした補助制度である。
◎年金制度
確定給付制度による定額年金と連帯制度による個人貯蓄制度がある。加入者は在職中に掛け金を支払い、一定の要件を満たすと毎月年金を受け取ることができる。
◎労災制度
労災保険会社がこの制度を管理し、仕事に関連する事故や病気を患う労働者に医療、補償、リハビリテーションを提供する。
◎デジタル化、スマート化への対応
急速に発展するデジタル化社会に適応するため、労働組合のオンライン業務を積極的に展開するなど新しい形態を構築している。
これらのコンポーネントに加えて、SGSSS は、低所得世帯に給付金を提供する家族補助金システムや、子供、高齢者、障がい者への支援を含む社会補完サービス制度も提供している。
(2)直近発生した問題視されている労働争議(その1)
直近の労働争議はマルチレベル(産別・単組)交渉で発生した。コロンビアにおける労働改革の提案では、マルチレベルは新しい提案であり、正式に合法化されたものではなかったとはいえ、交渉について議論することは違法ではなかった。最終的には、対話・合意に基づき、間接雇用契約を減らすプロセスなどの際立った成果を得ることができた。
(3)その労働争議の経過と結果(その1)
成果としては、法定外手当の調整や組合幹部の専従合意、さらには、組合員3,200人以上の賃上げなど協定に前進がみられ、何年も待ち望まれたことが実現し、派遣労働を正規化した。
2022年11月、組合の活動により、正規労働化協定が結ばれることになった。これにより、900人の労働者(多くが若者で、派遣労働から無期限雇用契約に移行)が、尊厳ある労働条件で働くことができるようになった。
(4)直近発生した問題視されている労働争議(その2)
国民貯蓄基金の職員の 60% 以上は派遣会社からの派遣労働者であり、特に雇用の安定性や社会保障などで、労働者としての同等の権利を有していなかった。2022年、職員の数が増員され、無期限雇用で直接雇用されることになった。コロンビアでは労働者の50%以上がインフォーマル部門での労働や不安定雇用であるため、労働者の間の競争を悪用する雇用主が有利となり、労働者は失業を恐れて仕事を辞めることができない、あるいは他に選択肢がないため品位に欠ける仕事を受けざるを得ないという前提の下、保証や権利が損なわれた仕事の提供が増えている。争議の原因と経緯としては、派遣会社の職員は同じ仕事をするが、同じ労働の保証は与えられなかった。今日に至るまで、国家機関は労働者に対する責任を軽視してきたため、労働者は新たな労働契約により、簡単に解雇されるなど契約上の権利も失われた。
(5)その労働争議の経過と結果(その2)
国民貯蓄基金の職員増員については、1,000人以上の増員枠があった。この増員により、組合員の数を大幅に増やし、貯蓄基金職員組合が基金の唯一かつ多数を代表する組合であり続けることができた。また、基金が新たに直接契約を採用したことにより、労働組合の交渉の成果である労働協約を、派遣のため以前は対象外であった全ての労働者に適用できるようになった。
(6)労働法制
◎現在の労働法制
コロンビアの労働法は、労働者に平等な機会を保証し、あらゆる種類の労働契約を履行し、労働契約は労使の国籍に関係なく法律にのっとり履行される。労働法の主要な側面には、労働制度の法的側面の中で、特に、労働報酬、労働契約の期間、社会保障制度、労働時間、労働契約の種類などの規定がある。労働改革では、労働契約、労働時間、夜間および日曜の割増料金、派遣労働、農村労働、デジタルプラットフォーム労働、男女平等、団体交渉、ストライキなどの側面で労働法の変更を提案している。コロンビアの 2021 年法律では、今後数年間で週労働時間を48時間から42 時間に段階的に削減し、この法律の発効日2023 年7月15日に、週労働時間は 48時間から47時間になる。
◎労働法改正の動向
労働法の合憲化に向けて労働の柔軟性の問題が議論されていることから、雇用契約の本質的な要素としての労働関係や雇用契約に関しては現在多くの見直しが行われている。例えば、パンデミック後の在宅勤務の定義、在宅勤務の概念および実際の実施、派遣労働とアウトソーシング、契約関係、労働者の最低限の不可侵の労働権の遵守、および遡及的制度を伴った労働の権利の経済体制、並びに合法性および典型性の観点からの正当な労働懲戒手続き等、その他の基本的側面。更には、総合社会保障保険制度 (SGSSS) に基づくコロンビアの社会保障制度などである。