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ジョージア旅行業労働組合の挑戦

2023.10.10掲載

ジョージアは、コーカサス山脈の南のふもとにあるおよそ北海道程の面積を持つ国である。風光明媚なこの国では伝統的に観光業が盛んで、GDPの大きな部分を占めている(約10%)。過去には近隣国であるアゼルバイジャンとアルメニアからの来訪者が多く見られたが、2016年からは中東各国からの来訪者が増加し、現在ではインドやタイなど、多角化が進んでいる。また、ロシアによるウクライナ侵攻以降は、当該国からの来訪者が目立っている。
コロナ危機においては、この国の観光業界にも大打撃を与え、一時、海外からの来訪者は80%減少した。その後、コロナ危機が落ち着きをみせた2022年には状況は好転し、2022年の11カ月には前年同期と比べ144%伸びた(「ジョージアのツーリズム産業」TBIキャピタル2022年)。「アジェンダGE」によると、観光業は2024年には60億ドルの収入をもたらし、新たに15万人がこの業界で働くと言う(2023年9月19日)。2023年現在での労働者数を測るのは難しいと言われているが、旅行業労組委員長グレゴリー氏が言うには、およそ25万人が働いているとのことだ。

そんな未来を約束されている観光業も問題は多い。一般に観光業で働く労働者は、ホテルやレストランの従業員、ガイド・添乗員、売店の従業員などからなるが、多くは自営業である。そのため失業、健康保険や年金などで不安が多い。

先述にあげた、グレゴリー氏とは、こうした問題に対処するために立ち上がった人物である。旅行業労組のアイデアを同僚と話し、まず組合として承認される条件である25名を集め、国家登録局の承認を得て、今年3月に第1回大会を開催するまでに持ち込んだ。自身に加えて、2名の副委員長を置き、あわせて9名からなる執行委員を選出し、規約などを承認した。現在、組合員数は109名と言う。組合費は10ラリ*(約560円)である。勿論グリゴリー氏自身ガイドとして働いており、専従者を雇用するなどは夢物語である。現在の観光産業で働く多くの労働者は、まずは、この試みが成功するかどうか、成り行きを見守っていると言うところであろう。(2023年9月12日インタビュー)
今、重要なことは、多くの人々が組合が出来たと言うことを知っているということである。同じくガイドの、フェデリコ氏は「我々は組合を持っている。私もメンバーだ。」と誇り高く語っていた。組合の設立が、人々に勇気を与え、組合の活動を注視しているのであろう。*1ラリ=55,044円(2023年10月6日現在)

旅行業界にとって現在の最大の問題は、旅行業法案である。国会の委員会で、6月に第1読会を終え、正式に法とする事が決定された。その上での国会審議がこれから始まる。法案は、旅行業に広く網をかけ、経営、旅行業者としての登録、破産の防止、登山など高いリスクのある旅行業の規制、ガイドの資格など広範なものである(「ビジネスメディア」23年6月28日)。
この法案は、あくまでも観光客の利益を守ることを前提に組み立てられているためリベラル色が強いとグレゴリー氏は言う。ガイドは、資格なしに誰でもできるなど、全体的に大手旅行企業にだけ有利なものになっているようだ。これに対し、旅行業労組の考えは、ガイドはジョージア語を話し、国家試験を受け免許を持たねばならないと主張する。これは、勝手に外国人がガイドとして開業することを防ぎ、ジョージア人の雇用を守ることに繋がるとともに、観光客へ間違った解釈などでの案内や説明をすることを避けることが目的である。グレゴリー氏は、「法案の審議過程でどのくらい組合の意見を反映させられるかが、組合の将来を決めるであろう」と言う。「法案に組合の主張を入れ込む見通しはどうか」と質問すると、「国会議員で元ガイドが一人おり、彼を中心に今国会議員に我々の案に賛成するように働きかけている」と述べた。「我々の主張が法案に入ることは大いにあり得る」と言う。
「ジョージア労働組合総連合に入る気はあるか」と問うと、「我々はまだ小さい。現段階で入れてくれと言うと援助を求めていると誤解される。まず旅行業法の策定過程で我々の主張を通し、その上でメンバーを拡大し、そして総連合にも加盟するつもりだ」と語った。今年中に結果は出るとのこと、グレゴリー氏の戦略通り、旅行業労組が発展するかどうか、期待して見守りたいものだ。

同時に、グローバルユニオンの旅行業に対する取り組みも進んでいることに注意したい。UNIグローバルユニオン(UNI)、国際運輸労連(ITF)、国際食品関連産業労働組合連合会(IUF)が協力して、旅行業のセクターを国際的にカバーして行こうという動きがすでに10年以上続いている。グレゴリー氏の下からの動きとグローバルユニオンの動きが結びつく時、ジョージアの旅行業の組合運動も大きな流れとなるであろう。