トランプ前大統領がUAW組合員にアピール、バイデン電気自動車政策を批判
7月20日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)、ブルームバーグ・ニュースなどが標題の記事の中で「トランプ前大統領は『バイデン大統領の馬鹿げたグリーン・ニューディールという電気自動車政策から自動車産業を救うためには、トランプの政権復帰しかない』として、全米自動車労組(UAW)にトランプ推薦を呼びかけた」と報じた。
UAWのショーン・フェイン新会長が9月に迫ったフォード、ゼネラルモーターズ(GM)および多国籍自動車製造会社であるステランティス社との労働協約改定に強硬な姿勢を見せながら、バイデン大統領に対しては自動車産業へのさらなる支援を求めて大統領候補推薦を保留している現状にトランプ前大統領が付け込んだ呼びかけと言える。
トランプ前大統領は、20日のビデオ演説で、自動車産業の崩壊と自動車労働者11万7,000人の失業を予告し「バイデン大統領は、一連のいびつな政策で自動車産業に闘いを挑んでおり、高額な電気自動車の購入を国民に強制している。彼らの極左政策は国民を惨めな状態に追い込み、車の値段が5万ドル以上にもなる。私が当選の暁にはバイデン政策を廃止し、米国の雇用を守る。UAWはこれに耳を傾け、トランプ推薦を決めて欲しい」と力説、「バイデン政策は選挙主要州のミシガン、オハイオ、インディアナ州でも失業を増大させる」と言明した。
しかしNYTの指摘では、自動車産業が末期的状態にあるとのトランプ氏の指摘は事実と異なる。過去3年間に自動車産業は堅実に雇用を拡大し、トランプ政権直後の2020年12月に比べて先月6月の雇用は12万9,000名増加し、部品企業を含めては107万1,600名に達している。また電気自動車売れ行き不振で在庫が増加しているとのトランプの主張も業界資料と異なる。
ただ、バイデン政権とUAWとの緊張関係は現実のもので、伝統的に民主党を支持してきたUAWだが、非組合企業が生産する電気自動車が有利となるバイデンの優遇税制に怒りを表明して、大統領推薦を保留している。
従来の内燃機関エンジンに比べて電気自動車の雇用は少数で済むだけに、電気自動車への反感は強い反面、こうした部品企業、特にバッテリーメーカーの従業員組織化はUAW新執行部にとっては至上命題といえる。
他方、バイデン温暖化対策およびインフラ整備の一部となるバッテリー産業への投資は反労働組合意識の強い南東部、特に2024年選挙の核となるジョージア州が中心となるが、そこには2020年以降40件以上の電気自動車計画が出され、投資額は227億ドル、2万8,400人の雇用が予測されている。
バイデン大統領はこうした温暖化対策に付随する各種法律について、それは労働組合の技能習得制度を通して高卒以下の労働者の中産階級化への移行を促進するものであり、「私が温暖化政策を考えるとき常に考えるのは雇用、それも労働組合員への雇用だ」と強調する。
他方トランプ前大統領は、共和党予備選挙を勝ち抜いてのバイデン大統領との決戦を意識しながら、組合執行部というよりは、一般労働組合員の投票に狙いを定めてキャンペーンを続けている。またビデオ演説の中でトランプ氏は、企業間平均燃費(CAFE規制)の廃止とパリ温暖化協定からの離脱、米国・メキシコ・カナダ貿易協定(UAMCA)における米国自動車労働者の保護強化、そして米国製品に課税する国への関税引き上げを表明している。