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米国アマゾン労組の反主流派が委員長選挙を要求

2023.08.03掲載

7月10日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)、11日のグローブ&メールなどが「アマゾン社唯一の労働組合であるNYスタテン島物流倉庫労組において、スモールズ現委員長と対立する反主流派が執行部選挙の実施を連邦地裁に申請した」と報じた。

同労組は2022年4月、8,000人の組合員により結成されたが、会社は選挙結果に異議を唱えて未だ協約交渉は開始されていない。その中で、アマゾン労働組合(ALU)内部での反主流派グループである民主改革コーカスが「2023年3月までと定められた執行部選挙が不法に拒否されている。ALUが今年8月30日までに執行部選挙を実施できるよう、中立選挙機関の任命を含めて申請する」としている。これに対しスモールズ委員長は「苦情には根拠が無い」と一蹴、申請提出の際は法的制裁を検討するとのメッセージを出した。

しかしながら、こうした内部分裂は、会社への圧力を弱めるだけではなく、労働組合結成気運を盛り上げてきた労働運動全般に悪影響を及ぼす恐れがある。
苦情申請は「労組憲章には全米労働関係委員会(NLRB)による労組承認の60日以内に執行部選挙を実施するとある」と主張する。しかし実際の推移は、今年1月にNLRBが承認した1カ月前の12月、ALU執行部はスモールズ委員長の指示のもと、組合員に新憲章を提示して、「選挙は、アマゾンとの労働協約が組合員の批准後に実施する」と提案している。

この状況について改革コーカスは「早期の選挙開催を要求する。応じない場合は提訴する」との書簡をALU執行部に送付したが、改革コーカスには同労組創始者で前財務局長のスペンス氏の他、前組織局長など40名の活動家が名を連ねている。

ALU側の弁護士は「2022年6月、スペンス氏は創設憲章を不適切かつ一方的に改定憲章に置き換え、NLRB承認後の執行部選挙としたが、これは執行部の公式承認を得たものではない」と述べ、ALUの別の弁護士は「憲章には執行部内に異論があり、最終承認は得られていない」という。

組合内部に亀裂が生じたのは、昨年秋のニューヨーク州アルバニー倉庫の組織化失敗で、スモールズ委員長の指導力に疑問を抱いた活動家が声を上げ「少数支配ではなく、一般組合員の意見反映を要求する。委員長は協約交渉に力を注ぐべきだ。パブリック・アピアランス重視の旅行に傾注すべきでない」とする不満を述べた。しかし同委員長は「旅行は資金集めに必要だ。交渉のためのストライキは失業を心配する労働者には逆効果だ」と説明。またある最高幹部は「組合員が制度的に参加できる前の一部活動家に左右される状況での選挙は民主的でない」と語った。

このようにして、協約批准後の執行部選挙を提案した12月の新憲章発表後、多くの幹部の離反が続き、2つの派閥は別々の会合を開く状態になり、改革コーカスは早期選挙を要求することで数百人の署名を得た。

その後両派は問題解決に向けて仲裁に委ねることで合意したが、6月18日にALUは仲裁を離脱。仲裁裁定官に任命されたフレッチャー氏が両派に送った6月29日付メモ(NYTが入手)によれば「6月18日にALU執行部は説明なしに仲裁から離脱した。執行部内部のあからさまな混乱から、労働者の組織化と会社との対決に何の準備も為し得ない状態を憂慮する。この状況では労働者の支援は望めない」と書かれている。

また別の専門家は判決について、「労働組合はストライキの際、陳腐化する製品への配慮など、一層の注意を払う事になり、労組の力が削がれる懸念がある」というが、保守派多数の米国最高裁は2018年の判決でもストライキでなく仲裁裁定重視の判断、また同年、公務員労組による非組合員からの組合費徴収の禁止など、労働組合に不利な判決を重ねている。こうした状況に、労組幹部は「ストライキ実施という力が無くなれば交渉力は減退する」と指摘する。

アマゾンの場合でも労働組合は会社の最大の弱みであるホリデイ・シーズンを狙ってストライキを行ったが、現在スト中のハリウッドの脚本家組合や、今夏に協約期限切れの発生する小荷物輸送最大手のユナイテッド・パーセル・サービス(JPS)の労働者で結成している全米パーセル労組なども法的責任を回避するために、より多くの事前通告を余儀なくされ、通告期間の間に会社は代替労働者を雇うなど対抗措置を強めることになる。ハーバード大学のブロック教授は「民主党優勢の州で労組保護的な法律が成立しても、米国最高裁がそれを阻止するという現状にある」と述べている。