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米国労働省が残業代支払い年収基準の大幅引き上げを提案

2023.09.29掲載

8月30日付のニューヨーク・タイムズ、CNNニュース、MSNニュースなどが「労働省は現在35,500ドルの残業代支払い年収基準を55,000ドルへ引き上げると提案した」と報じた。

現在の残業代支払い年収基準35,500ドルは、トランプ前大統領時代に改定されたものだが、バイデン政権はこれを55,000に引き上げる方針で、60日間の公聴会を開く。
実現すると、管理職であっても年収55,000ドル以下の者には、週40時間を超える残業時間に150%割増しの支払いが義務化されるが、双方の金額の中間に位置する年収者は360万人と言われる。

この点について労働長官代行のジュリー・スー氏は、「提案は数百万の給与労働者に残業代受給の権利を確保する事になる。労働者からは再三にわたり、生活を犠牲にした低給料で長時間、割増無しの仕事を強いられた、と言われた」と語り、給与支払いは12億ドル増加するだろうと予測した。

これに対し実業界、特に小売り、レストランなどの接客業、建設業などの反対は強く「多くの店が給与制度を時間給に変更することで支払いの増加を抑えることになる。将来の高給キャリアにつながるジュニア―管理職への登用も減る事になる」と指摘する。

残業支払年収基準改定については、2016年にオバマ政権が当時の23,500ドルを47,500ドルへと改定を図った時、テキサス州判事が「労働省に大幅改定の権利はない」と判決して阻止された経緯があるが、トランプ政権がその後金額を35,500ドルに引き上げた。
今回改定が実施された後の年金基準は労働市場の動向に伴い3年毎に自動調整されるが、連邦金額は最低であり各州はこれを上回る金額を制定できる。

年収基準引き上げの主張には、「使用者による残業代回避のための管理職登用という悪用を
阻止する必要」が言われるが、法律では仕事が実際に管理的で権限を伴う業務であり、その上に法定年収基準を上回る場合は残業代支払いの義務はない。しかし実際には多くの企業が年収を法定金額のやや上方に設定して、管理職に当たらない仕事でありながら管理職として任命し、不法に残業代を回避するケースが多い。

残業代支払い免除の管理職についての法的定義が多少主観によること、また法的年収基準を上回る給与労働者でも多くに残業代の権利があるとは知らずに、使用者に要求しないなどで、法的に残業代支払い対象であっても、残業代を受け取れないアシスタント・マネジャーがファストフード・レストランや小売店に多く存在する。
法的年収基準の引き上げはこうした慣行の横行を減少させ、残業代受給決定への主観性を取り除いて、多くのアシスタント・マネジャーに残業代への道を開くことになる。

今回の提案は労働者の収入増加や労働者保護を唱えるバイデン政策の一環だが、労働組合支援を声高に唱える同大統領は更に、3,500万ドル以上の連邦政府との契約業者には労働組合との労働協約による賃金労働条件合意を命じており、昨年の温暖化対策法案でも空気清浄化プロジェクトには労働組合と同等の賃金水準を義務付けている。

しかし今回の提案にはオバマ時代の地裁判決のような事態も想定され、残業代対象の拡大ではなく、大統領選挙への支援拡大手段と認定される恐れもある。