電気自動車移行について労働グループ連合が現代自動車を焦点に活動
8月27日付のニューヨーク・タイムズ、また同記事を紹介するヤフー・ニュースなど数紙が「電気自動車(EV)移行へのバイデン政策について、全米自動車労働組合(UAW)や市民グループの連合は補助金が労働者保護と職業訓練に正しく使用されるよう、現代自動車を標的に活動を強めている」と報じた。
このグループ連合はUAW、アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)、国際電機友愛労働組合(IBEW)、宗教団体、地域組織、環境団体から成るジョージア州とアラバマ州の組織だが、良質な労働組合雇用を造ろうとするバイデン政策からの補助金を利用する現代自動車のEV工場、関連企業に対し活動を強めている。
グループ連合は活動を通じて労働組合の無い現代自動車の組織化を狙う一方、同様のBMW(サウス・カロライナ州)やメルセデス・ベンツ(アラバマ州)工場にも組織化の足掛かりを掴みたい思いがある。またUAWは同様にバッテリーなど部品企業の賃金労働条件改善にも力を強めている。さらに、ジョージア州は大統領選挙のスイング・ステート(激戦州)でもある。
バイデン大統領は彼の3施策で雇用を急増させ得たとするが、それは1兆ドルの社会インフラ整備政策、2,800億ドルの半導体産業再生政策、そしてインフレ削減法だが、ここには排ガス対策を含む3,700億ドルのクリーン・エネルギー政策や医療費軽減対策がある。
しかしバイデン政策については、失業率の低下やインフレの鎮静、雇用増加にかかわらず、昨年の8.5%インフレや金利上昇を記憶する世論の評価は芳しくない。また雇用の増加も低賃金や重労働、不安定なものと問題視される。この点でUAW地域委員長のグリーン氏は「補助金による新規雇用が全て組合員と言う訳にゆかないのは分かるが、少なくとも公正労働基準を満たすものでなければならない。組合員はその点に不満を感じている」と述べる。このこともUAWのバイデン支持保留に繋がっていると言えそうだ
グループ連合は現代自動車と関連企業に要求書を送り、地域からの雇用、工場周辺地域の労働者への職業訓練、安全基準の改善、工場周辺の環境保護などを求めているが、その要求規模はジョージア州とアラバマ州で30,000人の雇用、内12,750人は新工場周辺からの採用などジョージア州では最大の計画となる。要求はさらに合意内容に強制裁定を伴う義務付けも求めているが、これからの南部諸州での労働組合造りを見据えた方針と言われる。
これには昨年結ばれたニューフライヤー電気バス製造会社との合意が成功例とされ、ここでは新規採用の45%、昇進昇格の20%が女性、少数民族、退役軍人と義務付けされている。
グループ連合は「新工場はコミュニティを変革する。我々はその変革を最善のものとする生涯一度のチャンスにある」として、会社側との交渉に期待を寄せているが、現代自動車の報道担当者は「会社が重視するのはアメリカ自動車産業の前進を担う直接間接の114,000名労働者の安全と満足度にある」との声明を発表した。
他方、全米鉄鋼労働組合(USW)のフリッポ地域委員長は「コミュニティ・アグリーメント(地域共同体との合意)に労働協約のような強制力を求めるのは無理だ。立派に見える労働保護や権利も自分自身が監視するもので、労組オルグに委ねることではない」と警告した。
バイデン大統領の3施策には労働組合組織化の促進、賃上げ、職業訓練促進などの条項が多く盛られているが、鉄鋼労組は去る5月、この条項を利用してジョージア州のブルーバード電気バス会社の労組結成に成功した。フリッポ委員長は「条項は労組排除への弁護士採用など、労働組合反対活動への補助金使用を禁止しているが、今後とも監督を強めて行く」と語る。同様な動きには、デンマーク風力発電会社の米国沿岸事業への労働組合員採用、ノースダコタ州金属会社のバッテリー工場の労組結成への会社介入を禁止した例などがある。
労働組合幹部はまた、ドナルド・トランプ前大統領からの一般組合員に対する呼びかけに警戒を強めている。前大統領は工場閉鎖したオハイオ州のGMランズタウン工場の再開を約束して、新興のランズタウン・モーターを勧誘して同工場を買収させたが、経営力の脆弱な同社は去る6月、破産申請に追い込まれた。UAWグリーン地域委員長は「トランプ前大統領を支援することなど絶対ないが、多くの組合員の中には影響を受ける者もいる」と苦渋を語る。