ハリウッドの脚本家労働組合がストライキ、多くの番組が止まる
5月1日の付のニューヨーク・タイムズ(NYT)およびNBCニュースなどが「ハリウッドの脚本家組合が15年来のストライキに入り、このため多くの映画やテレビの製作が止まっている」と報じた。
全米脚本家組合(WGA)には11,500人の脚本家等が所属するが、今回の3年の労働協約改定に当たってのストライキにはその98%以上が同意した。
要求項目には、所得補償の他、テレビ番組制作に一定期間、一定の脚本家を確保すること、人工知能(AI)使用の規制、脚本制作へのギグ的に単発の仕事に反対することなどがあるが、協議の進展についてWGAのカイザー共同代表は「労使の主張は哲学的にも実務的にも大きな乖離がある」として、妥結が遠いことを示唆した。
交渉団体は、映画会社、テレビ局、ストリーミング事業所等が所属しているユニバーサル・ピクチャーズやパラマウント・スタジオ、さらには配信会社のNetflix、 Amazon、Apple等が加盟している映画・テレビ制作者同盟(AMPTP)である。
WGAが「ストリーミング配信サービスとテレビ制作の激増により、労働条件が悪化し、脚本の仕事が存続の危機にある」とする一方、会社側は「産業の長期的健全性と安定性を目指して交渉を続けてきたが、現実はネットワークやケーブル・テレビの視聴者減少という急激な変化に遭遇している」と説明している。
視聴者にとって間近に感じる影響は、深夜番組の生放送、サターデイ・ナイト・ライブなどが放映停止になり、職業別組合によらないドキュメントや海外番組の再放送や再々放送を見るようになったことである。
長期の制作停止は、地域経済に大きな影響をもたらすが、番組制作に関わる運転手や舞台衣装の洗濯屋、ケータリング、舞台装置大工や関連工事労働者などを含めて、2007年の100日ストでは、ロサンゼルス地域経済の損失は21億ドルにも上った。
過去10年間、脚本家によるテレビ番組は飛躍的に増加したが、所得は据え置きのまま、物価上昇を差し引くと、23%減になるという。ネットワーク・テレビの時代にあっては、脚本家は1シーズンに20エピソード前後を制作できたが、ストリーミングになるとエピソードは8から12程度のミニシリーズで完結し、脚本家への支払いも減少した。またレジデュアルと呼ばれる再使用料も配信会社により減額された。再使用料は再放映やDVDになると支払われるが、配信会社は固定料金に切り替えている。
他方、NetflixやAmazonなどの配信サービス側の経営にも変化が起きており、採算重視の投資家の圧力により、ディズニーが7,000人のレイオフ、ワーナー・ディスカバリーが数千名の人員整理に追い込まれる状況にある。
過去数十年間の脚本家ストライキは6回に上るが、2007年の100日ストの他、1988年には153日のストライキがあった。WGAはニューヨークとロサンゼルスでストライキを展開している。
なお15日のNYTによると、ブロードウェー演劇の権威ある年間表彰、トニー賞授賞式について、プロダクション側がWGA提案の条件を受け入れることで、WGAは開催を妨害しないことで合意した。6月11日の授賞式は従来とは違ったものとなった。