オハイオ州の電気自動車工場、雇用創出か、喪失か
4月5日付けのニューヨーク・タイムズ(NYT)や6日付けのグローブ&メールなどがオハイオ州の電気自動車産業を引き合いに雇用に及ぼす影響を次のように伝えている。
ゼネラルモーターズ(GM)、フォードなどの自動車メーカーは、昨年500億ドルを上回る投資を発表したが、その大半は電気自動車(EV)とバッテリー工場の建設ないし改変に充てられる。その点で、オハイオ州で9万人もの雇用を維持しながら操業するGM、ジープ、ホンダ及び部品企業の改編の動きが先を占うものとして注目されている。
他州よりも多くのエンジンを生産するオハイオ州にとって、EVへの移行はことさらに急務だが、同時に気候温暖化などに対処する新技術導入も迫られている。そこでは企業の興廃と仕事内容が激しく変化し、新規事業で雇用が増やせるか、特にガソリンエンジン関連の雇用には厳しい変化がある。
2019年に閉鎖したオハイオ州にあるGMローズタウン工場近くのデトロイト市近郊市として最大のミシガン州ウォーレン市では1970年台以降、人口の3分の1に当たる2万人が減少している。しかし、同工場生産の乗用車需要がSUV車へと変化した中、その減少は未だに続いている。全米では2000年に130万人であった自動車産業の雇用も2018年には100万人に減少、GMも長年にわたり交代シフトの減少、人員削減を続けてきた。
オハイオ州で見られる新規事業としては、GMと韓国のLGエネルギー・ソリューションの合弁企業であるアルティウム・セルズ社によるバッテリー工場、ローズタウン工場跡地を買い取った台湾のファックコン社による電気自動車・トラクター工場などがある。
こうした現状の中で、GMで働いたウォーレン市のフランクリン市長は「産業革命が進行中で、新たな希望が生まれている」と語るが、各企業はパンデミックや供給網の混乱の経験から、海外からの部品調達を敬遠するようになり、昨年の連邦援助もあって、国内生産に向かうようになっている。しかし従来工場のEVへの変革は容易ではない。
問題の一つは、新しい技術に対する技能労働者ヘの再訓練である。オハイオ州北西部のGMトレド工場の動力システム部門では、従来のトランスミッション生産を続けながら、電気モーター技術習得の職業訓練に取り組み、組立てライン改造に7億6,000億ドルを投資している。
また、新規投資勧誘については、共和党が積極的に保護する南部諸州の方がミシガンやインディアナ、イリノイ州などの中西部に比べて誘致成功率が高い。
2020年以降、自動車各社はEVとバッテリー工場投資に、南部諸州で510億ドル、グレート・レイクス地方で310億ドルを投資することを発表した。南部諸州の労務費は安いが、投資の理由の一部には労働組合の無いことがあると言われている。これは労働組合の高額賃金によるEV生産を意図する全米自動車労組(UAW)やバイデン大統領にとっては問題である。UAWは南部諸州で強い政治的反対に遭遇しているが、中西部では力を持つ。しかし優勢を誇ったエンジンの雇用は激減した。
こうした中、トレド市近郊で車軸やドライブ・シャフトなどを生産するダナINC(4万人)によれば「EVに車軸は必要だが、長いドライブ・シャフトは要らなくなる。車輪にモーターが付けられ、電気モーター組み込みの車軸もでき、軽重力で電力消費も少ない。最近では、GM採用のEVバッテリー冷却装置用のガスケット作成技術を開発した」と言うが、同社製品はいずれもがEV関連である。
オハイオ州の経済的将来は、ダナINCと同じような跳躍が他の企業に出来るかどうかにかかっているが、同社CEOは「選択の余地はない。早晩、皆が氷山のように溶けて無くなる」と語っている。