2023年度 インドの労働事情(インド・スリランカチーム)
本労働事情については、ナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき「労働事情を聴く会」、参加者との意見交換を基にまとめたものである。
<参加者>
インド全国労働組合会議(INTUC)
全国エンジニアリング労働者組合 会長
・スリニバサン ポヌサミー(Mr. Srinivasan Ponnusamy)
アンドラ・プラデシュ農業労働組合会議 組織局書記
・クリティカ ダシャラス キャンドラ シーカー
(Ms. Krithika Dashrath Chandra Shekar)
インド労働組合(BMS)
インド労働組合 パンジャブ州支部 事務局長
・スニル クマル ヤダフ(Mr. Sunil Kumar Yadav)
国営銀行労働組合 会長
・トゥルプッティ アルティ(Ms. Trupti Alti)
インド労働者連盟(HMS)
インド労働者連盟 ユース担当兼法務担当
・ジャスリーン カウラー(Ms. Jasleen Kaur)
西中央鉄道職員組合 コタ支部
・ネハ シン(Ms. Neha Singh)
- 基本情報
- 人口
14億756万人(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- 宗教
ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、
仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- 政体
共和制(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- 主要産業
農業、工業、IT産業(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- 名目GDP
3兆1,763億ドル(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- GDP成長率
7.2%(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- 物価上昇率
4.70%(外務省 令和5年6月16日更新情報)
- 失業率
7.7%(Trading Economics 令和5年データ)
- 労働事情
INTUC(インド全国労働組合会議)
(1)労使紛争の事例
①経営側は経営状況の悪化(注文の激減)により、従来の生産を減少させ労働者を休職させる提案を提出、これに反発する労働組合は全国技術者組合(NEEU)と協議の上、経営側、労働者との話し合いを重ね、最終的に「非生産日」を設定して当該日には翌年の有給休暇を充当する方法で乗り越え、かつその「非生産日」に契約労働者に勤務してもらうことで危機を乗り越えた。
②もう一例は、現場でのルールを遵守しないグループがあり、彼らは組合問題について経営側と話し合うために人事部長を拘束、これに激怒した経営側は労働者の調査を決定した。
労働組合としてもこの調査に全面協力し誤解を招いたことを説明、最終的に経営側は謝罪して調査を中止した。
(2)労使の主張
①経営側は長期的視野で生産管理するため非生産日を公表すべきと考え、労働組合側は公表すべきでないとした。
②経営側は、理由はどうあれ人事部長を拘束することは許されないとして、就業規則に則って処分する考えを示し、労働者グループは「故意にやったわけではない」あくまで話し合いをするためだったと弁明している。
(3)労使紛争の結果
①最終的には、全国技術者組合(NEEU)の提案を受けいれ経営側は契約労働者を含む全ての労働者の保護を受け入れた
②経営側は、全国技術者組合(NEEU)の表明に基づき、労働者が自らを正して職場の秩序を乱すことの無いようチャンスを与える事で終結した。
HMS(インド労働者連盟)
(1)労使紛争の事例
インド政府は29の労働法を廃止し、4つの使用者よりの法体系に変更、労働組合は反労働政策として反発している。インフォーマルセクターでは労働者に8時間以上の労働を課し、雇用の安定を無視、最低賃金さえ払わない、安全衛生に配慮しない状況に対して抗議している。
(2)労使の主張
労働側は、労使関係の確立、雇用の安定、最低賃金と安全衛生の保証、家族への社会保障、災害補償、ハラスメント撲滅を訴えた。
経営側は、労働法の柔軟性、雇用と解雇権の要求、長時間労働、契約社員に対する業務量の増、一時金の不払いを表明した。
(3)労使紛争の結果
労働者と雇用者・政府の争議は現在も継続しており、すべてのナショナルセンターが連帯して、インド政府の反労働・反労働者・反従業員政策と闘争中。労働組合は政府の方針である、政府・公共部門の民間企業や多国籍企業への民営化に反対しており、いまだ解決の目途はたっていない。
BMS(インド労働組合)
(1)労使紛争の事例
インド政府は国有資産売却計画の一環として、国営銀行の統廃合を方針として掲げ、民営化を政治的な武器として利用、労働組合はこれに反対する運動を展開。
(2)労使の主張
労働側は、次のことを主張。利益を挙げている大手銀行は従来通りとして、地方の中小銀行を全国規模の銀行に統一すべき。給与体系は全国統一。
政府は自給自足の計画経済体制から脱却、規制緩和と国営企業の民営化(国営銀行、エアーインディア、国営製造工場など)、外国資本の積極的誘致を進めている。
(3)労使紛争の結果
BMSによる大規模なデモにより政府は話し合いの場を設定、民営化に反対する激しいデモが功を奏し、政府は即座に銀行を含む多くの産業の民営化について、施策の延期を発表した。
- 労働法制
(1)現状
インドの労働法はインド憲法に由来して中央政府と州政府が制定でき、29の保護と雇用に関する法律、社会保障に関する法律、規制に関する法律があったが、政府はこれを①賃金に関する法律②社会保障に関する法律③労使安全衛生に関する法律④労使関係に関する法律の4つの法律に体系化した。各州による規則策定のプロセスは進行中。
(2)問題とナショナルセンターの取り組み
今回の労働法改正は、労働組合の法的権利、適正な労働時間、労働福祉、雇用保障、ストライキ権など労働者の権利に大きな影響を与え、立場の弱い労働者から基本的権利を奪い搾取的な雇用者に有利となる内容になっている。また奴隷労働を認めるなどILO 中核的条約にも違反している。多くのナショナルセンターは国際的労働組合組織と連帯して大規模なストライキを実施、反労働者的な労働法改正に反対の意思を示している。
(3)改正の動向
労働法は組織部門(10人以上が働く民間・公的機関)で適用され、非組織部門(労働人口の9割を占める自営業者・農業従事者・ホームワーカーなど)には適用されず、労働法がカバ―出来るのは全体の1割に過ぎない。したがって、今回の労働法改正に対する国民と労働組合の反対は激しく当面混乱が継続するものと考える。
- 社会保障制度
(1)現状
2020年に可決された社会保障法は従来の8つの社会保障法を統合したもので、フォーマルな企業のみを対象としている。従来の年金制度は、従業員退職準備基金、従業員年金、公務員年金スキーム、預託保険制度があり労働者と使用者が一定割合を負担する。
新法では、すべての労働者が受けるべき権利と社会保障についての記載が無く、対象者も限定されている。
(2)問題とナショナルセンターの取り組み
労働組合は、法案に「働く権利の保護、生活賃金、全国民への無償の医療と教育と権利」を盛り込むことを要求。
(3)改正の動向
今回の改正は、適切な議論や労働者との相談もなく実施されており、10大ナショナルセンターは共同要求として、所得税非課税世帯への食料・所得支援、雇用保障制度の拡大、インフォーマルセクターの労働者に対する普遍的社会保障の提供、旧年金制度の復活について強く政府に申し入れている。