アマゾン組織化の突破口開く:ニューヨーク市スタテン島アマゾン巨大施設JFK8でアマゾン労組団体交渉権を獲得
アマゾンの組織化は全世界の労働者の課題となっているが、ニューヨーク市スタテン島にある5つのアマゾン施設の1つJFK8で4月1日、アマゾン労組が団交権を確立した。しかしそれから1か月後同じくスタテン島のもう一つの施設LRB5では、組合が団交権代表選挙で敗れた。アマゾン労組が言うように、「闘いは始まったばかり」である。
アマゾンは全米で110万人を雇用する大企業であるが、その労務政策は徹底した反組合主義で、SNSやウェブを通じ、「組合ノー」とメッセージを流し、労働者に直接影響を与えることに努めてきた。これまで組合結成の幾つかの試みがあったが、全て敗北してきた。昨年アラバマ州ベッセマーでUFCW(食品商業労組)主導の大規模な団交権確立の取り組みがあったことは記憶に新しい。米国では労組が団体交渉の代表権を得るには当該職場の従業員の半分以上の賛成票を得なければならず、この選挙はNLRB(全国労使関係局)という国の機関の管轄の下に行われる。この投票に勝つため、使用者側は莫大な資金を投入、労働コンサルタントを雇用し、彼らは徹底した反組合的宣伝を展開する。これが行き過ぎると再選挙となる。アラバマ州ベッセマーのアマゾンはこの理由で今年3月再選挙となり、組合反対993、組合賛成895、不明416の結果が出た。現在この416票を巡っては有効性を係争中であり、団体交渉権確立のチャンスはある。
スタテン島のアマゾンJFK8は6000人の職員が働く巨大施設で、ここの組合結成の主役はクリスチャン・スモールズ氏である。彼は元従業員であり、米国の労組と関係を持っているわけではない。彼の問題意識は、アマゾンで今後10年、20年と働くことが可能であるか、ということである。アマゾンの労働の過酷さは有名で、例えば、時給18ドルの最低賃金が保証されているとしても、労働のサステイナビリティが保証されているとは到底言えない。 アマゾン職場の改革は待ったなしであり、最低賃金の30ドルへの引き上げ、休憩時間の拡大などが組合の要求であった。フィナンシャル・タイムズ(4月5日号)によれば、「アマゾン労組の旗振り役となった幹部らは、運動を先導したのが『部外者』のレッテルを張られるような人物ではなく、従業員だったことが成功の秘訣だと話している。」従業員の気持ちに分け入って信頼感を獲得できたことが、闘争を成功に導いた。ここでは組合賛成2654、組合反対2131という結果が出た。会社は直ぐに「遺憾」の声明を出し、この結果と争う姿勢を示している。さらに「5月5日、アマゾンは6人以上のJFK8で働く上級管理者をクビにした。」と報じられている。(ニューヨーク・タイムズ5月6日)
この勝利の1か月後に選挙で組合側が敗北したLDJ5の特徴は、「JFK8がしばしば10時間のシフト、週4日で働き、スタテン島までの通勤時間が長いためフルタイムで働くことを希望する労働者が多いのに比べて、LDJ5では短時間のパートが多く、長期間働くことを考えている人が少ない」という事情があり、JFK8の組合活動家はLDJ5ではフィットしなかったようだ。「サンダース上院議員、オカシオ・コルテス下院議員ら大物が団体交渉権を確立するための投票を実施する前日(4月24日)に、LDJ5の前で開催された集会に参加したが、結果は1600人の有権者のうち、組合賛成380、反対618、ということだった。ここでは会社は従業員に感謝する声明を発表している。
アマゾン労組が労働者組織化にあたって参考にしたのは、フィナンシャル・タイムズ(4月5日号)によると、「鉄鋼業界における組織化手法」という古本だそうだ。「冊子は様々な対策と合わせ、労働者が他の労働者を勧誘するチェーン(連鎖)制度を推奨している。」「1世紀前には、鉄鋼業界は現在の電子商取引と同じくらい米国経済に欠かせない重要産業だった。1930年代の鉄鋼大手企業は、労組を過干渉で迷惑な仲介人と見立て、組合設立に反対した。」アマゾンの組織化は困難な課題である。各職場の風土を踏まえ、労働者の心をどうつかむか、ここに問題の核心はありそうだ。現在、スターバックスでも組織化が進んでいることは本メールマガジンでも伝えているが、このようにサービス産業の大手企業を組織化しようという米国労働運動のエネルギーには驚くばかりだ。