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チュニジア労働総同盟(UGTT)が大統領のワンマンルール阻止にストライキ

2022.07.14掲載

6月16日のニューヨーク・タイムズ(NYT)、フランス24などが「チュニジア労働総同盟(UGTT:組合員数100万人)が全国300万公務員に呼びかけて16日にストライキを行い、賃上げと経済改革への譲歩を要求した。これはまたワンマン支配を目指す大統領への挑戦でもある」と報じた。チュニジアは10年前の“アラブの春”と呼ばれた民主化運動発端の国であり、UGTTは2015年のノーベル平和賞を共同受賞している。

この公務員ストはカイス・サイード大統領への権力集中という権威主義に挑戦するものとも見られるが、国民生活が従来からの貧困と高失業に加え、物価高騰で困窮を深めるなかで、政治・経済不安を一層強めている。

ストライキはバス、鉄道、空港、各官庁、公共企業を巻き込み、数十万名が参加したとされるが、IMFが要求する公務員の賃金凍結などの経済改革に反対している。この点についてフランス24はチュニジアの経済学者カボウブ氏の意見、「ストライキは政権、UGTT、国際通貨基金(IMF)、国際パートナーによる経済再建の失敗の集大成である。労働者の忍耐にも限界があるとのIMFへのメッセージだ」との言葉を伝えた。

サイード大統領は11か月前、汚職の蔓延と政治不能を理由に議会を停止させ、大統領権限の強化を図りつつ、独立機関である司法や選挙機関の管理や政党の排除も進めている。現在、信任投票による憲法改正を計画し、各界との対話を重ねているが、いずれは大統領権限を強化するものとなる。
IMFや西側諸国からの要望もあり反対派との対話も加えたが、当初は大統領に同調した憲法草案起草者やUGTTも、対話をボイコットする機会が増えている。UGTTも昨年の議会解散時には大統領を支援したが、大統領がUGTTを敬遠するようになり、離反を強めた。

NYTによれば、UGTTダボウビ事務総長は「対話は何の解決にもならない。IMFの融資を受けるための経済改革に完全に反対するわけではないが、賃上げによって労働者がインフレに対処するのを助けるべきだ。また以前の約束も守って欲しい」と主張する。しかし今週の交渉は失敗し、ストライキに至った。
同事務局長は159の国有企業と公共企業の組合員の96%がストライキに参加したとしているが、その数に疑問を呈する人もいる。

他方、サイード大統領は「健全な経済実現には政治権力が必要だ。組合の反対はそれを危うくする。UGTTの賛成がなければIMFからの融資を受けられないかもしれず、経済の安定はない。同時に政治課題解決に必要な法的権限が無ければ、経済の安定は望めず、国民の怒りを買うだけだ」と述べる。
大統領は今、IMFと併行してアラブ首長国との協議を重ね、投資の可能性を探っている。

大統領は支持率に陰りが見えながらも、世論調査で野党より高い支持率を維持している点に望みを繋いでいる。ある政治評論家は「ストライキに過去ほどの高い支持がなく、街頭デモや団体行動も見られない。UGTTには従来ほどの政治圧力はなく、大きな事態には発展しないだろう」と語るが、明確な代案がないままに反対が増大すれば混乱が更に深まることが憂慮される。但し、UGTTの支持なしには経済改革が進まないのも現状だ。(以上、NYT)

また、今回のストと並行して、裁判官によるストライキが2週目に入っているが、理由は6月初旬に大統領が汚職容疑で57名の裁判官を免職したことによる。その直前にも、大統領は司法長官を解任して大統領任命者を後任に据えており、司法の独立性を損なうと批判されている。大統領は選挙管理委員会にも同様の措置を行い、憲法信任投票へも危惧が持たれている。

更に最近、「陸軍がUGTT事務所の閉鎖命令を拒否した」と報道したジャーナリストの逮捕事件に絡んで、政府が軍事法廷を利用してブロガーなど、サイード氏を批判する民間人も迫害しているとの風評が流れている。7月25日予定の憲法信任投票のボイコットを言う人達も多いが、政府の力には対抗できないと言う人達も多い。