米国労働省がギグワーカーに新提案
10月11日のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどが「労働省は清掃労働者、在宅介護、建築労働者、ギグ運転手などを従業員と扱う提案を発表した」と報じた。
これにより、会社は請負業者でなく従業員として取り扱われる労働者に対して、最低賃金、残業代、社会保障税及び失業保険の一部を支払うことになるが、本提案は法的強制力ははなく、労働省の権限内で実施され、他省へは影響を及ぼさない。テスト期間は1か月半で、その間に各界の意見を聞くことになるが、その後の法制化で本格実施となるとその影響は大きい。
本提案は労働者が会社従業員か独立した請負業者なのか判別を行うためのもので、1)労働者が自分自身のコントロールでどの程度仕事が出来るのか、2)仕事に応じて自分で価格上乗せが出来るのかなどで、その権限は少ないほど従業員とみなされる。
同様の提案は2020年のトランプ政権でも行われたが、当時は「経済的現実」によって分類するとされ、1)会社が仕事のやり方をどの程度コントロールしているか、2)労働者が単に安定賃金を稼ぐだけでなく、自分の裁量で価格を上乗せすることが出来るか、などのほか、仕事に要する熟練度や会社との関係が永続的か一時的かなどがあり、当時のスカリア労働長官は「連邦公正労働基準法(FLSA)の下で個人請負に該当するかどうかを判断するのに、明確さと一貫性をもたらすもの」としていたが、請負業者への認定傾向の強いものであり、労働界からは批判も強かった。
それに対し今回のテスト提案は従業員資格への認定を容易にすると見られており、時の政権により判断が左右に振れることになる。その影響を受けてインターネット・タクシーや食品配達などを運営するウーバー社やリフト社は人件費が20~30%上昇すると主張しており、株価は10%値下がりした。
ギグエコノミーはインターネットを使って数百万の独立労働者を数々の仕事に結びつけてきたが、多くの会社がギグワーカーに依存するようになり、在宅介護や建設労働者、ライターやデザイナーなど、2021年調査では米国民の16%がギグ労働に従事していると言われる。
独立請負業者は自営の仕事を請け負い、会社はそれを利用することで相互に利益を享受してきた。しかし各企業は独立請負業者を従業員のように扱いながら、労働基準法にある恩典を供与せずに来たとの批判が強い。
労働省は今回の提案が独立請負業者と誤って判断される従業員労働者を減少させ、同時に真の自営労働者の獲得を確実にする方法になると言明した。これに対しAFL-CIOは歓迎の意を表明したが、批判の強い人々からは「労働者保護に充分と言えない」との声がある。他方、NYTによると、今年7月、カリフォルニア州のトラック運転手が従業員扱いにより自由を奪われることに抗議して道路封鎖した事について、ウォルシュ労働長官は「それでも95%の運転手は従業員資格を選択するだろう」との見解を示した。