韓国・貨物連帯ストライキ中止の意味するところ
トラック運転手2万5000人で組織し韓国で最も強硬な組合の一つとされる、民主労総公共運輸労組貨物連帯本部(以下、貨物連帯)は12月9日、11月24日以来16日間続けてきたストライキ終了を決定した。
貨物連帯は、運送料金に「最低料金」を設定する「安全運賃制」の恒久化と運用拡大を求めてストライキに入り、韓国政府が提示した「安全運賃制の3年延長」という妥協案の受け入れも拒否をしたが、結局政府に押し切られた格好となった。
今回、韓国政府は貨物連帯のストライキに対し、交渉というより強硬な対決姿勢で臨んだ。韓悳洙(ハン・ドクス)首相は「違法な輸送拒否や輸送妨害行為には一切寛容な態度は取らず、あらゆる措置を講じて厳正に対処する」と発言。 尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、「無期限な輸送拒否を持続すれば、政府が業務開始命令を含む様々な対策を法と原則に従って検討するしかない」と警告してきた。
世論調査も政府の後押しとなった。韓国ギャラップ研究所の12月9日に公表した調査では、71%が「貨物連帯はまず業務に復帰した後、政府と交渉すべきだ」と回答した。
一方、12月5~6日に実施された世論調査で尹錫悦大統領の支持率は41.5%と5ヶ月振りに40%を超えた。前回調査に対し9.1ポイントの大幅上昇となった。調査会社は「貨物連帯のストに対し法と原則を貫いたのが主な要因」と分析している。貨物連帯がストを撤回したのは政府の強硬姿勢に加え、世論の変化にも直面したことも要因の一つだろう。
「原則が勝った、貨物連帯16日ぶりに白旗」(朝鮮日報) 韓国の大手紙、経済紙は12月10日、1面トップでほぼ同じような見出しを掲げてこのニュースを報じた。
一方、進歩志向の左派的論調として知られるハンギョレ新聞(online 日本語版)は、次のように主張している。
貨物連帯のストライキ期間中、韓国政府は対話と妥協を通じた対立の調整と仲裁ではなく、行政命令と司法処理という鞭ばかりを振りかざしていた。政府は貨物連帯がストライキを始めた直後から業務開始命令に続く警察捜査、公正取引委員会の調査圧迫まで、立て続けに労組側を追い詰めた。この過程で妥協はもちろん、対話すらも消えた。貨物連帯は9日、事実上全面降伏するかのようにストライキを中止した。
尹錫悦政権は今回の貨物連帯2次ストライキ事態で見せた企業優先、労組嫌悪と民主労総排除の基調に基づき、本格的な労働改編を試みるとみられる。多くの専門家は、政府が来年度の経済見通しが良くないことを強調して「労働改革」の必要性を訴え、労働界に「労働改革の足を引っ張る勢力」というレッテルを張る可能性が高いとみている。経済危機を名分に労働改悪を進めるのは保守政府の古いレパートリーだが、尹錫悦政政権は今回の貨物連帯2次ストライキを通じて劇的な支持率の反騰に成功し、労組叩きの効果を確認した。
一方、韓国労働研究院のパク・ミョンジュン先任研究委員は「社会を形成する労組など結社体を認め、彼らが役割を果たしながら市場秩序を作っていくように導く方が社会的費用も少なく、民主的にも望ましいことを政府が認識しなければならない」と話した。(引用は以上)
貨物連帯は民主労総傘下の組合の中でも最も強硬な組合の一つであり、過去にも何度となく激しい闘争を繰り広げてきた。朴槿恵(パク・クネ)政権下の韓国鉄道民営化を巡っても政府と労働側とで激しい衝突が重ねられてきた。鉄道労組のストライキに対し貨物連帯も貨物代替輸送を拒否し物流輸送に大きな打撃を与えた。
韓国の労働運動の特徴として、労働運動の政治勢力化がある。それは労働運動が労働者の権益を代弁することにとどまらず韓国社会の民主化の過程と密接な関係を持っているためである。朴槿恵元大統領が主要政策や人事などに一人の民間人を介入させていた国政壟断事件を追及し、ろうそく集会を経て大統領を弾劾に追い込んだことは記憶に新しいが、その主要勢力も労働組合であった。
このときは労働組合の動きに学会、市民団体等が共鳴し大きな運動となったが、今回の貨物連帯の敗北は尹錫悦政権の強硬姿勢に加え、世論が組合を支持しなかったことが大きい。組合の力とは組合員の声であり、世論の力である。その力を得るためにも、労働組合、政府とも組合員・国民の声を的確に捉える努力を続け、対話を惜しまないことが大切である。