2022年 ブラジルの労働事情 (中南米チーム)
国際労働財団(JILAF)ではブラジル労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労使紛争未然防止の取り組み、労働委員会の活動について学ぶためのプログラムを準備作成した。しかし、新型コロナウイルスの影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。従来の「海外の労働事情を聴く会」も開催が不可能となったことから、今回はナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき、参加者との意見交換や外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。
ナショナルセンター ブラジル中央統一労働組合(CUT)
ナショナルセンター 労働組合の力(FS)
ナショナルセンター ブラジル一般労働組合(UGT)
1.基本情報
ブラジル連邦共和国はラテンアメリカ最大の領土を有し851.2万平方㎞で日本の22.5倍、アマゾン川とブラジル高原を擁し多くの国と国境を接している。人口は2億1千万人、首都はブラジリア、南北アメリカで唯一ポルトガル語を言語とし、宗教は主にカトリックである。日本との関係は深く、1895年から移民政策がスタートし、現在では世界最大の日本人社会(200万人)を形成して、多くのブラジル人が仕事を求め来日している。政治体制は連邦共和制をひき、2院制で現在はボルソナール大統領が元首。かつてはポルトガル領であったが、その後オランダ領を経て独立、1985年軍事独裁政権から民政移管された。
経済的指標は、実質GDP成長率4.6%、名目GDP総額8兆6790億レアル、一人当たりの名目GDP7519ドル、消費者物価上昇率10.1%、失業率11.1%となっている。
主要産業は、製造業、鉱業、農牧業である。中国、アメリカ、アルゼンチン、オランダを中心に大豆、鉄鉱石、原油、工業製品、粗糖、木材を輸出、原材料及び中間材料、医薬品、食料、工業用機械を中国、アメリカ、アルゼンチン、ドイツ、韓国、日本から輸入している。
ナショナルセンターはブラジル中央統一労働組合CUT(793万人口工業、教育、商業、農業)、労働組合の力FS(240万人口金属、食品、建設、サービス、公務員)ブラジル一般労働組合GUT(440万人口保険医療、土木建設、商業、サービス)が中心となっている。それぞれITUCに加盟している。
2.労働情勢
ブラジルは、インフレ率11.3%、失業率11.1%、金利12.75%と全て2桁台という世界でも稀な国である。そのため労働者の給料は価値を失い、さらにパンデミックの影響で平均所得は8%減少した。失業者は1200万人を超え、就業者の半数近くが法律で定められた権利を有さないインフォーマルワーカーとなっている。レアルの購買力が低下したことに加えて、サンパウロでは47%も物価が上昇、燃料価格は世界最高水準となっている。
保険医療分野では、パンデミックの影響による過重労働や酷いハラスメント、構造的な低賃金に労働者が苦しみ、多くの仲間が職場を離れた。
このようにインフレが加速する状況で貧困と不平等が国内に蔓延、賃金を再調整するための交渉も困難を極めている。政府は雇用の創出や開発には目を向けず、民営化や予算の削減、金利上昇といった政策に焦点を当てている。
3.最近の労使紛争の状況
(1)労働争議の概要
労働組合では、労働者の権利・労働生活の質・安全と健康・適正な賃金を求めて闘っている。しかし政府と使用者側は、労働者と労働組合に対して権利を認めようとせず、労働者の権利をはく奪しようとしている。インフレによって購買力が低下した賃金を補填する時期や使用者側が不当な大量解雇、反労働組合的行為を実施する際に労使の緊張関係がピークに達している。
インダストリー4.0の進展は良い点も悪い点もあった。AIの導入はスマホによる銀行口座管理、ハイパーマーケットの増大、アルゴリズムによる人事施策は効率化の名のもとに多くの失業者を生み、求職者に対するAI自動選別は差別や排除をもたらした。
医療分野の労働組合では、パンデミックの影響で医療従事者に対する国民の労働に対する評価が低下、ハラスメントが発生するなど労働意欲と仕事に対する尊厳が失われようとしている。このような状況下、安定した賃金だけでなく市民の医療従事者への感謝と尊敬が必要であると訴えた。
(2)労働争議の原因と内容
ブラジルの労働法の歴史は、労働省の傘下にあった労働組合の自由と独立のための歴史でもあった。この関係からの脱却が労働運動の原点にあった。労使関係をより強化するための運動も展開されてきたが、近年の労働法の改悪・廃止によって労使関係が劣化、労働者に対するハラスメントの横行、組合活動への妨害が行われている。労働協約で守られてきた労働者の労働保護が大幅に縮小され、日本でいうチェックオフが禁止されたことから労働組合の財源である組合費の徴収が困難になった。そのため、労働組合自身の力も弱体化して労働組合組織率も低下した。高い失業率と高騰する物価高は労働者を苦しめ、ブラジルの経済危機によって労働者の不満は現行政府と一部の利益を確保している企業に向かっている。
主な労働組合と企業の衝突は、日常行われている解雇と労働協約の不履行によるものが起因している。また、使用者側は労働組合の弱体化を目的に一部の労働者のみに優遇された労働協約を締結して内部分裂を起こそうとしている。
(3)労働争議の結果
労働組合は、インフレ率を上回る賃金の補充、組合活動の尊重、不当な解雇の撤回、雇用の維持拡大、パンデミックによる危険から守るための安全衛生措置等を要求して闘った。しかしインフレ率を上回る賃金の再調整は不十分な結果に終わり、労働者の不満は解消されていないため、今後も労使間の紛争は続くものと思われる。
4.労働組合としての新型コロナウイルスの対策
CUTでは、社会的ガイドラインに従うため労働者の在宅勤務制を導入、ワクチンの早期アクセス確保のためのワクチンの特許破棄を求める活動を展開した。また、政府に対してパンデミックにより影響を受けた社会的弱者に対する経済的支援として、一人600レアルの緊急支援を要求している。