2021年 カンボジアの労働事情 (カンボジア・バングラデシュチーム)
本報告はCOVID-19パンデミック禍で、2022年1月10日~21日にJILAFが実施した「オンラインプログラム」〔カンボジア・バングラデシュチーム(カンボジアチームは1月10日~14日に実施、バングラデシュチームは1月17日~21日に実施)〕におけるカンボジアの参加者から報告された「カンボジアの労働事情」および同提出関連資料に基づいて作成した。なお今回は、「コロナ禍における雇用・労働情勢、そうした環境下で生じた最近の労使紛争とその解決に向けた取り組み事例等」を中心に報告された。
カンボジアからはITUCカンボジア協議会(ITUC-CC)に加盟する3つのナショナルセンター〔カンボジア労働組合連合(CCU)、カンボジア労働組合連盟(CCTU)、カンボジア労働総連合(CLC)〕から下記の計7名が参加した。
カンボジア労働組合連合(CCU)
- ポンローク キァン(Ponlork Kean)
- 加盟学識者・学生労働組合連盟 執行委員
- モリニー イン(Moliny Yin)
- 加盟学識者・学生労働組合連盟 会計担当
カンボジア労働組合連盟(CCTU)
- ヴィラークテープ チョンモントル(Viraktep Chuonmomtho)
- カンボジア労働組合連盟 局員
- マカラー ウム(Makara Um)
- カンボジア労働組合連盟 局員
カンボジア労働総連合(CLC)
- ナヴィー メイン(Navy Meng)
- カンボジア労働総連合 調査局員
- ブンチュー レン(Bunchher Leng)
- カンボジア労働総連合 プロジェクト担当局員
- サウティー トン(Saody Thon)
- カンボジア労働総連合 会計アシスタント
〔カンボジア労働総連合(CLC)〕
1.労働情勢
(1)カンボジアにおける繊維産業とその経済的寄与度
1960年代後半から1990年までに及ぶ内戦・内乱のうえに生まれたカンボジアは、衣料品輸出市場から恩恵を受ける国の一つであり、縫製業など繊維産業が主要産業となっている。米国とカンボジアの二国間繊維貿易協定(1999~2004年)は、カンボジア経済を世界経済に組み入れ、自由貿易経済への移行を促すことを目的としたものだった。また2011年以降、欧州連合(EU)の「一般特恵関税制度」(GSP)のもと、「Everything But Arms(EBA)」(武器以外の全品目に対する無関税、数量制限無しの原則)からも恩恵を受け、EUの輸出インセンティブを享受している。こうした背景の中で縫製業等繊維産業セクターは、政府の歳入面での主な財源となっている。そしてこのセクターは、雇用面でみても、カンボジアにおける最大の受け皿になっており、ちなみに2019年の実質国内総生産(GDP)成長率の17%を占めている。なお、繊維産業(「縫製業」など)の労働者の雇用契約は約8割が無期契約(正規雇用)となっている。
(2)2016年労働組合法改正とその影響
2016年の労働組合法改正から今日に至るまで、労働組合の組織化と組合活動への参加の権利を実現することが非常に困難になった。その要因には、①新法54条、55条および59条により、労働組合が法的枠組みの内外で労使紛争を解決する際に、労働者を代表する権利を行使できなくなったこと、②労働組合結成は全従業員の過半数の同意が必要で、かつ、政府の承認を求めるための登録が必要なこと、③法改正の2016年以前に登録された全ての労働組合について再登録(大変複雑な形式での登録)が義務づけられたこと、④既に登録されている労働組合であっても、労働組合法違反との判断によって登録が解除されることがあること、などが挙げられる。
(3)カンボジアの最低賃金
カンボジアの最低賃金は「縫製業」と「製靴業」に適用される産業別最低賃金があり、その表示単位は「月額」である。国内の全ての労働者に適用される最低賃金や上記産業以外の最低賃金はまだ設定されていない。
2.コロナ禍での最近の労使紛争と解決に向けた取り組み
(1)コロナ禍での労使紛争
カンボジアでは、コロナ禍で労使紛争が増加し、その中で使用者による労働法・労働契約・団体交渉協約違反の事例が多くみられる。具体的には、COVID-19パンデミックの中で、多くの労働者が社会的保護や雇用給付を与えられず、賃金の支払いを受けていない実態にある。こうした状況下、労働組合は国民への理解を求め、ストライキや公共の場でのデモを行っている。一方、使用者代表(事業者団体)は、常に企業の経営が破綻目前であることを強調し、賃金の支払いを拒否している。カンボジア政府は、パンデミック下で労働者を支援するための予算を計上するなど支援策を講じている。
(2)労使紛争解決に向けた動向
労使紛争が解決に至った場合は、一部の労働者は復職し、労働者には適正な補償金が支払われるケースもみられる。この場合、企業の生産は継続され収益も発生している。
一方、労使紛争が継続している場合は、労働者は解雇され、雇用契約の終了に伴って失業することとなり、家族の生活が困窮する事態に陥っている。また、労使双方が司法機関に申し立てる場合もあり、この場合は多額の法定費用が発生することになる。
3.カンボジア労働総連合(CLC)のCOVID-19対策
COVID-19パンデミック下で雇用を失い、賃金の支払いを受けない労働者も多く、こうした労働者への法的支援、財政的支援、食料などの生活支援の取り組みを行っている。
(1)法的支援
労働者が使用者と社会的対話を行い、解決策を見出すための法的支援を行う。また、労働者が仲裁評議会や労働省などの機関に苦情書を提出、裁判所に訴状を提出する対応への支援を行っている。
(2)生活支援
緊急事態において労働者とその家族が生活を続けていくための支援策は重要である。カンボジア労働総連合(CLC)は、彼らに対し食料品の小包を提供している。
(3)感染防止対策
労働者のリスクを最小限に抑えるため、感染防止対策に関するリーフレット、ポスター、ショートムービーを作成している。
〔カンボジア労働組合連盟(CCTU)〕
1.労働組合が直面している課題と労使紛争
(1)2016年労働組合法の問題点と使用者側による労働組合への差別的対応
労働組合設立(結成)における法的な課題があり労働組合結成を困難にしている。具体的には、2016年の労働組合法改正によって、労働組合結成には全従業員の過半数の同意が必要で、かつ、政府の承認を求めるための登録が必要なことなどの制約がある。
また、使用者側による労働組合幹部の解雇事例もみられるなど、労働組合法違反案件が発生している。
(2)最近の労使紛争と取り組み
上記の労働組合への使用者の対応面での課題に加え、さらにコロナ禍で、報酬(賃金)の支払い、企業内福祉や労働安全・衛生などをめぐる労使間の紛争も起きている。
ちなみに、カンボジアの労使紛争(集団的労使紛争)解決ルートとしては、労使間の交渉で解決に至らない場合、労働省の労働監督官による調停手続きに入る。この調停で和解に至らなかった場合、労働大臣の負託を受けた仲裁委員会が開催され、労働法上の仲裁手続きに入る。ここでも解決できない場合は裁判の段階に進むこととなる。
最近の労使紛争において、使用者側は、①労働者側の要求は労働法違反である、②労働者は企業の利益を損なっているなどと主張し、これに対し労働組合は、①使用者側が利益を過度に追求している、②労働契約に関する規則には法律に優先する内部規定や団体協約が定められている点などを強く主張している。
2.カンボジア労働組合連盟(CCTU)のCOVID-19対策
カンボジア労働組合連盟(CCTU)は、ソーシャルメディアで保健省の指導に基づくコロナウイルスの影響と防護の方法について発信をしている。また、保健省の感染防止策「三つのNO」「三つの防止」の徹底遵守、マスク着用とアルコール噴霧、ソーシャルディスタンスの確保など取り組みの徹底を促している。
〔カンボジア労働組合連合(CCU)〕
1.労働組合運動をめぐる状況
労働組合運動をめぐり、使用者側による下記のような反労働組合的対応が行われ、労働組合運動が厳しい状況に置かれている。
- 労働組合法上の制約もあり、労働組合設立に対して締め付けが厳しくなっている。
- 労働組合への明らかな脅迫的行為がみられる。
- 最近、多くの労働組合指導者が不当逮捕されている。
- その他、労働組合法に違反する様々な反労働組合的行為が多くみられる。
2.最近の労使紛争と取り組み
(1)労紛紛争の要因
使用者側による次のような対応に起因した労使紛争が多く発生している。
① 使用者側による明らかな労働組合法に違反する反労働組合的行為
② 労働組合への様々な差別的待遇
③ 当局(政府機関等)による使用者側への肩入れともいえる対応
(2)労使の主な主張点
最近の労使紛争において、使用者側は、①労働者側の要求は不当である、②労働者は企業の利益を損なっているなどと主張している。これに対し労働組合は、①使用者側が利益を過度に追求している、②使用者側が労働者に対して法律に違反する対応をしている点などを強く主張している。
3.カンボジア労働組合連合(CCU)のCOVID-19対策
カンボジア労働組合連合(CCU)は、COVID-19の影響やウイルスから身を守る方法などについてソーシャルネットワークサービスを通じて発信している。また、組合員に対してマスクやアルコール消毒液などの衛生用品を配布するなどの支援を行っている。