2022年 イタリアの労働事情 (先進国チーム)
2022年2月11日 講演録
イタリア労働総同盟(CGIL)
モニカ セレミーニャ
イタリア労働総同盟 ヨーロッパ・国際政策局政策局員
イタリア労働同盟(UIL)
ダビデ ドリノ
イタリア労働同盟 国際局員
1.基本情報
イタリア共和国は南ヨーロッパに位置する共和制国家、首都はローマでスイス、オーストリア、フランス、スロベニアと国境を接しバチカン市国はローマの領域内にある。古代文化の発祥地として有名で歴史上ローマ帝国の中枢にある。UN・NATO・EU・G7・OECDの主要メンバーで、国土は約30万平方キロで日本の5分の4、人口は約6000万人、言語はイタリア語、宗教はキリスト教、政治は2院政で元首は大統領、通貨はユーロ。
主要な産業は、気候風土の関係で世界有数のワイン生産国で酪農も盛ん、第二次大戦後は工業が発展して、自動車、繊維工業、化学工業、食料品製造業が中心となっている。主な貿易相手国は、ドイツ、フランス、アメリカ、イギリス、スペインで多くのエネルギー源を輸入している。日本との貿易は、イタリアから衣料品・アクセサリー・ワイン・オイルを輸入して、オートバイ・コンピューター・電気機器・トラックを輸出している。
GDP総額は2兆6600億ドル、一人当たり名目GDPは44000ドル、GDP成長率は△8.87%、失業率9.4%若年失業率は28.2%でニートの割合が多い。
ナショナルセンターは、イタリア労働総同盟(CGIL)イタリア労働同盟(UIL)イタリア労働組合連盟(CISL)でITUC・ETUCに加盟。
2.団体交渉と当事者
全国団体交渉協約(NCBA)は、特定の事業セクターの雇用主協会と労働組合との協議によって定められる協約である。事業ごとに異なるNCBAが存在して、賃金、職種、労働時間等の労働条件が定められている。補足協約は、雇用主と労働組合との間で社内的に協議される。
○国レベルでの団体交渉の適用範囲は80%
- イタリア団体労働協約―全国部門別協約―第1レベル―国と各業界労働者、使用者団体、政府の間で行われる。
給与、労働時間、シフト、保険、休日、年功序列制などを協議 - 地域・地方や企業における合意-第2レベル―使用者と地域の利害関係者、団体交渉の当事者(RSA・RSU)
作業シナリオに応じた柔軟性、生産性に応じた昇給、企業の福利厚生、二者間基金、教育訓練などが可能
○団体交渉当事者の決定
- RSA 企業別組合の代表者は3年に一度、組合によって指名され労働者集会で選出される。
- RSU 単一組合の代表者は3年に一度、従業員15名以上の企業で組合員または非組合員の労働者集会で選出される。
3.GKN労使紛争の経緯
(1)GKNグループとGKNドライブインフィレンツェについて
GKNグループは、30か国で事業展開する英国の多国籍企業で、51の工場と27500名の労働者・従業員を雇用、主に航空宇宙産業と自動車産業の部品を生産している。ドライブインフィレンツェは、自動車用シャフトの生産を行っている。2018年にエンジニアリング事業を専門に買収する英国のファンドグループに買収され、大規模なリストラを宣告された。GKNは、ESF基金(企業支援の欧州社会基金)とイタリアの国家支援金も受け取っている。
(2)労使紛争の概要
このファンドグループは、2019年に英国とドイツにあるGKN工場を閉鎖し、1229名のレイオフを発表した。次いで2021年GKNはカンピ・ビゼンツィオ(フィレンツェ)工場の閉鎖と解雇通知を422名にメールで通知した。この決定は、労働組合と労働者に何の連絡もなしに行われ、法人契約書と労働法の違反行為であり、GKN欧州協議会さえ知らされていなかった。しかもこれは財政危機によるものでなく、前年四半期比で7%も利益は増加していた。
(3)労使紛争の原因
2021年7月GKN労働者は、CGIL、CISL、UILの支援を受けて、不当解雇から雇用を守るためゼネストを敢行した。主な要求内容は、解雇の撤回・労働者と労働組合の尊重・工業地域の保護・事業モデルの確立であった。
(4)労働組合の行動
労働組合は、ゼネストから10日後フィレンツェ労働裁判所に対して申し立てを行った。その内容は
① GKNによる反組合的行為の影響を排除すること
② カンビ・ビゼンツィオ工場の解雇通知取り消しと無効
③ 退職を余儀なくされた従業員の復職
④ 労働組合への非経済的損害賠償
この申し立てに対して会社側は、反組合的行為ではなく法的義務にも違反していないと強く主張した。
(5)紛争の結果と現状
この労使紛争は、交渉相手が使用者ではなくファンドグループの法律事務所であるという初めてのケースであり、ETUCやイタリア経済開発省や首相までもが関心を寄せる 大きな問題となった。2021年9月フィレンツェ労働裁判所は労働組合の申し立てを認めGKNを断罪した。また、GKNの行為は反組合的であるとした。
① 集団的解雇通知の取り消し
② NCAとの協約にある情報提供と協議手続きの開始
③ 全国紙へのコメント掲載
④ 労働組合の訴訟費用支払い
判決後の昨年12月には新たな買収ファンドグループがGKNドライブインフィレンツェを買収し社名をQF ltdに変更。2022年1月QF社、地方政府・中央政府、労働組合が協議し雇用を継続保障する内容で合意した。QF労働者はこれに賛成した。
しかし問題は解決したわけではなく、新たな買収グループは業態転換を試み別の投資家を模索しており、製薬産業かエネルギー産業への業態転換が危惧されている。
4.COVID-19への労働組合対策
COVID-19に対する労働組合しての対策は、政府のロックダウン措置について使用者団体との労働安全衛生議定書の合意交渉を行った。この合意内容に基づき職場での感染対策に必要な全ての措置と手段について全力を傾注した。職場組合員に対しては議定書の内容を広報宣伝し、議定書を遵守するための特別委員会を設置した。