活動報告 各国の労働事情報告

2022年 フィンランドの労働事情 (先進国チーム)

2022年2月11日 講演録
 国際労働財団(JILAF)では先進国チームとしてフィンランド労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労使紛争未然防止の取り組み等について学ぶためのプログラムを準備した。しかし、新型コロナウイルスの影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。以下は、参加者提出の資料のほか、「労働事情を聴く会」や参加者との意見交換を基に、外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。

フィンランド俸給従業員同盟(STTK)
マティー コスキネン

公務労働組合連合会(Trade Union Pro) 国際局長

サリー コイブニエミ
医療従事者労働組合連合会(Tehy) 国際局部長

1.基本情報

フィンランド共和国は北ヨーロッパに位置する共和制国家、首都はヘルシンキでスェーデン、ノルウエー、ロシア連邦と国境を接している。首都はヘルシンキ、国土は約34万平方キロ、人口550万人、氷河によって形成されたタイガと森林におおわれ国土の3分の1が北極圏である。公用語はフィンランド語、宗教はプロテスタント教会ルーテル派が多く、議会は一院政、元首は大統領、通貨はユーロ。人口や経済規模は小さいが一人当たりのGDPは高く生活水準は世界一のレベル、幸福度・幸せ指数も世界トップクラスである。
男女同権意識が高く、女性労働力は約70%で医師や法律家の半数を占め国会議員の3分の1も女性である。
名目GDPは2371億ドル、一人当たりのGDPは4万9千ドル、GDP成長率は△2.8%、失業率7.8%、消費者物価上昇率0.4%、である。
主要産業はハイテク産業、サービス業、機械産業、紙パルプ産業で主な貿易国はスェーデン、ドイツ、オランダ、アメリカである。日本とは、フィンランドから木材とコルク、紙類と化合物を輸入して日本からトラック、電気機器、機械、ゴム製品を輸出している。
ナショナルセンターはフィンランド俸給従業員組合(STTK)、フィンランド労働組合中央組織(SAK)、フィンランド専門職管理職組合連盟(AKAVA)がITUCに加盟。

2.労働事情

<Trade Union Pro(公務労働組合連合会)とTehy(医療従事者労働組合連合会)の労使紛争>

  • (1)Trade Union Proは、世界最大の紙パルプ会社UPMから伝統的な森林産業セクターにおける全国的団体協約交渉を一方的に拒否された。UPMは、今後の団体交渉は企業別に実施する旨を通知した。
  • (2)Tehyは、2007年有資格医療従事者の賃金の大幅な増額を要求。地方自治体との交渉は合意に達せず退職という抗議活動を展開した。

<労使紛争の原因とその後の展開>

  • (1)使用者団体のフィンランド森林産業が2020年10月規則を変更して、従来の伝統的な方式である全国団体交渉から離脱を発表。しかし、UPMを除く他社とは交渉が成立したがUPMだけが交渉を拒否し続けている。
  • (2)地方自治体との交渉では、Tehyを除く労働組合は合意に達したが、Tehyの評議会は使用者案を拒否。医療産業の将来と格差是正を再度要求し、時間外労働の禁止・シフト変更の禁止などの抗議行動をスタートさせた。また、メンバーが退職を志願するという抗議行動を展開。

3.労使の主張

  • (1)Trade Union Pro側
    ・伝統的な団体交渉は機能的でバランスを重視した結果をもたらしていた。
    ・従来から労働法より良好な労働条件を定めている。
    ・UPMの方針はイデオロギー的である。
    UPM側
    ・伝統的な方式は国際競争が激化する中で現実的でない。
    ・企業レベルではなく業種レベルでの交渉を意図している。
    ・雇用条件には企業の将来的ニーズと仕事の変化を反映させる。
    ・高所得サラリーマン(専門職・管理職)と同じ方法で労働条件は決定していく。
  • (2)Tehy側
    ・組合員15600名が合法的に退職の意思を提示
    ・医療従事者2年半で毎月400~600ユーロの増額を要求
    使用者側
    ・Tehyによる大量退職は違法であるとして提訴
    ・看護師月額220ユーロ、准看護師月額185ユーロの増額を提案

4.解決に向けた行動

  • (1)Trade Union ProはUPMに対して絶えず様々な提案を行って、ホワイトカラー労働者の将来的な団体協約のモデルなどを非公式に提案してきた。1月から3週間のストライキを予定しており現在も継続中である。
    UPMはホワイトカラー従業員の団体交渉を拒否して、国家調停人による調停も拒否して解決に向けた行動は取っていない。
  • (2)労働大臣による調停委員会が設置され、解決に向けた提案を行った。

5.労使紛争の結果

  • (1)Trade Union ProとUPMは互いの主張をし続け、フィンランド全国の労働組合が 紛争の経過を注視している。今後、仲介人が調整役となるが工場は現在も操業されておらず、毎日大きな損害が発生している。
  • (2)Tehyと使用者側は調停案に合意して組合員の退職は取り消され雇用は確保された。また、4年間の賃金増額は平均で22~28%を獲得した。Tehyに対する関心が高まりメンバーも増えて、女性の多い業界の賃金に大きな影響を与えた。

6.COVID-19に対する労働組合としての対策

Trade Union Proは、ウェブサイトを開設し労働者の権利・義務について組合員に通知するとともに、一時解雇の交渉期間を6週間から5日に通知期間を14日から5日に短縮する代わりに、失業給付金の開始を従来の2週間後から失業1日目から支給する法改正が行われた。
Tehyは、COVID-19の最前線で医療に従事するメンバーにとって大変困難な状況であった。COVID-19によって入院患者が増え業務は多忙となり、医療従事者に対する国からの補償金や危険手当は支給されないため離職者が増えた。そのため、労働環境の改善と手当の支給について政府と地方自治体との交渉を行っているが、政府は消極的で地方自治体は拒否している。