活動報告 各国の労働事情報告

2022年 中国の労働事情 (中国・ミャンマーチーム)

2022年7月5日 報告

 本報告はCOVID-19パンデミック禍で、2022年7月11日~15日にJILAFが実施した「オンラインプログラム」〔中国チーム〕の「労働事情を聴く会」において参加者から提出して頂いた「労働事情報告」と本プログラムの中で実施した「JILAFによる労働事情収集」(上記「労働事情報告」に対するヒアリング)に基づいて作成した。
上記提出レポートは、山東省出身の参加者(二人)から提出されたものである。したがって、この「中国の労働事情」はこの二つの報告の要旨を(1)「コロナ禍における山東省総工会の取り組み」、(2)「調和のとれた労使関係の構築に向けた取り組み」(日系企業における事例)としてまとめたものである。
なお、本プログラムには中華全国総工会(ACFTU)から下記の5名が参加した。

中華全国総工会(ACFTU)
Ms. Y.Z

中華全国総工会 法律部副部長
Ms. L.Y
中国労働関係学院 労働関係と人的資源学部副教授
Ms. X.W
山東省職工対外交流センター主任
Mr. Z.S
DUPLO(山東)辧公設備有限公司工会主任
Ms. X.Z
中華全国総工会 国際部幹部

<中国における労働事情>

1.コロナ禍における山東省総工会の取り組み

1.山東省総工会の概観

山東省は中国東部の沿海に位置し、16の市、136の県(市、区)を管轄し、省全体の人口は1億人を超えている。 「山東省総工会」は1940年に設立され、現在16の市総工会、136の県(市、区)総工会、19の産業(業界)工会がある。省全体では、労働組合が10万5,000ヶ所にあり、組合員は1,408万2,000人となっている。

2.コロナ禍における疾病予防対策と企業活動の操業再開に向けた取り組み
  1. 省総工会は「疾病予防対策と経済・社会発展の統一計画を適切に行うことに関する20条の措置」を制定し、この政策に基づいて予防対策物資を調達し、労働組合幹部と従業員ボランティアが疾病予防対策サービスに積極的に参加している。
  2. 省総工会は企業の操業再開と生産再開にも全力で協力している。この中で、市場の活力を引き出し、消費の成長を促す取り組みも促進した。例えば、労働組合はアプリやTikTokなどの新メディアプラットフォームを活用し、疾病の影響を受けやすい企業のタレントなどインフルエンサーによる販売促進などを支援する取り組みを行っている。こうした取り組みと併せて、企業の雇用を最大限に安定させ、従業員の就業を促す取り組みを推進している。
  3. 省総工会は特別資金によって医療チームの従業員に対する仕事と生活物資の補償に用いた。また、疾病の影響を受けた低所得者や生活困窮従業員に対して、特別見舞金を支給するとともに、学業支援・医療・技能訓練・就業サービスなどの面でも援助を行っている。
3.新雇用形態における労働者の権利と利益の保護のための取り組み

この数年来、ネット配車のドライバー、宅配業者などプラットフォーム経済に依拠する多くの労働者が増加し、企業の組織形態と労働者の就業方式に変化が生じてきた。山東省総工会は、こうした新たな就業形態の労働者の権利と利益の保護のために次のような取り組みを推進している。

  1. 行政やその他関係多方面に呼びかけ、新就業形態労働者の権益保障に焦点を当てた特別協議会を開催して共通認識の醸成を図ってきた。そして、「省人的資源社会保障庁」が新就業形態労働者を柔軟な就業者登録範囲に組み入れて支援し、全国で新たな職業資格審査を模索するよう促している。また、「省医療保険局」は保険加入戸籍制限の撤廃などを推進し、「省郵政局、省速達協会」などはガソリンスタンドなどに「運転者の家」を設置し、多様で便利なサービスの提供を促すための取り組みを行っている。
  2. 山東省総工会は「新しい就業形態の労働者の労働保障権益の適切な擁護に関する実施意見」を発表し、「省人的資源社会保障庁」・「省企業連合/企業協」・「省工商連合」と共同で新業態業界団体交渉作業を推進するための措置を制定し実施している。
  3. 全省の労働組合は、新就業形態の労働者の加入を促進している。新しい就業形態の労働者の「就業が柔軟で、流動性がある」といった特徴を踏まえ、オンライン労働組合組織システムを開発して「コードスキャン」による加入・移籍ができるようにした。2022年4月現在、全省の新しい就業形態の労働組合組織は、約5,000ヶ所、組合員数は50万人以上に達した。

4.労働法への対応

  1. 山東総工会は労働に関する法律・法規と政策の策定に積極的に参加している。全省の労働組合は、従業員の関心が高く、かつ、困難な課題に注目し、広範な調査研究を展開する中で、積極的に提案・献策を行い、労働法規・政策の策定に関与している。こうした取り組みの中で、我々の多くの提言が省委員会、省政府の政策に組み込まれている。
  2. 全省の労働組合組織は、法律・法規に関する多様で豊富な教育・宣伝活動を展開している。また、最新の法律・法規や政策を整理し、ウェブサイト、新聞・雑誌、新メディアなどを活用して宣伝を行っている。
  3. 中華全国総工会の作業計画に基づき、労働に関する集団紛争の動向を定期的に調査し、法律監督メカニズムを確立している。全省・市・県レベルの労働組合は労働法律監督委員会を設置している。また、規則違反行為のある企業には「労働組合の法律監督意見書」と「労働組合の法律監督提案書」を発行している。
  4. 「労働組合法」では、「労働組合は企業の労働争議調停業務に参加する」と規定している。そして、「労働争議調停仲裁法」では、「労働争議が発生した場合、労働者は労働組合と共同で使用者と協議するよう求めることができ、従業員代表と企業代表で構成する企業労働争議調停委員会を通じて調停を行う」と規定している。山東省総工会は、労働争議の協議・調停を重視し、協議・解決のメカニズムを発展・充実させることに努めている。
  5. この間、従業員の法律相談所の設置を加速させてきた。現在までに、従業員に提供した法律相談は延べ7万人以上、法律援助案件は1万3,000件以上となっており、調停・仲裁および訴訟案件では2万8,000件以上の代理を務めている。

2.「調和のとれた労使関係の構築に向けた取り組み」(日系企業における事例)

1.会社と労働組合の概況
  1. 会社の概要
    DUPLO(山東)辧公設備有限公司は、オフィス印刷及び印刷設備を生産する日本のデュプロ精工株式会社(本社:和歌山県)が投資した全額出資企業である。従業員は91名(うち中国の従業員は88名)である。会社は日本の全額出資企業だが、中国の各種法律・法規を遵守し、誠実な経営を行い、従業員第一の経営理念を堅持している。
  2. 労働組合の沿革と基本理念
    2005年2月にDUPLO(山東)辧公設備有限会社労働組合委員会を設立した。組合主席は支部書記と会社の副総裁を兼務し、会社の取締役会に参加し、労働組合と会社は従業員の利益と会社の経営戦略について平等に協議する。労働組合の会員は88名(中国の従業員全員)で「労働組合委員会」は5人で構成している。労働組合は常に労働に関する法律と法規を遵守し、かつ、企業の規則と制度の制定に参加し、効果的に従業員の権益を守り、「労使関係の調和のとれた発展」を促進することに努めている。
2.調和のとれた労使関係の構築に向けた具体的取り組み

調和のとれた労使関係の構築に向けた具体的な取り組みは次の通りである。

  1. 従業員の権益を守り、従業員は出勤を喜び、退勤を楽しむ
    会社は法に基づき従業員のために労働契約を締結し、これまで賃金は満額・期限通りに支給し、未払いは一度もない。労働時間は1日8時間、週休2日制である。時間外労働が必要な場合は、労働契約及び労働法の規定に基づき実施される。
  2. 従業員の社会福祉待遇を保証し、従業員の住宅などについて解決する
    会社は従業員のために社会保険を納付し、また、規定に基づき従業員住宅積立金を納付して、従業員が住宅を借り入れるための支援を行っている。
  3. 従業員の安全衛生に努める
    毎年従業員のために健康診断を行っている。また、女性従業員の妊娠期間については、必要に応じて有給健康診断を行うことができる。
    安全衛生面では、会社の安全管理規定に基づき、定例会と特別会議などの形式を利用して協議と周知を図る取り組みを行っている。また、生産現場における安全衛生の確保のため、リスクの調査と管理を積極的に展開している。
  4. 従業員の休日・休暇の権利を守り日常生活条件を改善する
    法定祝祭日以外にも毎年1週間の有給休暇を設けたり、旅行を企画したりして、従業員の余暇を豊かにする取り組みを行っている。また、国慶節、春節、メーデー、元旦などの祝日には従業員に福利厚生を与え、夏季には規定に基づいて減温費、冬季には暖房費などを支給している。

以上の取り組みにより、会社は従業員の正当な権利と利益を守り、調和のとれた安定した労使関係を築き、労働争議を予防し、従業員はキャリアを構築して企業の調和と経済発展を促進している。