活動報告 各国の労働事情報告

2022年 チリの労働事情 (中南米チーム)

2022年8月5日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、チリ労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労使紛争未然防止の取り組み労働委員会の活動について学ぶためのプログラムを準備作成した。しかし、新型コロナウィルス禍の影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。従来の「海外の労働事情を聴く会」も開催が不可能となったことから、今回はナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき、参加者との意見交換や外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。

ナショナルセンター チリ中央統一労働組合(CUT)

1.基本情報

チリはアンデス山脈を中心に南北に長くアルゼンチン、ボリビア、ペルーと国境を接し、国土は75.6万平方㎞で南極の領有権をアルゼンチンとイギリスとの間で主張している。
人口は1921万人で欧州系が87%を占めている。首都はサンティアゴ、公用語はスペイン語、主な宗教はカトリックである。
政治体制は立憲共和制で二院制をひいている。クーデターによって発足した軍事政権は国民信任投票で敗北、民政移管後は中道右派と中道左派、共産党が政権を担当するが制度改革の進め方や政治家の不正と経済成長の減速に、国民が抗議行動を起こして政治が不安定となり当初予定されていたAPECとCOP25が開催中止となる。このような状況下、新憲法制定の国民投票が行われ賛成多数で可決された。
経済の指標は、経済成長率11.7%、実質GDP総額3169億ドル、一人当たりの名目GDP16070ドル、物価上昇率4.52%、失業率8.8%となっている。
主な産業は、鉱業、農林水産業、食品加工、木材加工などで、中国、アメリカ、ブラジル、日本などを相手に銅鉱、ウッドチップ、食品加工品などを輸出、原油、天然ガス、石炭、自動車、携帯電話を輸入している。
ナショナルセンターはチリ中央統一労働組合(CUT)が最大、組織人員約70万人で主な産業別組合は、銅鉱業、国家公務員、教職員、サービス業などである。ITUCに加盟。

2.労働事情

チリは2014年から2019年にかけて毎年平均約2%の雇用の拡大があった。しかし新型コロナウィルスの感染拡大によって状況が大きく変化して、失業率の増加、インフォーマルセクターでの雇用の増加などの不安定雇用が増大し雇用状況が後退した。特にパンデミックは女性労働者に大きな影響を与え、学校の休校や保育園の休園など育児と仕事の両立が困難となり離職者が増えた。パンデミック以降、雇用保護の面で後退が進み大企業を利する政策がとられている。

3.労働争議の概要

チリでは労働争議の考え方として、職場における二人以上の労働者の間の関係悪化を意味して、同僚間の口論や不信感の表れなどで性格や気質の問題として処理されている。
パンデミック以降、公務員は全員リモートワークを行っているが給与は一定のため影響が少ない。しかし、民間ではテレワークを行うと各種手当が減少して賃金が下がり、経営者は故意に経営を破綻させて従業員を解雇するなど労働者の権利を侵害する行為が頻発したことによって多くの労働者の反発を呼んだ。また、労働省は企業をコントロールして不当な解雇を止めさせることが出来ない状況で、具体的な解消策がないまま続いている。
外出制限は観光・ホテル・運輸・サービス・レストランなどに大きな影響を与え、雇用を中断された労働者は再雇用の保障も得られないままである。テレワークやリモートワークは家庭でのプライバシー、健康と安全を脅かし生活面での困難を招いている。
政府や企業は、国民や従業員の生活と安全を守る意識に欠けており、国民や労働者の反発を招いている。

4.労働者の要求と結果

 労働組合としての要求事項は

  • 雇用の安定確保
  • 最低賃金の厳守と購買力の維持
  • 中小零細企業への賃金補助政策
  • 中小企業と大企業との格差是正

これらの要求は政府と大企業の組合によって拒否され労働争議が拡大している。大企業の多くはパンデミック禍においても、大量解雇、アウトソーシング、非正規労働者への転換をはかって一定の利益を確保している。政府は根本的な問題の解決に向けた取り組みは行っておらず、国民不在のまま医療と経済危機を招いている。労働者の要求は無視されて対立が続いている。

5.労働組合としての新型コロナウィルス対策

政府は世界で最も早くCOVID-19探知用のPCR技術を開発、全国に196箇所のPCR検査所のネットワークを構築している。また衛生管理のための手順もできているが、これ以外は現在進んでいない。新しい政権は旧政権の政策を拒絶しており新たな対策は行われていない。労働組合独自の取り組みはなく、個人レベルでの食料や医薬品の提供が行われているが組織的な取り組みは行われていない。