2022年 ガーナの労働事情 (アフリカ・中東チーム)
国際労働財団(JILAF)は、2022年8月22日~26日、ガーナの労働組合活動家に日本の労働事情などについての知見を深めてもらうためのプログラムを実施した。プログラムはCOVID-19パンデミック禍にあって、オンラインにより実施されたもので、以下は、参加したGTUC(ガーナ労働組合会議)代表による報告等を参考にまとめたものである。
ガーナ労働組合会議(GTUC)
- E..O
- 海事港湾労働組合 労使関係オフィサー
1.基本情報
面積は約23万8千500平方キロ(日本の約3分の2)、人口は約3,128万人(2021年、IMF)、政治体制は共和制をとっている。
経済成長率(実質)はIMFのデータによれば2018年が6.20%、2019年が6.51%と好調であったが、新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020年については0.41%(推計)となった。その後徐々に戻し、2021年には4.23%(推計)となっている。
主要産業(2019年現在)は農業がGDPの19%を占め、特にカカオ豆の生産は世界第2位である。次にGDPシェアが大きいのは成長傾向が著しい商業・レストラン・ホテルで、2019年には19%を占めるまでになっている。これに続き鉱業等が17%近くを占め、金や石油は主要輸出品目となっている。
消費者物価上昇率は2018年が9.84%、2019年は7.14%、2020年9.89%、2021年9.98%で(IMF、2020年と21年は推計)、非常に高い水準が続いている。また、一人当たりGDP(名目)は2018年が2,275米ドル、2019年が2,265米ドル、2020年は2,225米ドル、2021年2,441米ドルであった(IMF、2019年以降は推計)。
全国三者委員会が全国の1日当たりの最低賃金を決定する。2021年6月4日から有効の最低賃金額は12.53セディ(2022年9月15日現在で1.235米ドル相当)で、前年の11.82セディから6%アップとなった。
法定労働時間は1日当たり8時間、週40時間となっている。
労働組合のナショナルセンターはガーナ労働組合会議(GTUC)で、約50万人を組織している。ITUC(国際労働組合総連合)ならびにOATUU(アフリカ労働組合統一機構)に加盟している。
2.最近の労使紛争事例
(1)労働争議の概要
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フランスに本社を置く多国籍企業B社(中核事業:海運、輸送、物流、内陸コンテナデポ)と、同社の303名の職員(海事港湾労働組合に所属)との間で、労働協約の更新を巡って発生した労働争議である。
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労働協約は2016年12月31日に期間満了日を迎えているが、労働法の下では、更新さされるまで効力を持ち続けることになっている。その下、労働組合は2018年に協約見直しに向けた提案を経営側に行った。しかし、労働組合がいくら求めても経営側が交渉のテーブルに着くことがないままに時が流れた。
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2021年6月になって、経営側が労働組合に対して対案を提起してきたが、その内容は組合員の労働条件の切り下げを図ろうとするものであった。しかも、時間的猶予を与えず、7月までに協約を締結したいとし、経営側としては、会社の業績が悪化している中でのやむを得ない切り下げであると主張した。
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また、フランス本社経営陣は、B社の株式の全てを地中海海運会社に売却・譲渡するための交渉を進め、その合意に目処が立った段階で、協約についての提案がB社から行われたのである。これについては、会社の売却は労働協約の交渉に影響を与えないとの説明が経営側から行われた。また、経営側は、労働協約の交渉・締結と年末のボーナスの支払いとをセットにするとの考えを表明した。
- これに対し組合員は2021年12月9日~11日にストを決行し、労働条件切り下げの提案に抗議するとともに、役員(常務取締役と人事部長)の解任を要求した。
(2)労働争議の結果
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交渉に進展が見られない中、経営側は事案を国家労働委員会(NLC)に付託した。
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NLCは裁定を下し、労使は長期にわたり失効状態にある労働協約の締結に向けてあらゆる努力を傾注して交渉を行うよう求めた。他方、常務取締役と人事部長の解任については、解任権は彼らを任命した取締役会にあるのであって、組合には無いとした。また、会社の売却によって交渉が停止されることがあってはならないと釘を刺した。
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この裁定により労使は交渉を続けたものの、諸手当、懲戒処分と手続き、勤務終了手当、解雇手当などについて合意が成立せず、膠着状態に陥った。そのため、労使はそろって事案をNLCに再付託した。
- NLCは紛争の解決を支援するために仲裁人を任命した。仲裁人による裁定は紛争を終結させるためのもので、労使双方がその裁定に拘束される。4回の話し合いが持たれ、裁定が下されたが、その内容は経営側の立場に立ったものであり組合側が納得できるものではなかった。結果的に、現時点において、組合はこの事案を労働裁判所に提訴せざるを得ないとの考えにある。