活動報告 各国の労働事情報告

2022年 マレーシアの労働事情 (ユース英語圏チーム)

2022年9月30日 講演録

国際労働財団(JILAF)は、2022年9月26日~30日、マレーシアの労働組合活動家に日本の労働事情などについての知見を深めてもらうためのプログラムを実施した。プログラムはCOVID-19パンデミック禍にあって、オンラインにより実施されたもので、以下は、参加したMTUC(マレーシア労働組合会議)代表による報告等を参考にまとめたものである。

マレーシア労働組合会議(MTUC)

Ms. Y.T
SMKパルマタジャヤ教職員組合

Mr. M.Z
プロドゥア・グローバル・マニュファクチャリング労働組合 会長

1.基本情報

面積は約33万平方キロ(日本の約0.9倍)、人口は約3,270万人(2021年、IMF推計)、政治体制は立憲君主制をとっている。
経済成長率(実質)は、IMFのデータによれば2018年4.84%、2019年4.44%と好調であったが、新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020年については-5.65%と大きく落ち込んだ。但し、2021年には3.13%(推計)となり、回復を見せている。
主要産業は、ゴム加工、石油、天然ガス、製薬、エレクトロニクス、木材加工である(出典:国連、2018年)。
インフレ率は2018年0.97%、2019年0.66%、2020年-1.14%、2021年2.48%(IMF)である。また、一人当たりGDP(名目)は2018年11,086米ドル、2019年11,234ドル、2020年10,351ドル、2021年11,391ドルであった(IMF、2021年は推計)。
失業率は、IMFデータによれば、2018年3.33%、2019年3.28%、2020年4.53%、2021年4.64%(推計)で、COVID-19の影響により2020年、2021年は高い水準になった。
組合組織率は約6%となっている。代表的な労働組合ナショナルセンターはマレーシア労働組合会議(MTUC)で、約50万人を組織し、ITUC(国際労働組合総連合)に加盟している。

2.最近の労働事情

(1)COVID-19の影響と失業者の増大

COVID-19感染対策として2020年3月以降、操業制限を伴う移動制限が繰り返し実施され、経済や社会に大きな影響をもたらしてきた。自動車を含む製造業、サービス業、ギグエコノミーなどはとりわけ強い影響を受けている。
中でも失業率の増加が顕著で、従前は3%前後で安定的に推移してきたものが、2020年5月には5.3%まで上昇し、過去10年間における最高値となった。その後も4%台後半で推移したが、本年(2022年)5月には何とか3%台(3.9%)への改善を見せている。
MTUCは政府との対話を行ってきているが、2022年6月の対話においては、どのように経済を改善するか、どのように生産性向上を確保するか、どのように全ての労働者に雇用を確保するかといった課題について話し合った。

(2)最低賃金の改定

5月1日から新最低賃金が適用されることとなった。それまでの月額1200リンギット(クアラルンプールなどの主要56都市が対象)と同1100リンギット(それ以外の地域が対象)から、全国一律で月額1500リンギット(2022年10月7日現在で約323米ドル相当)へと大幅なアップが実現した。また、時間当たりの最低賃金についても全国一律で7.21リンギットとなり、それまでの5.77リンギット(主要都市)と5.29リンギット(それ以外)から大きく引き上げられた。
なお、新最低賃金は、従業員5人以下の企業へは2023年1月1日から適用される。
今回の月額1500リンギットへの改定は、COVID-19の下で物価が大きく高騰している状況を受けて、MTUCが強く求めてきていたものであり、実施時期についても年末ではなく年央とすべきであるとしてきたことが実現を見たもので、MTUCの取り組みの成果と言える。

3.最近の労使紛争事例

マレーシアでは、近年、非常に深刻な労使紛争の経験はなく、ストも実施されていない。ここ2~3年は各地で争議が起きているが、労働組合はピケ行為により労働側の訴えを行っている。争議の背景にあるのは概してCOVID-19の影響で、企業の一部はCOVID-19を理由に法律や労働協約に違反し、紛争の原因を作っている。
紛争の多くは、賃金の不払いや減額が原因となっている。また、3年前の企業業績に基づいて交渉されることになっている労働協約について、経営側はCOVID-19の影響下での交渉を望まないことも背景となっている。
以下に、いくつかの具体例を列挙する。

(1) 賃金の減額

J社は労働組合との交渉を経ることなく一方的に労働者の賃金の60%を減額した。企業内組合の存在を無視するこの暴挙に対し、労働組合は労働局に訴え出た。経過は色々あったが、最終的に、労働局はJ社に対し賃金の全額支払いを命じ、解決に向かうことができた。

(2)ボーナスの不払い

K社は労使合意を通じて労働協約に謳われた2021年のボーナスの支払いを行わなかった。これは労働協約違反であるとして、労働組合は労働裁判所に訴え出た。K社は裁判所からボーナスの支払いを命じられたが、財政難のために全額を支払うことが不可能であることをK社が裁判所に証明できたことから、支払額の減額が認められることとなった。結果的に、労働組合としても0.3%の減額を受け入れて、解決を見た。