活動報告 各国の労働事情報告

2022年 パキスタンの労働事情 (パキスタン・モンゴルチーム)

2022年12月2日 報告

国際労働財団(JILAF)ではパキスタンの労働組合役員を対象に、労働を取り巻く課題や最新情報の共有、日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労働法制・社会保障制度、地方連合会との意見交換などのプログラムを準備・作成した。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。今回はナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき、参加者との意見交換や外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。

パキスタン労働者連盟(PWF)

S.S
PWFバローチスターン州支部教育長
S.F
家内労働者組合会長
S.S
PWF南部カイバル・パクトゥンクワ州支部書記長
A.A
PWF北部カイバル・パクトゥンクワ州支部教育局員
A.M.K
日野パックモータース労働組合会長
M.F.S
PWFシンド州支部総務・財政局員
M.I
PWF中央パンジャーブ州支部副書記長
Q.U.A.W
PWF北部パンジャーブ女性委員会議長

1.基本情報

パキスタン・イスラム共和国は北部に世界最高峰のK2、南部には大湿地帯、中央にはインド砂漠が広がる国土880万平方キロの連邦共和制国家である。首都はイスラマバード、人口は2億4千万、世界第2位のイスラム教徒国家であり、かつてはインダス川流域にインダス文明が栄え歴史的にも大きな影響を与えた国である。公用語は国語としてのウルドゥー語と英語、政治は2院政、元首は大統領となっており、新興経済国の中でも高い経済成長率を誇っている。かつてはイスラム教とヒンズー教の対立が激しく分離独立の上にパキスタンとバングラデシュに分かれた経過がある。
対日関係はパキスタンの核実験によって一時悪化したが、その後経済的支援は再開されている。国境を接するインドとは長年領土問題(カシミール)から幾度となく戦争があり、タリバン問題ではアメリカと対立している。
GDP総額は3477億ドル、一人当たりのGDPは1562ドル、物価上昇率9.5%、失業率6.34%、国民の半数は貧困層である。主要産業は農業・綿工業で小麦の生産量は世界第6位、綿布や既製服は大きな輸出産業である。近年では日本の自動車産業が進出して、オートバイやトラックを生産している。主な貿易相手国は、輸出はアメリカ・中国・イギリスで輸入は中国・UAE・シンガポールとなっている。
ナショナルセンターは、3つのナショナルセンターが統合されパキスタン労働者連盟(PWF)が最大の組織となっており、500以上の組合が加盟して組合員は約100万人、ITUCに加盟。

2.労働事情

(1)一般情勢

①児童労働
児童労働の法令違反において世界有数の国である。現在約1250万人の子供が児童労働に従事している。その内、14歳までの男子が61%を占めており、その88%が農村部の出身。子供を学校に通わせることが出来ない貧困家庭の子供が影響を受けている。児童労働の問題は子どもへの虐待と暴力で世界から批判を浴びて、政府は「子ども支援プログラム」を作成して資金を提供している。児童労働が最も多いシンド州では、児童労働禁止法に基づき違反者に対する禁固など厳罰がくだされている。

②女性問題
仕事と家庭のバランス、賃金の不平等である。性による差別は男性優位の社会構造にあり、女性の教育を受ける機会も少ない。女性は家庭に閉じ込められて家事をすることが主な役割であるため外に出て仕事に従事する事には大きな制約が伴っている。

③最低賃金
パキスタンにおける最低賃金は政府によって設定されるが、労使によって決められる場合は一方的に設定されることがある。政府の決定した最低賃金は、25000ルピーとなっているが多くの組織・団体・企業ではそれ以下で給与は支払われている。また、所定労働時間の8時間も遵守されていない。

④組織強化活動
労働組合は、組合が存在していない全ての分野の組織化に焦点を絞り、結束強化をはかっている。
パキスタン労働者連盟(PWF)は、教育プログラムを通じて労働組合のリーダーシップ能力を向上させ次世代のリーダーを養成していくこと、また女性活動活発化のため女性の割合を33%に目標設定している。また、同一労働同一賃金、性差別の撤廃、ディーセントワークの推進のためILO条約189号と190号の批准のための活動を展開している。

(2)労使紛争

①労使紛争の定義
パキスタン労働争議法に定められた定義は「あらゆる雇用及び被雇用に関し、雇用条件または労働条件に関する使用者同士、使用者と労働者または労働者同士の紛争または相違」となっている。

②労使紛争の原因
労働争議は経済的または非経済的な原因から発生する。経済的原因としては、賃金、賞与、諸手当、労働条件(労働時間・休暇・休日)、不当解雇、人員削減などの補償に関するものである。非経済的原因は、労働者を犠牲にする行為、職員による虐待、ストライキ、政治的要因、規律違反などである。

③労使の主な主張と解決に向けた取り組み
労働組合側は、主に賃金の引上げや福利厚生の充実、職場環境の改善、使用者に対して労働者の声に耳を傾けて労働者を取り巻く問題に対処することなどを主張している。 政府や使用者に対して、労働組合側の要求を実現するため就業拒否やストライキの実施を行っている。
使用者側は、ブローカ―(派遣業者)を雇用して直接的に労働者との問題には介入しようとはしてない。
最低賃金の遵守より罰金の方が安く済むので独自の賃金を設定、政府の調査や勧告も無視して、労働者を敵とみなしている。
労使紛争の当事者同士による解決は困難なため、政府は労働行政の一環として国の法令に基づく解決手続きを推進している。紛争当事者は可能な限り法定または労働裁判所による仲裁及び裁定に対して、調停や斡旋という手続きに同意するよう働きかけ、紛争の解決を保証している。

④労働争議の結果
一般的に労働争議は悪い結果を招く。労使の不信感、仕事に対するモチベーションの低下、使用者に対する忠誠心の欠如、組合活動の後退、労働条件の停滞、政府(労働省)に対する不信感、職場環境の悪化などがあげられる。
良い結果としては、労働者の団結強化、労働条件および賃金の改善、労働運動の前進、労働法の改定、職場環境の改善などがあげられる。

3.労働組合としての新型コロナウイルスの対策

パキスタン政府の法令に従い保健省からの全ての勧告に基づきマスクの着用を含めた予防対策を実施。規則に従わない者には懲戒処分が課せられる。被用者間は6フィートの間隔を空けることが義務付けられ、COVID-19休暇もすべての被用者に義務付けている。在宅勤務は対象となる被用者に適用され、職場に入る際はCOVID-19に係る検査の新規報告書の提出が必要とされている。