2022年 フィリピンの労働事情 (インドネシア・フィリピンチーム)
フィリピン全国労働組合(NTUC Phl)
- オブレロフィリピーノ・ラムコール支部 支部長
- オブレロフィリピーノ・イビデン支部 財務担当
- カガヤンホリデーレジャー従業員組合 副委員長
- ホセリサール大学職員組合 会長
フィリピン労働組合会議(TUCP)
- ALUミンダナオ島南部労働組合 部長
- マニラッド上下水道労働組合 支部書記
- ジョリビーフーズ労働組合 委員長
1.基本情報
面積は約298,170平方キロメートル(日本の約8割)で7,641の島々がある。人口は1億903万5,343人(2020年フィリピン国勢調査)、政治体制は立憲共和制をとっている。
2010年以降、高水準を維持してきた経済成長率(実質)は、IMFによれば2019年が6.12%、2020年が-9.52%、2021年が5.70%、2022年が6.47%(10月時点での推計)で、2020年は新型コロナ感染症の影響を受けて大きく落ち込んだものの、2022年にはコロナ禍前の水準を上回る数字となっている。
主要産業は、電子部品組立て、衣料品、靴、医薬品、化学品、木材製品、漁業であるが、GDPに占めるサービス部門の寄与度が約60%にまでなっており、農業中心の経済から製造業・サービス業中心の経済へと移行してきている。
インフレ率は、2019年が2.39%、2020年が2.39%、2021年は3.93%、2022年が5.32%(10月時点での推計)であった(出典:IMF)。また、一人当たりGDP(名目)は、2019年が3,512ドル、2020年が3,326ドル、2021年が3,576ドル、2022年は3,597ドル(10月時点での推計)であった(出典:IMF)。
失業率は2019年5.1%、2020年10.3%、2021年7.8%(出典:フィリピン国家統計局)と高水準が続いている。
最低賃金は各地域及び業種(非農業・農業)により基準額が定められている。主な地域における2021年1月時点の最低賃金(日額)は次の通りである。
地域 | 非農業 | 農業プランテーション | 農業非プランテーション |
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メトロマニラ地域 | 500-537ペソ | 500ペソ | 500ペソ |
ルソン島中部 | 369-420ペソ | 354-390ペソ | 342-374ペソ |
ダバオ地域 | 396ペソ | 391ペソ | 391ペソ |
ミンダナオ島ムスリム自治区 | 300-325ペソ | 290-300ペソ | 290-300ペソ |
主要な労働組合ナショナルセンターは、フィリピン全国労働組合(NTUC Phl)とフィリピン労働組合会議(TUCP)である。ITUC(国際労働組合総連合)加盟組織としては、TUCPのほか、FFW(自由労働者連盟)、KMU(5月1日運動)、SENTRO(フィリピン進歩労働同盟)がある。
2.労働を取り巻く現状と課題
(1)労働事情一般
- ①労働をめぐる諸指標(2022年10月現在)
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多くの指標は好転しており、パンデミック以前の水準への回復が顕著となっている。
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- 労働力率 64.2%
- 雇用率 95.5%
- 不完全雇用率 14.2%
- 失業率 4.5%
- 週平均労働時間 40.2時間(前年同月比0.5時間の増加)
- 業種別雇用労働者占有率 サービス部門59.2%、農業部門22.5%、工業部門18.3%
- ②労働組合等の状況
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- 公共部門の組合:組合数1,857、組合員数500,670人(2021年12月現在)
- 民間部門の組合:組合数18,034、組合員数1,614,554人(2021年12月現在)
- 労働組合組織率:2014年7.7%、2016年6.5%、2018年7.0%、2020年6.0%
- 労働協約カバー率:2014年8.1%、2016年7.2%、2018年7.1%、2020年6.3%
- 組合役員に占める女性の比率:2014年20.6%、2016年21.4%、2018年29.5%、2020年29.8%
- ③労使協力委員会の設置状況
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- 労働組合未設置事業所で、経営者と労働者が協議・交渉・情報共有を通じて一定の目標達成のために協力を行うための「労使協力委員会」が設置されている、2020年の調査での設置率は7.1%であった。
- 主要産業別では、電気・ガス・蒸気・空調供給事業所の27%に設置され、最大の設置率となっている。次いで、金融・保険業の15.6%、水供給・下水処理・廃棄物管理及び浄化事業の12.8%に設置されている。
- 雇用規模別で見ると、200人以上の事業所で13.6%、100~199人では9.7%、20~99人では5.4%に設置されており、小規模事業所での設置率は低くなっている。
- 労使協力委員会の下には、一般的に、生産性委員会、安全衛生委員会、家庭福祉委員会、苦情・紛争処理委員会、二者コンプライアンス委員会が置かれている。
(2)労使紛争などへの取り組みについて(NTUC Phlによる報告)
- ①紛争の傾向
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- 紛争は集団的労使紛争に比べ、個別労働紛争が圧倒的に多い。また、紛争のほとんどが権利をめぐる争議である。
- コロナ禍における紛争の傾向としては、経営側が法に反して試用期間終了後の労働者を本雇いにしようとしない、諸給付を削減する、賃金を切り下げる、労働者を解雇するといったことが原因となっている。
- ②紛争の解決機関
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- 労働紛争の解決機関としてNLRC(全国労働関係委員会)が設置され、強制仲裁メカニズムを有している。
- ③労働組合の取り組み
- NTUC Phlは、加盟組織及び地域支部と共に、パンデミック中においても労働運動の促進に取り組んでいる。具体的には以下のような取り組みを行っている。
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- 紛争を抱えている組織に対する支援活動
- ズームを利用しての組合員の継続的な教育訓練
- 加盟組織との定期的な協議
- 他の労働組合との効果的かつ有意義な協力
- パンデミック関連給付の支給を求めての労使交渉
- 社会的対話、三者協議などへの参加
- 政策立案等における政府機関への関与
- 法律情報の更新及びスキルアップ
(3)労働組合の優先課題について(TUCPによる報告)
- ①優先課題は以下のとおり。
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- 雇用維持と雇用創出
- リビング・ウエイジの確保
- 食料の安定確保
- 生活必需品価格やサービス価格の抑制
- 電力料金の抑制と、電力供給の安定
- ②具体的な取り組みは以下のとおり。
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- 賃上げの請願書の提出
- 賃金交渉の実施(二者間、及び三者間)
- 手当の要求
- 健全な使用者を網羅したホワイトリストの作成
- 物価の抑制に関しては政府に補助金を要求するとともに、ディスカウント・キャラバンを実施
- 非伝統的部門やインフォーマル部門などを含む未組織労働者の組織化努力の継続
- 労働者支援、保護のための10本の法案を下院に提出(身分保障/公共部門の労使関係/公務の同等性/船員のためのマグナカルタ/インフォーマル経済の労働者のためのマグナカルタ/ILO第190号条約/教職員の試用期間/組合の結成/合併時の労働者保護/破産した使用者の資産に対する法定第一先取特権としての労働者請求権の発動)
- ③法制度面での成果
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- TUCPの取り組みの結果、「105日拡大産休法」が可決し、産休がこれまでの60日から105日へと拡大した。
- 4PS法が成立し、健康・栄養・教育の面から子どもの将来に投資するよう親の行動変容を促す内容が規定された。
- 職場でハイヒールを履くよう雇用者が女性に強制することを禁止する政令が実現した。