2月12日のワシントン・ポストおよびABCニュースが、最近のメキシコ労働事情として、旧来労働組合と対決する新労働組合の動きを伝えた。
米国政府は米国・メキシコ・カナダ自由貿易協定(USMCA)に盛り込まれた労働権侵害の早期解決条項に基づき、メキシコに対し2年前から6件の苦情を申し立てた。』
その苦情の中には反民主的な旧労働組合が数十年間、低賃金を押し付けたとの指摘があり、2021年5月に出された最初の苦情も、グアナファト州のGM工場組合選挙におけるメキシコ労働総同盟(CTM)による不当介入に関するものであった。
旧来政府の支配下で、会社と癒着したCTMは労働者には相談無しに労働協約を結び、協約に疑問を示す労働者には暴力団を対応させ、会社に解雇を強制したとされ、新労働組合の結成が困難だったと言われる。
その労働事情がUSMCAにより変化したわけだが、報道によると、ある労働者は「以前は多くの報復で首が飛んだが、今は法律が我々を守ってくれる」と語る。
しかし事態が解決されたわけではない。GM工場で新労組合として結成されたSINTTIAも組合費以上の賃上げが実現できていない。メキシコ自動車労働者は月収300ドル、日給12ドルと言われる中で新労組は日給14ドルを獲得したが、米国の時間給にも満たない。米国政府は米国並みの賃上げで製造業の海外流出が食い止められると希望しているが、そうなるのはかなり先の話だろう。
SINTTIA代表のアロンソ氏は「米国政府の圧力で事態は大きく変わったが、各地での抵抗も大きい」と述べる。新たなメキシコの法律では無記名投票や労働協約の閲覧、役員の定期改選の権利が定められたが、未だに労働委員会や検査官制度はなく、実効性は担保できていない。
それでも米国による苦情の影響は大きく、その一例が米国との国境近くコアウイラ州にあるVU自動車部品製造工場だが、ここには異例の2度の苦情申し立てが起こされ、労組結成の自由が問題視されている。従業員の多くは女性で12時間のシフト制で働いており、サンバイザーやアームレスト、ダッシュボードなどの部品製造で日給15ドルで働いている。
従来からCTMの組織下にあり、労働協約も結んでいなかった工場だが、米国の苦情申し立てを受けて役員選挙を実施する過程で、会社は新組合のメキシコ労働組合リーグ(MWUL)を支持する労働者への脅迫をCTMに依頼したと言われる。それでも新組合は2対1で承認されたが、組合潰しがその後も続き、労使交渉は拒否されている。
米国のキャサリン・タイ通商代表は「一度は是正された問題が再燃した」と語り、メキシコ労働省は「会社は新労組と誠実に交渉しなければならない」と述べている。