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No.678(2022/7/27)
中国の経済減速で5月の若者失業率が18.4%の高率

 6月16日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、チャイナ・ファイル(CF)、7月8日のNHK国際報道、更には13日のJILPTなどが、「中国では、3年に及ぶコロナ蔓延と徹底したゼロコロナ対策などで各産業が活力を失う中、5月の若年層(16歳ー24歳)失業率が18.4%の高率を記録した。この数字は昨年同月の13.8%を大きく上回って2018年の統計発表以来の最高となる。中でも、大学卒業生の数年来の就職難が目立つ」と報道した。

 中国全体の都市部の失業率は4月の6.1%から5月に5.9%へと漸減したが、その中で18.4%という若者の失業率は突出している。記録的な1,070万人へと急増する大学卒業生だが、4月中旬の就職決定率は50%以下と昨年の63%を大きく下回り、給与も昨年を12%も下回る12,000ドルである。求人率も0.71%といわれる。他方、統計には数百万と見られる農民工(農村戸籍の出稼ぎ農民)の失業が含まれないことから、実態把握は難しいとされるが、バンク・オブ・アメリカ(BA)は若年層の失業率が7月、8月には23%を記録すると予測している。

 学生数の増加についてCF紙は、「1999年、8%の安定経済成長を目指した中国政府は大学生育成政策を採用した。これは当時、国有企業のレイオフで余剰人員を抱えた労働市場への新規労働の参入を抑えつつ、経済成長への基盤づくりを目指すものであった。政策により初年度の大学入学者数は47.4%増加、2006年までは20%のペースで増加し、2011年には増加率は5%以下となったが、すでに膨大になった大学生がおり、毎年500万人の大学生が社会に送り出された。しかし政策による学生の育成から労働需給にアンバランスが生じ、政府は2019年に熟練技術者や工場労働者養成の職業訓練学校に注力を転換した。しかし20年来の問題是正には数年を要する」と記述している。

 こうした中、WSJが紹介する中国東部の杭州大学の卒業生は、250社以上に履歴書を送ったが採用されず、月給5,000元でも仕事に就くと語るが、その金額は同市の昨年の一人当たり可処分所得10,000ドルを下回る年収9,000ドルに過ぎない。

 際立つのは中国若年層の失業で、EUの13.9%、米国の7.8%を大きく上回り、また欧米の労働者不足とは反対の現象を示している。WSJが紹介するバンクオブアメリカ証券のエコノミストが発表した報告によると「今年初めの中国統計で“フレキシブルワーク”に分類される食品配達や建設現場の労働者などが2億人を超えたことは、経済減速を敏感に示している」と解説するが、CF紙もコーネル大学フリードマン教授の「2013年まで製造業の好景気を支えた農民工だが、正規雇用証明の無い大多数は社会保険や労働法の保護がなく、子供の公立学校入学も出来ない。そうした彼らがギグ労働や失業に追いやられている」とする見解を掲載している。JILPTによると「中国では現在、電子商取引、オンライン配車、ネットデリバリーなどに従事する、いわゆるフレキシブルワークという新たな労働関係による就業形態が拡大している。」

 中国が失業率を5.5%に抑え込むには最低5%の国内総生産(GDP)が必要と言われるが、世界銀行は今年の見通しを4.3%に下方修正し、各大手銀行は4%以下を示している。

 中国の労働市場は長期にわたる構造変化にあり、相次ぐオートメーションに加えて、コロナ対策や産業規制で失業が増加している。その中で、中国人口の4%に過ぎない大学生の主要就職先は教育産業、製造業、テクノロジー産業だが、アリババへの重い罰金や最近では家計負担の軽減を理由に民間学校の授業料値下げ命令が出るなど、予期せぬ規制に産業界に安心がない。中国の労働人口、7億4,600万人の48%を占めるサービス産業の回復もゼロコロナ対策緩和に消極的な政府対応からは望み薄である。

 就職難を反映して大学院進学が昨年より80万人多い460万人を数える中、李克強首相は2020年以降悪化している経済状況を認めて、失業対策に力を入れるよう指示した。 中国当局も大学卒業生への大学院定員増や国有企業への採用人員拡大を呼びかけている。上海市は公営企業の新規職種の半数を大学卒業生へ割り当てるよう指示、北京市は近郊施設で数百名の大学卒業生の受け入れを表明、中国政府も新規大学卒業生採用の中小企業への一時補助金支給、新規事業発足の大学卒業生への減税を発表した。

 また、ジョンズ・ホプキンス大学のHung教授はCF紙上で「都市経済は農村経済ほどに失業者の吸収が出来ない。都市失業は社会と政治秩序に混乱をもたらす。1960年代に若年層の失業問題に直面した中国は問題を”農業は大寨に学べ運動”に抑え込んで、若者を集団農場へ送り、同時に紅衛兵の過激思想の排除にも役立てた。1978年以降の好景気時にはその危険が消えたが、その後の景気後退時にも政府は小規模の帰農運動を繰り返した。しかしコロナで事態が変わった。都市部の失業、特に若年層の失業は政権を脅かす危険があるが、政府はスマホによる位置情報を強化して個人監視を強めている」と指摘する。

 WSJが紹介するエール大学の経済学者、ステファン・ローチ氏も「社会基盤の安定に重きを置いてきた中国にとって、現在の状況は大きな問題を孕んでいる」と述べるが、今年秋の共産党大会で3期目の再選を目指す習近平主席にとって、社会不安の除去は大きな課題と言える。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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