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No.670(2022/5/27)
ロシア「クーリエ」労組委員長の逮捕、ウクライナへの軍事侵攻に対する徹底した言論統制

 キリル・ウクラインツェフ氏は、ロシアの独立系労組「クーリエ」の委員長だ。彼は集会やマスコミを活用して、ヤンデックス・エディー、サモカート、デリバリークラブといった日本のウーバーイーツなどに相当するフードデリバリー企業の労働者の組織化を図っている。ロシアの場合もフードデリバリー労働者の位置づけは独立自営業者であり、労働組合という概念が当てはまるかどうか論争の種である。しかしキリル氏らは労組を作ることを優先し、集会やストライキという手段に訴え、組織化を図っている。ロシアの場合、更に複雑なのは、労働者を集める企業があり、ヤンデックス・エディーの制服を着ていても、所属は例えば「リーダー・コンサルト・パーソネル」というIT企業に属しているという形態であることだ。しかも、そのIT企業から雇用されているわけではない。つまりヤンデックスやサモカートといった著名な企業を二重三重に守る仕組みになっているのである。このフードデリバリー業界が今、冬の時代を迎えている。コロナ禍での売り上げの急速な伸びは、ウクライナへの軍事侵攻に対する制裁や国内からの外国企業の撤退などの中で逆転し、人手は過剰な状態にある。

 キリル氏が4月25日に逮捕された。ロシアの独立紙「メドゥーサ」4月29日号は次のように伝えている。「少し前にクーリエ労組は、戦争と制裁が配達労働者の仕事を少なくするだろうと声明を発した。さらにデリバリークラブでストが始まった。人権団体アポローギヤによれば、労働権の侵害に対する抗議に配達員を動員したこと、インターネットでの情報拡散が罪として逮捕されたとのことだ。」
「組合はすでにヤンデックス・エディーなど大企業が配達員を削減しようとする方針を批判し、この状況を作り出した原因として特別軍事作戦(ウクライナ戦争)を挙げた。その結果として雇用労働者の危機が全面的な形で押し寄せ、配達員の労働条件も悪くなるとした。」
「4月21日、組合はモスクワの配達員達にデリバリークラブの賃金表改悪反対を要求し、4月22日からストライキを実施すると声明を出し、この日の交替制勤務を拒否するように呼びかけた。4月25日、モスクワのデリバリークラブの事務所の近くで抗議集会が開かれ約30人が集まった。その内12名が拘束された。同日内に、キリル氏のアパートに警察が踏み込み、彼も拘束された。キリル氏の親戚の話では、彼はデリバリークラブの争議が刑事事件化することを恐れ、その日の抗議行動に参加しなかった。また、弁護士は、過去労働組合活動が刑事事件として立件されたことは無いと述べた。」キリル氏の逮捕は刑事法典212条1号に基づいているとされ、繰り返し集会を行い、公共の安寧を妨げることを罪とし、2014年のこの条項の採択以来6人に適用されている。これまで、このダーディン条項と呼ばれる条項を適用されたのは、主にはロシアの反体制活動家アレクセイ・ナヴァーリヌイ氏が組織した集会に参加した人々であった。

 キリル氏の逮捕に対し、釈放を要求する運動がロシア国内では開始されているが、その呼びかけ文の中でもウクライナへの軍事侵攻のことは全く触れられていない。キリル氏でもウクライナへの軍事侵攻については発言できない。そこに触れると、直ちに弾圧にあうからである。キリル氏の逮捕が明らかにしたことは、今のロシアでは徹底した言論統制が行われており、誰もが自由に意見が言えないことである。ウクライナへの軍事侵攻とクーリエ労組に対する弾圧が関係あることを暴いた独立紙「メドゥーサ」もロシア国内では禁止されている。しかし、いつの日か言論統制が破られる日が来よう。プーチン大統領を支持するナショナルセンターFNPRに属しているか、クーリエ労組のように非公式組合かどうかに関わらず、ロシアの労働運動の中からウクライナ侵攻反対の声があがることを期待したい。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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