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No.668(2022/4/28)
ウクライナの労働組合員の疑問:ウクライナの労働法改悪は戒厳令下に限られるのか、それともこのまま続くのか?

 ロシアがウクライナへ軍事侵攻する前、特に労働の分野でウクライナは決して褒められた状態ではなかった。ゼレンスキー政権は労働法改悪を推し進めた。例えば、労働法改革法案が2020年1月に、組合との協議なく国会に提出され、審議入りした。
 内容は、労働者の権利を全面的にはく奪するものとなっており、大規模な抗議行動、国際連帯の力によって、法案はとりあえず却下された。しかし2021年に入ると、政府はこの法案を幾つかに分割し、形を変えて国会に上程した。ウクライナで雇用創出をより簡単にするという名目で、労働の規制緩和を進めようというのが改正の意図だ。
 例えば、法案第5371号では、250人以下の職員を雇用する企業では、これまで労働条件は法律で決まっていたが、これを個別の労使交渉で決めることとなる。ウクライナ労働者の73%がこの範疇に入り、組合の力が弱い中、労使交渉でとなれば、経営側が圧倒的に有利となる。このような反労働者的、反組合的な法案が7本(昨年JILAFで行われたユーラシアチームの参加者によれば、12本ともいわれていた)、国会に上程されているとのことだった。全ての労働組合がこれらの法案に対し反対運動を組織し、ITUC、ILOも法案を問題視していた。

 しかし、今年に入りロシアによるウクライナへの軍事侵攻が全てを変えた。
 ウクライナ国会は、3月15日に法案「戒厳令における労使関係の組織について」を採択、3月24日ゼレンスキー大統領が署名し、法となった。ウクライナで法律関係の情報サービス事業を行う「リガ・ザコン」社のウェブサイト(3月24日)などによると、内容は以下の通りである。(カッコ内は筆者の註)

  • 労働時間を週60時間まで延長可能とする。(以前は週40時間だった。)
  • 使用者は、戒厳令下では、雇用契約に定められていなかったり、本人の同意がなくても、労働者を他の職に移動させることが出来る。
  • 労働者は、企業が所在する地域での戦闘状態の発生に関し、2週間の予告期間無しに、自らの意思で退職することが出来る。ただし戦時中の強制的な社会奉仕、重要な社会インフラと分類された施設での作業に従事している場合を除く。
  • 使用者は、その意思によって、病気の労働者や一時的に休暇中の労働者を解雇することが出来る。
  • 使用者は、戦闘行為その他によって支払いが不可能な場合、労働者に賃金を支払うことを停止できる。これは企業が基本的な業務を再開できる時まで続く。
  • 労働者が、重要なインフラに関係する場所での作業に就いている時、労働者は休職できない(産休・育休はのぞく)。
  • 使用者は休暇を拒否できる。なお年次有給休暇の付与日数は24日である。(以前は28日だった。)
  • 戒厳令が続く間、使用者は労働者が請求した場合、無給で休暇を付与することができる。
  • 使用者は、労使協定の効力を停止することが出来る。この場合、労使協定の効力停止が労使関係の停止を意味するわけではない。
  • 使用者は、いずれのカテゴリーの労働者であっても、試用期間を設定し、特定の期間雇用契約を締結できる(試用期間は給料が安い、無給の場合もある。)
  • 労使相互の合意によるか、使用者の決定によるか、いずれの場合も「労働協約の効力の停止」という概念が発生しており、この場合賃金その他の全ての支払いは攻撃国に負わせるべきである。

など

 これに対し、労働組合側の反応はどうだろうか。メディアプラットフォームの「オープンデモクラシー」(3月18日号)において、ウクライナの労働NGOレーバー・イニシアチブのサンドル弁護士は次のように語っている。「この法は、労働組合と労働法専門家にとってはショックでした。日夜軍とウクライナの勝利のために働く労働者が突如職を失って良いはずがありません。全ての法や規則が一つのゴールに向かっているかが問われています。それは、ウクライナの防衛能力を強化することです。この法は明らかにこの目的にそっていないと言わざるを得ません。」
 戒厳令下の労使関係において、どのような視点で物事を見るべきか大変に難しい面はあるが、多くの労働者から見ると、この法は明らかに使用者の権利を大きく拡大している。例えば、労働時間の延長、以前からウクライナでよく聞かれていた賃金の未払いの問題があるが、戦争中は払わなくても良いことになっている。また、労働協約も使用者が一方的に「効力を停止できる」となっている等問題は根深い。ただ産前産後の休暇期間中には労働者に不利が無いように、これらの規定は適用されない場合がある。
 現場の労働者は、ウクライナの勝利のために懸命の努力を続けている。ウクライナ郵便労組のスタロドゥブ委員長は次のように語った。「ウクルポーシュタ(ウクライナの公的郵便事業)の労働者はさらに戦時のボランティア活動に従事し、防弾チョッキの部品を準備し、それを縫ったり、偽装作業用の網を編んだり、互いに助け合い、人道支援物資を届けたりしている。戦時下であり、労働組合としては、全国民がロシアとの戦いに勝つという目的のために一つになることが必要と考えている。」さらに、ウクルポーシュタが所属するナショナルセンター、ウクライナ労働連盟(FPU)とは別のナショナルセンターであるウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)に加盟する教育労組のトカチェンコ副会長は、「労組としては、受け入れるが、討論すべきという立場である。現在までの所、この法に基づいて労働者が首を切られたり、給与が支払われなかったりといったことは起きていない」と答えている。政権側は、労働組合の立場をよく理解し、組合の要求に応えるべきであろう。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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