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No.664(2022/4/15)
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻下のウクライナ・ロシアにおける労働組合・郵政事業について

 2月24日ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始されて以来、ウクライナ、ロシア両国においてメディアから労働組合関係の記事はめっきり減った。平和があってこその労働組合と言う事実を思い知らされる。ウクライナの労働組合のナショナルセンターは、もちろんロシアを鋭く批判し、カンパ活動などに取り組んでいる。ロシアの労働組合のナショナルセンターは、プーチン大統領支持の立場である。

 両国の労働組合運動はどうなっているか、郵便事業を例にレポートしてみたい。

 まずウクライナの郵便事業を見てみよう。(「THE INSIDER」3月9日)「ウクルポーシュタは、ウクライナの公的郵便事業である。全国に配達網を持ち、3000の車両、数台の航空機、1万の局舎、6万人の労働者を擁している。その内4千人が武装していると言う。ウクルポーシュタの主要な業務は年金の配達である。」

 「4400万人のウクライナ国民の内、1300万人が2万7000の村落に住んでいる。ここにはほとんど銀行の支店は無く、高齢者にとって銀行で年金を受け取るのは大仕事である。その意味で、郵便局が年金を配達することは地方の高齢者から非常に喜ばれている。コロナ禍の中、ウクルポーシュタは薬局の代理として薬の配達も開始した。」ウクルポーシュタのCEOイゴール・スメリャンスキーは、米国留学の経験もある実力者として知られる。ウクライナのような貧しい国で高給を貰っていると言う批判も以前はあったが、今では誰も問題にしない。「彼は350万人の年金受給者にいかに毎月手渡しで年金の配達を続けるかに注意を払っている。ロシア軍の侵攻から10日後、100万人を超える高齢者が年金や薬を受け取れなくなった。彼らは、国民の中でも最も脆弱な層である。」彼のイニシアチブの下、体制を整え、3月5日から新しい配達制度が出発した。「以前我々はどこに誰が住んでいるかを知っていた。しかし戦いの中、多くの人々が住所を変えた。我々は高齢者とのホットラインを作り、居所を突き止め、彼らの所へ年金を配達できるようにした。」

 ウクライナ西部の町で働く21歳の女性配達員の記事があがっていた。彼女は西部の町ノボイアボリフスク郵便局で最も若い従業員である。大学を卒業してすぐ郵便局に就職した。彼女によれば、「他の従業員は皆私くらいの孫がいる」そうだ。「私と同じ年代の多くの男性が戦場に行っている。どこの村でもそうだ。そして多くの人々が東部地域から戦いや空爆を逃れてきた。しかしもっと多くの人々が地元に留まっている。我々はどこにも行くところが無いから」と彼女は言う。しかし、東部の町と比べて、まだこのノボイアボリフスクでは戦争の影響はそれほど大きくない。スメリャンスキーCEOは言う。 「ロシア軍の攻撃により、どのくらいの郵便労働者が業務中に殺され、ケガをしたかは、まだ数えられていない。直接攻撃を受けている町には防空壕に避難している従業員もいる。」「我々は、キエフ(キーウ)やハリコフ(ハルキウ)でも仕事を続けているが、全ての郵便局と言うわけではない。配達区が安全である限りは、配達を続けるが、キエフ(キーウ)では状況に応じて判断している。しかし我々はキエフ(キーウ)で国際小包を引き受け、それをポーランドから発送している。米国への空路は3月8日にポーランドから再開された。国民が親戚から小包や書状を受け取ることが重要だ。郵便が届くことは、まだ我々が通常の生活を送っていると言う感覚を国民に与える。」この目的のため、CEOは世界のすべての郵便局にウクライナへの郵便を拒否しないでほしいと訴えている。「我々は出来る限り配達する」と彼は保証する。

 ウクライナ郵便労組のミコラ・スタロドゥブ会長に電話でインタビューする機会を得た。ウクライナの郵便労働者は、ナショナルセンター、ウクライナ労働連盟(FPU)に属する通信労組に入っている。
 インタビュー(3月30日)によると、「ウクライナには27地方郵政局があり、約5万8千人の労働者のうち約4万7千人が組合員(うち女性は約4万1千人)である。その内、東部のマリウポリ、南部のニコラエフなどでは営業できない局もあるが、大部分は営業している。マリウポリではしばらく営業できなかったが、最近営業を開始した局がある。」
 「ロシア軍の攻撃は、軍事施設ばかりではなく、市役所や幼稚園、学校など国民生活に重要な場所にも、無差別に爆弾を落とす。郵便局も被害を受けている。キエフ(キーウ)から35kmの所までロシア軍は来ている。ベラルーシからミサイルも飛んでくる。しかしキエフ(キーウ)の郵便局は通常通り営業している。職員の95%は女性なので、軍務に就いて、人員不足といった事態は発生していない。」

 これに対し、ロシアではどうだろうか。今ウクライナのナショナルセンター(KVPU)はロシア独立労組連盟(FNPR)を労働組合の国際組織(ITUC)から除名する運動に取り組んでいる。ロシアのナショナルセンターとして、FNPRは国民の大多数が「特別軍事作戦」(ロシアでは戦争と言わない)を支持していると言われる中、声明をいくつか出しているが、これは全てプーチン大統領の戦争目的を支持するものであり、プーチン与党統一ロシアの強力な支持団体であるFNPRの立場を示していると言えよう。
 郵便労働者を組織する組合はロシア通信労組であるが、FNPRに属している。公的郵便事業ポーチタロシアの従業員のほとんどが組合員である。ウェブを見るとウクライナについてはFNPRの声明をそのまま転載するのみであり、何のコメントも解説もない。
 「ロシア連邦議会は3月4日、ロシア軍の信頼を損なわせようとする行為を刑事罰の対象とし、軍に関する偽情報の拡散を禁じる新法を可決した。」(ロイター3月12日)
 これ以降、反戦を訴えるデモはほぼ姿を消した。最高刑15年の懲役と言う悪法を前に、労働組合として出来る事は限られている。ロシアではウクライナ人と結婚している人も多く、この戦争に反対している人は多いはずだ。しかし心の中でしか、それを言うことができないところに問題がある。しかし、ロシア労働同盟(KTR)など少数のナショナルセンターはトーンダウンした「意見の相違は交渉によって解決すべき」とする実質的な戦争反対声明を出しているのは救いと言うべきであろう。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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