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No.662(2022/3/15)
従業員参加組織、労働組合に代わる労使協議会を共和党議員が提案、US女子サッカー選手会が男女平等訴訟で和解、男子チームの同意が鍵

従業員参加組織、労働組合に代わる労使協議会を共和党議員が提案

 2021年6月7日のJILAFメルマガは「共和党ルビオ上院議員が提案するドイツ共同決定法をモデルにした米国労働法改正の動き」を紹介したが、2月3日、同議員は公式に法案化した提案をプレスリリースした。

冒頭に筆者は
1)提案にはドイツ共同決定法が定めるような従業員参加と役員会投票権の規約が無い
2)米国では、組合費支払いなどで労組加入を嫌う労働者にも、会社内の職場環境改善への  発言が出来る労使協議を要望する労働者が多い、
3)労働者に支持を広げようとする共和党議員が、規制の緩いこの法案をアピールに活用する可能性が十分にあり、法案が強い影響力を持ち得る
4)他方、2月8日のニューヨーク・タイムズ論説が、法案は労働組合弱体化の”会社組合/御用組合”に繋がる恐れを指摘している
ことを述べておきたい。

 同法案について2月4日のワシントン・ポストなど複数紙が報道している。

 労働者の要望に沿う政策を模索する共和党だが、今回、同党上下院議員が「新たな労働組織の法案」を正式に共同提案、プレスリリースした。

 提案は「従業員と経営者のためのチームワーク法」(TEAM法)と呼ばれ、米国経済が問題視する「従業員の発言力の欠如」に対処する目的を持つ。
その担い手は労働組合のはずだが、労働組合を嫌う人も多く、民間組織率は1964年の33%から2021年には6%に落ちた。労組指導者は使用者による不公平な処遇が原因だと言うが、多くの労働者は、労組加入の利点と同じくらい多くの欠陥を感じている。

 法案は、従業員が労働組合に属さずに企業運営への発言権を確保し、全国労働関係委員会の関与もなく労使ワーキンググループを設立できる権限を定め、企業運営や賃金労働条件など幅広い事項の討議参加を可能にするものである。団体交渉の機能は持たないが、経営者に対し直接、公式に意見を陳述する機会を提供するもので、集団的な発言力を持たない個人の労働者の現状に比べ、大きな影響力を行使できる。
 更に大企業の場合には、役員会には従業員議席が置かれ、議決権は持たないものの、役員に提供されるすべての情報を労働者と共有しなくてはならない。知識は力であり、企業における従業員の影響力を強めるものになるだろう。

 この法案について、ワシントン・ポストのオルセン記者は次のように述べている。

 労働組合と民主党は、90年代に同様法案に反対したように、この法案に反対するだろう。彼らは、現代の従業員は、好調企業が持つ自由な個人的昇進・昇給という自由を気に入っているということを理解していない。古い労働組合は個人を抑え、組合員全体を優先させた。当時の抑圧的な経営とグレート・ディプレッションの記憶があるうちはそれでよかったが、その時代は過ぎ、労働組合が衰退し非熟練労働者の賃上げが止まった今、労働組合の魅力は消えた。
 TEAM法は使用者への贈り物にはならない。もし可決されれば、企業は労働者から、従業員参加型組織(EIO)という組合によらない代替組織の結成を迫られ、企業は窮地に追い込まれる。それは労働者に集団としての発言権を与えることであり、大企業の場合は役員会に議席を提供することになり、その要望を拒否することが労働組合結成につながる可能性がある。またEIOが結成されると、それをコントロールすることは容易ではない。失敗すれば失望した労働者は会社を退職するか、労働組合にたよることとなる。
 TEAM法は1950年代に労働組合回避のために多くの企業が選んだ労使協議制に戻ることになる。例えばヒューレット・パッカードは利益追求よりも従業員を幸せにすることを目指すHPwayという従業員福祉の方針を立て、レイオフせずに利益分配や従業員持ち株制度の提供、会社負担のレクリエーションを実施している。近年の経済界や合弁企業ではこうした制度が廃れたが、TEAM 法による内部圧力で、こうした規範を取り戻せるかもしれない。
 かつては労働者のために働くボスだった共和党が、労使共同繁栄の方策を理解できれば、その時代の復活は可能になる。両議員はそれを理解しており、TEAM法は共和党が議会の多数を占める時代への良い出発点になる。(引用は以上)

ルビオ議員のプレスリリースについてはこちらを参照
Rubio, Banks Introduce Pro-Worker Labor Reform Bill - Press Releases - U.S. Senator for Florida, Marco Rubio (senate.gov)

 共和党議員による労使協議制提案に関する情報だが、労働運動は言うまでもなく労使関係を基礎にする。そして労使関係は相互に信頼の置けるものであることが望ましい。しかし、米国の労働組合には信頼関係醸成の元となる日常の労使対話が根付かず、協約改定時の労使交渉に重きが置かれて、それが対立する時には戦闘的、敵対的関係に陥ることが多く見られる。

 提案には御用組合化の危険性も指摘されているが、必要なのは労使相互信頼への対話の定着であり、労使協議制の普及は必ず労組加入希望者を増加させ、労働組合発展への裾野を大きく広げる可能性がある。

 提案が国民半数の支持を集める共和党から出たことにも重要な意味がある。ギャラップ調査の労組支持が68%に上りながら労組加入を渋る一般労働者という現実を見つめて、労使協議制を受け入れることが出来れば、労働者全般を巻き込む動きが期待できる。
 望ましくは、提案が共同決定法のような内容の法的拘束力を持つものであって欲しいが、労働組合を嫌う多くの企業や国民の賛同を得るためにも、事は現実的に進める必要があるのではないか。

US女子サッカー選手会が男女平等訴訟で和解、男子チームの同意が鍵

 2月22日のニューヨーク・タイムズ(NYT)およびCBCニュースなどが「6年間にわたり争われたUS女子サッカーチームによる男女平等訴訟に突如、和解が成立し、総額2,400万ドルが支払われる」と報じた。

 この訴訟はワールド・カップで過去4回優勝のUS女子サッカーチームが6年前、米国雇用機会均等法および市民権法に基づく男女平等待遇を要求して起こしたもので、チャーター機、ホテル、各種報酬の平等を要求した。今回の和解金は現役だけでなく、A.モーガン、M.ラピノーなどの退役選手も対象になる。

 この訴訟には、アイスホッケー、バスケット、カナダ・サッカーなど各界スポーツ、有名人や政治家、大統領候補をも巻き混む論争が引き起こされたが、外国ではノルウェー、オーストラリア、オランダのサッカー界で男女格差の縮小が実現している。

 しかし今回の和解までには幾多の曲折があり、特に2020年5月の連邦地裁判事による訴訟却下は大きな打撃であった。「地裁判決は、チームが提示した男女格差の数字は女性最悪時代のもので不適切。また女子チームが基本給と諸手当増額を主張して、男子にある競技毎報酬を拒否しており、平等待遇は不可能とした。」「これに対し、判決を不服とする女子労組は上訴した。」(2021/10/21 JILAFメールマガジン)

 こうした中で、US連盟に批判的な世論を反映して広告主離れが起き、また昨年には元選手のC.コーン氏がサッカー連盟会長に就任するなど状況は女子チームに有利に展開。将来の米国サッカーの繁栄を願う労使の合意が原動力となって、和解に結び付いた。

 しかし問題はこれからである。上記JILAF記事で解説したように、サッカーの男女格差の大きな原因はワールド・カップ賞金の大きな格差にある。NYTが伝える端的な例だが、男子へのFIFA賞金は2018年WCの場合、32チームに対して総額4億ドル、それに対し女子の賞金は2019年WC時に24チームに対して総額3,000万ドルであった。

 欧州や中南米に於ける熱狂的なサッカー人気を背景に、男子選手に対し世界的に巨額な報酬が支払われるサッカー・スポーツで、米国男子選手がFIFA賞金の女子への分割に応じるかどうか? 連盟は男子チームに対して協力を要請しているが、未だ回答はない。またUS連盟が唱える「男女格差の大きなWC賞金の受け取り拒否」にFIFAがどう応えられるか? 事態は米国だけでは解決できない大きな問題を孕んでいる。

 それに加え、男子への完全出来高制と女子に対する一定基本年収、医療保険や退職金、半額の出産有給休暇など、制度上の相違をどう埋めるのか、更には連盟が主張する男女合同の団体交渉の場において合意成立は可能なのか?
多くの難関が予想されるが、大いなる前進を祈りたい。

 同時に、ワールドカップについての重大事は、今年秋に開催されるカタール大会8会場の建設に携わる外国人労働者の多くの死亡事故である。同国の建設会場の過酷な労働条件については、過去にJILAF2015/6/18日記事の国際自由総連(ITUC)による指摘、同7/5日の記事などでも報告したが、最近ではNHK国際報道が伝え、昨年2月23日のガーディアン紙では「10年前にカタール政府が大会招致に成功して以降、会場および付帯する空港、公共交通機関、ホテルの建設に携わる移民労働者6,500人が死亡した。この数はインド、パキスタン、ネパール、バングラデッシュ、スリランカの調査によるもので、その他にフィリピン、ケニアなど多くの労働者を考えると死亡者数はさらに拡大する」と報じられていた。

 さらに同紙は「酷暑の中の労働が原因とみられるが、検視もなく、多くが自然死とされ、カタール政府の対応、遺族への保障もない。更にFIFA広報部は労働者の権利擁護に全力を尽くすとしつつ、声明では『厳しい健康・安全処置の下、FIFAワールドカップ建設会場の事故は世界の他の主要建設プロジェクトよりも少ない』と述べているが、その証明はない」と記述している。
 選手たちの問題だけでなく、サッカーを取り巻く周辺労働者にこのような大きな問題があることを合わせて考える必要がある。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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