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No.656(2022/1/11)
欧州の労働組合がインフレ対処に高額賃上げ要求へ、ギグ労働者に従業員資格を与えるEU法

欧州の労働組合がインフレ対処に高額賃上げ要求へ

 12月13日のニューヨーク・タイムズ及びウォールストリート・レベルなど数紙が「急激な物価上昇に対処する欧州労組の高額賃上げ要求」について報道した。

 欧州中央銀行(ECB)の最大の責務はインフレの抑制にあるが、最近のガソリンや一般食品に至る物価の急激な上昇に対処して、ECBの労働組合(IPSO)が各国労働組合と足並みを揃えて高額賃上げ要求に踏み切った。
 同行のエコノミストで、20%の職員を組織するIPSO労組のボウレス副会長は「矛盾しているように思えるが、ECBは職員をインフレから守れていない。銀行はインフレ率1.3%の上昇予測から変更しないが、労働組合は5%の賃上げを要求する」と言明した。

 欧州では過去10年間、穏やかな物価上昇であったが、昨春から物価が急上昇を始め、先月には4.9%を記録する状況になり、スペインやスウェーデンなど各国の労組が高額賃上げを要求し始めた。
 オーストリア金属労組は2022年に3.6%賃上げ、アイルランドの雇用者によると2022年は最低3%は賃上げを見込んでいる。英国では最近テスコ・スーパー・ストアが5.5%の昇給で合意した。ECB本部が所在するドイツでは6%インフレの中、新政権が最低賃金の25%引上げ、時給12ユーロを決めた。

 ECBや英国銀行は最近の物価上昇は経済機能再開と特定産業の人手不足、サプライチェーンの滞貨による一時的なもので、11月のガソリン価格27.4%上昇も一時的だと主張して、物価上昇2%を目標にしながらも、物価は来年1月には低下し始めるとして、金利引き上げを抑制している。

他方、11月に40年来の高率となる昨年同月比6.8%を記録した米国だが、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「一時的」という言葉はもはや使わないだろうと述べ、オミクロン株による供給や配送状況の悪化と一層のインフレへの懸念を表明した。

 欧州では、パンデミックにもかかわらず、多数の会社が記録的な利益と配当を計上しており、フランスの株価指数CAC40に採用されている企業は、2021年第1四半期に利益率が平均35%上昇、半数の企業が昨年同期比約40%の利益増加を報告している。

 一方、労働者は企業利益の恩恵を享受できず、インフレによる生活水準低下との不満を高めている。欧州最大の経済団体であるビジネスヨーロッパのエコノミストは「物価上昇を賃上げで補うことになると賃金・物価スパイラルに陥る」と懸念するが、英国のベレンベルク金融機関エコノミストは「賃上げ実績は現在2.5%に止まっており、過剰な賃上げは無く、スパイラルの懸念は少ない」と述べている。

 しかし労働者の要求の高まりで、フランスではホームセンターなどを手掛ける大手企業ルロイ・メルランでは、売り上げが5パーセント以上増加したなか、23,000人の従業員に4%の賃上げを実施。ルイ・ヴィトン傘下で化粧品等を扱うセフォラでは労働組合が10%賃上げ要求に動いている。

ギグ労働者に従業員資格を与えるEU法

 12月9日のニューヨーク・タイムズ(NYT)およびウォールストリート・ジャーナルは「欧州委員会がウーバー社などの運転手や食品配達のギグ労働者について、最低賃金や法的保護を付与する法律を策定した」と報じた。
 これにより、EU27カ国に働く2,800万人の運転手、食品配送労働者のうち、500万人が労働者資格を取得するが、EU法は世界で最も厳しいものとなる。新法策定について労働組合は一斉に歓迎を表明し、低賃金かつ弱体労働者に世界的な処遇改善への道を開くとしている。

 ウーバーなど各社はこうしたギグ労働者を独立契約者※として労賃を抑え、労働法義務を免れてきた。ギグ労働者は各地の移動や食品テイクアウトに新たなサービスを提供して、多くの人々に利便を与えてきた。しかし、コロナ禍と都市ロックダウンが広がるにつれ、伝統的に厳しい労働法を持つEUにおいて、これら労働者がさらされる過酷な環境が問題視されて、労働者保護が叫ばれるようになり、EU執行機関の欧州委員会が保護法を策定するに至った。

 法律はアプリやオンライン・プラットフォームを利用して仕事を得る運転手や配送労働者、家屋清掃、在宅介護労働者などに適用され、最低賃金、有給休暇、失業保険、医療保険などの法的保護が国の実情に応じて適用されるが、WSJによれば「雇用関係有無の認定には第3者企業への労働制限、業務遂行を拒否出来る制約度、料金や最高料金決定への権限、プラットフォームによる労働監督の有無などが条件となる。現在、EU域内に存在するこうした労働者2,800万人は2025年には4,300万人に増加すると見られるが、立法化にはEU議会の承認と各国での承認が必要で、各国承認は少なくとも2022年末、実施は2024年以降との見方が強い」とされる。

 EU法はまた、各企業が労働者について使用するソフト・ウェアの内容開示を定め、独立契約労働者については自営業の自治が守られるよう定めている。

 しかし、この法律によりウーバーのような業種が存立の脅威を受け、コスト増加が消費者に転嫁される可能性もある。法律に反対するウーバーは「法律が価格上昇を招き、25万人の配達労働者、13万5,000人の運転手を失業させ、中小企業の経営を危険に曝し、消費者の利便性を損なう」として、悪影響を指摘する。

 またNYTは「英国では今年2月、ウーバー労働者について最低賃金と有給休暇資格を持つワーカー資格が認定された。スペインでは8月に食品配送労働者3万人を従業員とする法律が立法されたため、アマゾン出資のデリバリー配送会社が事業から撤退した。オランダでは9月、運転手の産業別団体協約に規定する賃金を支払うよう判決があった。
 他方フランスでは、労働組合結成を優先させて交渉による労働条件決定を推奨。イタリアでは主要労働組合と食品配送企業が最低賃金や保険、安全設備についての保障で合意したが、従業員区分はしていない。

 また、EU委員会がさらに検討を進めているのは、フェイスブックなどインターネット・サービス企業についての厳しい独占禁止法の制定で、違法な内容やAIに新たな規制をかけようとしている。」と伝えている。

※独立契約者:インディペンデント・コントラクター。個人請負、独立業務請負人、個人事業主等を指す。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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