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No.650(2021/12/1)
米国タイソン食品における96%従業員への迅速なワクチン接種

 米国の新型コロナワクチン接種がなかなか進まない中、食肉大手のタイソン食品会社では従業員への接種義務化により96%に達したことが注目を集めている。この点について11月4日のニューヨーク・タイムス(NYT)、および10月26日のザ・ヒル紙などが報道している。

 世界有数の食肉会社、タイソン食品は今年8月、従業員全員に対し新型コロナワクチンの接種を義務化し、従わない場合の解雇を発表した。「ワクチン接種は我々や家族、社会を守る唯一の効果的手段だ。11月1日を期限に接種者には200ドルのボーナスと20時間の有給休暇を提供する」と発表した。

 当時、同社には他社同様に半数の接種反対従業員が存在したが、理由は宗教または政治、個人的な理由など、さまざまであった。会社命令には大きな反対もなく実行されるケースも多いが、いくつかの都市では、公務員が街頭で抗議のデモ行進を行い、退職した者もいる。他方、多くの会社が労働者不足の中にあり、コロナを恐れながらも、退職者が出ることを懸念して接種の義務化をためらうところも多い。
米国南部、中西部に事務所、包装工場、養鶏場などを持つタイソン社でもワクチンへの抵抗が強いなか、「キング社長は『会社の命運を賭けて決死の覚悟で強制接種の決断をした』と語る。」(NYT)

 発表以降、60,500名が接種に応じて現在120,000名、96%が接種済となったが、同社命令はバイデン大統領による100人以上企業のワクチン接種義務化ないし週1回の検査証明要請と同時に出されただけに、効果もあった。
 同社はパンデミック発生当初、低賃金労働者が食品加工や包装などの現場で肩が触れ合いながら働いており、多数の感染者が発生し、複数の加工施設が一時閉鎖に追い込まれ、労働環境と不充分な安全対策に多くの非難が寄せられた。議会報告でも151名のコロナ死者が記録されたが、アイオワ州政府の工場閉鎖命令を拒否していた。こうした中で同社は安全対策に8月時点で7億ドル以上を支出、現場医療設備や看護師200名採用の検査体制、医療監督者などを整備し、会社内部での接種設備も整えた。
 一方で、同社はこの間、昇給やインセンティブ、ボーナスなどの報酬改善を行っており、加えて様々な福利厚生も充実させている。

 RWDSUおよび全米食品商業労働組合(UFCW)はワクチン接種についてタイソン食品会社と協議し、ワクチン接種義務を支持することとしている。2つの組合は、同社の労働者31,000人のうち組合員80%以上を代表している。有給での病気休暇などの福利厚生を手厚くすることに合意した。
 UFCWのペロン会長は、「同社の労働者の最大の組合として、UFCWの最優先事項は、新型コロナウイルス感染者が急増する中、従業員の安全な労働環境を保つことである。私たちは、同社に雇用されている組合員に対して、ワクチンを接種するよう強く勧めていく。今後、同社にならって、業界全体の企業に対し、労働者の安全を第一に考えるよう呼びかけていく」と語っている。

NYTによると、
 キング社長は決断の前に「2週間にわたる役員会討議、疾病センター(CDC)や伝染病専門家等との相談、コロナ防止にどの程度の接種率が必要か、退職者数の予測を含め各種の企業コストなども計算した。また6か月間、労働者との会話を重ねて反対者の事情や主張を理解する努力を重ねた」という。
 同社によれば、接種義務化によって辞めた従業員はごくわずかである。また、ワクチン未接種者は4,000名おり、テネシー州では宗教上や医療上の理由で接種を免除された従業員6名が無給休暇を法律違反として提訴、係争中である。

 バンダービルト大学の感染症専門家であるシャフナー氏は「企業経営者は、従業員にとって何が優先されるべきか、また会社の存続に何が優先されるべきか、2つの側面で考えるものだが、タイソン社の場合は2つが見事にかみ合っている(NYT)」と高く評価している。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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