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No.649(2021/11/15)
米国で労働者不足を背景にスト多発、失業者数百万のゼネスト

 10月10日のガーディアン紙、16日のCNNニュース、17日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などが「パンデミックによる労働者不足を背景にストライキが多発、労働市場の力関係の変化で労働側の攻勢が強まる」としている。要旨は以下の通り。

 労働者不足とサプライ・チェーンの滞貨状態で労働者の要求が高まる中、労働組合の要求も強まっており、農機具機械ジョンディア社のUAW1万人ストライキ、スナック菓子NABISCOのモンデリーズ社、トラックメーカーのボルボ、シリアルのケロッグ社1,400人のストライキが続き、スターバックスやアマゾンでは組織化の動きが活発化している。
 スト禁止の航空会社では各地空港でのピケが計画され、アメリカン航空、US航空、サウスウエスト航空がピケ実施の準備をしている。

 労働者からはコロナ脅威の中でのフラストレーションの高まりで、賃金や諸手当だけでなく家族生活、労働時間や健康への不安、更には不合理な処遇への怒りが出ている。

 労働組合は労働者不足とバイデン大統領の登場をチャンスと捉えており、WSJは「140万人組織の全米トラック運転手組合チームスターズのホッファ会長の『労働者は戦闘的になっており、労働組合にはチャンスだ』とする発言、サービス従業員国際労働組合(SEIU)の『2020年に4,000名を組織したが今年は倍増する計画だ。賃金や医療、有給休暇への要求が強まっている』。チームスターズの『イリノイ州の大麻麻薬処理企業や食品配送倉庫、ラスベガス・カジノでの労組結成の要請が出ている』との発言」を紹介している。
 国際舞台装置従業員同盟(IATSE 15万人)は映画製作やテレビ・ショーでのストライキを直前に回避したが、要求には賃上げなどに加え食事時間や週末休日の確保などがあった。
 医療機関のカイザー社でも32,000名の看護師たちが14病院と数百のクリニックで看護師の補充を要求してストライキを準備している。

 他方、労働組合の組織率は民間の製造業や運輸、公共企業で著しく低下し、労働省統計によると、全体では1983年の20.1%から昨年には10.8%にまで下落している。WSJは「ある労使関係に詳しい弁護士による『従業員のフラストレーションが強まる中でも、労働組合に頼る労働者は少なく、ソーシャルメディアを利用して苦情を処理しており、労組復活につながるとは思えない』との見解」を伝えた。

 ただ以前は、ストライキの際の組合手当は少額の上に、勝利の公算も確実でなく、企業が代替労働者を雇うことで失職の危険もあったが、現在は企業が労働者確保に困難を抱える状況にあり、労働者の転職が容易になったことで、労働側の力が強まっている。

 上記カイザー社も同様で、ある看護師は「求人は山ほどある。私たちが求めているのはお金ではなく、患者の安全だ。看護師不足による労働過重の現状を変えるにはストライキも辞さない」と語るが、人員不足による過重労働は随所に見られ、ケロッグ社のストライキも退職者補充をしないために起きた。
そこでは週7日の勤務により家族と休暇も過ごせないことが問題となっていたが、現状では、労働者は以前に妥協した問題も受け入れられないとのことだ。
 また、ジョンディア社でも同様の動きがみられる。昨年10月以降、組合に新たに1000人が加入した同社は、組合の要求に対し会社側からいくつか改善も提案されたが、組合は2種類の異なる年金制度が継続されることを問題として、UAWによる暫定合意が90%の反対で否決された。組合員からは「業績好調の今が要求を強めるチャンスだ」とする声が強い。

 最近のギャラップ調査では68%が労働組合を必要と答えて1965年以来の最高を示したが、特に34歳以下の若者では77%が労組支持を示した。
現在労働組合が期待するのは現行労働法の改定で、不当労働行為への罰則強化などを狙っているが、共和党や実業界からは労働者の自由な選択を損なうなどとして反対が強く、改定は困難視されている。

 一方、労働組合員ではない一般労働者の動きについて、労働省が「2021年8月に430万人という記録的な離職者が出た。これはコロナ前2019年8月の360万人に比較して19%の増加となり、2000年以降の平均からは60%増となる」とする統計を捉えて、CNNは「ライシュ元労働長官による『多くの人が体を壊す仕事やストレスの多い仕事につかなくなった。パンデミックを機会に仕事の質への見方が変わり、こんな仕事はこりごりだと言う人が増えている。』との見解」を紹介した。

 CNNはさらに「現在の状況が今後とも続くのか、労働組合に有利に働くのかどうかは分からないが、としつつ、ラトガーズ大学のバション教授が『現在の状況は長期的変化の前兆と思える。予測できないが、変化への要素が随所に見られる』とした」見解を報じた。

 一般労働者の離職者数増加については、The Street 紙およびウイークリー・ラジオ・ショー主宰のジャック・ラスムス博士が「2021年のグレート・ストライキ」と題する同様の記事を掲載した。
https://www.thestreet.com/economonitor/news/the-great-strike-of-2021
https://jackrasmus.com/2021/10/12/the-great-strike-of-2021/
 両記事は労働省統計を引用して、失業から復職した今年1月~6月の月平均889,000名が7~9月には平均280,000名に減少、特に9月は194,000名であったこと、復職の著しい減少は産業全般に見られること、一千万の失業者のうち半数が復職しないことは、過酷な労働条件に反発のストライキと見られること、その他に求職を諦めた潜在失業者300万が存在することを述べた。

 そこで両記事は、復職遅れが過剰な連邦失業手当および学校閉鎖による両親の負担が原因とする共和党に反論して、失業者の復職拒否はコロナの長期化と経済収縮が齎らした構造的な変化を示すもので、深刻な問題がこれから顕在化すると指摘、労働市場再編成の始まりがこの2021年のグレート・ストライキに見られるとして、世界市場へも同様の影響を予測している

 一般労働者についてはまた、CNNが前述のクリントン政権下の元労働長官で、現在カリフォルニア大学バークレー校のロバート・ライシュ教授が「2021年のゼネラル・ストライキ」と題する記事で以下の見解を述べている。
https://www.nationofchange.org/2021/10/14/the-general-strike-of-2021/

 労働省は去る8月の離職者数が430万人と発表したが、これは4月に最高を記録した400万人を更に超えるものだ。反面、求人数は1年前から62%増加の最高を更新して、労働力参加率(生産年齢人口のうち働く意思のあるもの)は61.6%に落ちた。

 この状況は、労働条件が改善されるまで労働者がゼネストに入ったということだ。労働組合員、非組合員を問わず、待遇改善交渉を始めたということだ。
 1年半のパンデミックのあと消費者のサービスや商品に対する需要は高まったが、企業は労働者を確保できない。「過剰な連邦失業手当が復職を阻害している」とする共和党の言い分も関係ない。手当は9月6日に期限切れだ。手間がかかる児童にも学校が再開された。多くがワクチン接種を受けて復職可能となってもこの状態だ。

 失業者が復職しないのは重労働や退屈で低賃金な仕事に戻りたくないからだ。メディアや多くの経済学者が雇用の数だけを見て質を無視しており、それは大きな見落としだ。労働長官時代に訪れた多くの労働者から低給与、非衛生、長時間労働など過酷な待遇への不満を聞いたが、その声は大きくなるばかりだ。それにコロナが加わりもう耐えられなくなった。

 労働者を呼び戻そうと雇用主は賃金を上げ、9月の平均収入は上昇し、昨年同月比で1時間あたり4.6%上昇しているが、到底十分でない。
 企業は労働者不足と言いたがるが、間違いだ。これは生活賃金不足、危険手当不足、保育園不足、有給病気休暇不足、医療費不足なのだ。これらの不足が是正されなければ労働者の早期職場復帰は望めない。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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