バックナンバー

No.643(2021/9/30)
今秋、オーストラリアのサプライチェーンを揺るがす大規模ストの可能性

 8月27日、オーストラリアで物流大手のトールで24時間ストが打たれた。トールは過去良好な労使関係を築いてきた会社である。そのトールで何が起こったのか。

 まずオーストラリアの労使関係の基本を見ていこう。オーストラリアでは産業ごとの基準、アワード(裁定)があり、これを下回る労働条件を提示することは禁止されている。例えば、日本からの留学生が喫茶店でアルバイトをしようと思ったら、まず業界のアワードを見て、最低限の労働条件を知る。その上で個別経営者と話し合うことになる。運輸業界でも運輸業界全体を律するアワードがあり、これが最低基準となっている。組合が存在する大手企業では、当然アワードを上回る労働条件が保障されるが、この部分は企業別協約によって定められている。この企業別協約は3年~4年に一度の労使交渉によって決定される。これまでトールは運輸業界トップの企業として、責任ある良好な労使関係を築いてきた。ところが一転、今年の企業別協約交渉はもめており、未だに解決のめどが立たない。この背景には何があるのだろうか。

 地図を広げて、オーストラリアを見てみると、国土は広大だが、長距離鉄道はほとんど走っていない。航空機とトラック輸送がいかに重要かわかるであろう。この部門の労使関係を仕切るのがオーストラリア交通運輸労組(TWU)である。オーストラリアのナショナルセンターの中でも重要な位置を占めるが、イデオロギー的な主張をするわけではなく、中庸の組合と言える。
 TWUの最近の悩みの種は、グローバル化とデジタル化の中、ウーバーイーツのような雇用形態が運輸産業の中に少しずつ浸透していることである。今年5月20日付のガーディアン・オーストラリア紙によれば、「ウーバーイーツ、その他デリバールーのような会社は労働者を従業員としてではなく、独立自営業者として見ており、これはアワードの最低賃金が適用されないことを意味している。ギグ労働者は時間給で払われず、配達ごとに支払われる。5月18日公正労働委員会(FWC)は、デリバールーで従業員として雇用されている者は労働者であって、独立自営業者ではないと評決した。デリバールーはその従業員を通常監視しており、配達時間を比較している。ディエゴ・フランコ氏は配達が遅いとして解雇された。デリバールーのスポークスウーマンによれば、FWCの決定を不服として、上訴することを計画している。」

 トラック輸送業界の中にも、徐々にこのような雇用形態が入って来ているとTWUは見ている。トールではこの点が焦点となった。TWUは、会社によって提案されている協約案について、「今後職場にとってレガシーとなる年配労働者と悪い労働条件で働く新規の労働者に労働力は二分され、既存の職を脅威にさらしている」と見ている。(8月26日付TWUウェブサイト)
 これは会社側が新規の労働者には最大30%も低い労働条件を適用する案を提案していることを指している。新しい従業員の労働条件を引き下げることと独立自営業者化することとは違うのではないかと見えるかもしれないが、オーストラリアではこうした労働条件を二重化した協約を認めると、そこからさらに拡大し、最終的には独立自営業者化にまで行きつくと言う発想が強い。
 TWUは、トールと同様にスタートラック、リンフォックス、フェデックスなど企業別労使交渉を行っている多くの物流企業で同じような提案が企業側からなされていることに危機感を持っている。TWUは、各会社ごとにスト権確立投票を行うことをFWCに要請した。この組合員投票が賛成多数となれば、ストが打てる体制が整うわけである。このように主要物流企業で全てスト権が確立するようなことはかつて無かった。

 さらに政治の力もTWUは活用しようとしている。トールのストの前日(8月26日)上院は、「連邦政府に路面輸送におけるユニバーサルで拘束力のあるスタンダードを作るべき」とし、そのための独立した機関の設置を勧告した。この種の規制は、アマゾンフレックスやウーバーのような搾取形態を中心とするギグ経済モデルを廃止することだ。マイケル・ケインTWU全国書記長は、この勧告を歓迎し、「勧告の中にある独立機関が成功するためには、これがオーストラリアの運輸産業を安全なものとすべく、真に産業主導、経済社会そして契約上の圧力に目を向けるものでなければならない」と述べた。(同上TWUウェブサイト)

 トールの経営陣は、以上のTWUの動きに対し、以下のように述べている。「「トールは、アルバイトや下請けの契約社員の使用を増大させるいかなる計画も願望も持っていない。実際に過去3年間、トールはアルバイトの使用を30%以上、契約社員の使用も30%減らしてきた。各週、各月、シーズンによる物量の波動性、特にクリスマス前後のピーク時とピーク後の物量の波動性があるにも関わらずこれは行われた。」「トール従業員は、運輸業界全体で最高の賃金と条件と職の安全を保障されている。我々は良い給料を払い、我々の従業員と良好に対応している。なぜならこれこそが我々と競争者との違いだからである。」(ランド紙9月3日付)

 いずれにしてもTWUの動き次第で、オーストラリアの物流業界は今秋、一大ストに見舞われる可能性が大きくなっている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.