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No.638(2021/9/2)
米国民主党全国委員会に労働組合誕生 ほか

米国民主党全国委員会に労働組合誕生

 8月3日、米国の主要各紙はワシントンDCの民主党全国委員会(DNC)に労働組合が誕生したと報じたが、全国組織の政党に労働組合が誕生するのは歴史上初めてのことになる。
 この労組はユニオンショップとしてサービス従業員国際労働組合(SEIU)の地方組織であるローカル500に加入するが、同地方組織はメリーランド州とワシントンD.C.の公務員及びNPOを組織している。ただし、労組加入の署名者人数など、詳細は明らかでない。

 この点についてニューヨーク・タイムスは「DNCには約150名が働くが、カードチェックシステムと呼ばれる方法で、組合結成を選択した署名者が半数以上に達したことで、民主党が直ちに労組を承認した。現在労組加入資格者と管理職の区分けが行われている」と述べ、さらに「民主党本部で働く職員の中で若者たちの意識には変化があり、民主党キャンペーンの拡大に伴い、増加する収入に対する待遇改善の動きが出ていた。」と報じた。民主党はかねてから選挙ではなく過半数署名による労働組合結成を推進しているが、関係者はこの労組結成を歓迎しつつ、労働組合への公約が果たせたとしている。

 また同紙は「各州の民主党委員会については、テキサス州など数州で労働組合が結成されている。民主党候補者にとって民主党選挙本部の労組結成は、主要労働組合の支持を得るのに欠かせない要素だ。しかし、去る5月のニューヨーク市長選挙では民主党候補の一人が過酷な労働条件に反対して労組を結成しようとした労働者数名を解雇する不祥事も起きている。但し、民主党全国委員会本部では育児休暇や医療保険、有給休暇を含めて安定した労働基準を定めており、労使交渉の余地も残していることから、労働組合の環境は整っている。」と述べている。

 労働組合結成については今年3月、下院議会が連邦労働法の抜本改革となる労働組合保護法(PRO)を225-206の票過半数承認したが、内容が労組結成を画期的に活発化させ、各州における反労働組合法を廃止させるものであることから、50-50の勢力にある上院での承認は難しい。特に上院では少数意見を無視しないという伝統から、60%以上の賛成が求められており、また民主党議員にも反対者がいることから、承認はますます困難視されている。

 過半数署名による労働組合承認はPRO法案の中でも中核を成す条項だが、労働組合の組織率が1970年代の33%程度から2020年には10.8%に落ち込んでいる現在、労働組合はPRO法案の成立を切望しているが、産業界及び共和党からの反対は激しい。

 民主党全国委員会は米国民主党が全国の党組織を統治する委員会であり、政策綱領の作成、広報、資金調達、選挙戦略の調整等に携わる。4年に一度の党大会の開催を主催し、大統領候補の指名を行い、各州や各群郡、都市、市町村選挙の調整も行う。しかし当選議員に対する直接的な権限はなく、通常時の政策立案や決定、下部組織である地方の委員会の活動に直接関与することも少ない。共和党にも同様の全国委員会が存在する。
 今回の労働組合誕生はこの委員会に働く職員による動きである。

AFL-CIOトラムカ会長が急逝

 米国の主要各紙は8月5日、AFL-CIO(1,200万人)のトラムカ会長が地方遊説中に心臓発作で急逝したと報じた。享年72歳、全米鉱山労組の出身である。後任として、リズ・シュラー氏(前財政事務局長、全米友愛電機労組IBEW)が務めることが決まったが、今年末までに予定されていた会長選挙はパンデミックのため、来年6月までと延期されている。

 労働組合が衰退を続ける中で、トラムカ会長は2009年のAFL-CIO会長就任以降、労働組合復権をかけて雇用の確保、賃金労働条件の改善、人種差別撤廃などAFL-CIOの50余組合だけでなく、アメリカ労働者全体の代弁者として全力を傾注してきた。

 それ以前は、全米鉱山労組(UMW)会長として、労働組合を率いた。3代にわたる鉱山労働者の家系からブルーカラーとして職に就き、貧しい中でペンシルバニア大学を卒業、3年後に弁護士資格を取得した。アパラチアの鉱山地方とキャピトル・ヒルの双方に馴染み、ピケ・ラインを組みながら労働保護法成立に力を尽くした。若年労働者の保護、時給15ドルへの戦い、最低賃金引上げ、パンデミック時の安全規約策定、更にはインフラ整備への政府計画への積極支援、時にはトランプ前大統領と協力して雇用の海外流出を招くTPPや北米自由貿易協定(NAFTA)に反対し、それに代わるUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)での労働権保護を確保して、「トランプ大統領が扉を開き、労働者が協定を締結した」(8月5日ニューヨーク・タイムス)とも語った。

 UMWでは弁護士として働き始め、同労組会長就任後は激しい闘争を指導、南アフリカの人種差別反対運動にも積極的に参加して、関係するシェル・オイル・ボイコット運動を展開、1989年のピッツトン炭鉱では退職者医療保険の打切りに抗議して10か月のストライキを勝ち抜いた。

 子息のリチャード・トラムカJr.は弁護士として下院の監視改革委員会委員となっている

組合員直接投票によるUAW執行部選挙

 全米自動車労働組合(UAW)が執行部選挙を現行の代議員制度から組合員直接選挙に変更することの是非を問う投票を10月12日から11月12日まで、郵送により行うことになった。

 米国で最強の労働組合と言われ、アメリカ中産階級の育成に大きな貢献を果たし、労働組合の模範とされたたUAWだが、1979年の150万人組合員が現在は40万人に減少、その上に17名の組合役員が汚職容疑で起訴され、2名の元会長には実刑判決が下されている。

 こうした中で連邦地裁は前連邦検察官のバロフスキー弁護士を6年間、監督官に任命して、汚職防止のためにUAWの財政及び選挙運営、更には執行部直接選挙への信任投票を監視させることになった。UAWは辛うじて政府の直接管理を避けることが出来た。

 組合員の直接投票の是非を問う投票について、UAWは7月12日の公示の中で「米国地方裁判所は合意協定に基づき、独立監督官を任命した。監督官の責務の一つに今年秋の信任投票の監督がある。信任投票はUAW大会において現行の代議員制度による役員選任を継続するか、ないしは組合員の直接投票に変更するかを問うものである。現行組合員及び退職組合員の最新住所などの確認をお願いする」と述べている。
 UAWは初代のウォルター・ルーサー会長時代から70年間にわたりCaucus(コーカス:幹部会議)による運営を続け、現職会長が後継者選任に強い発言力を持ちながら、コーカスが影響力を持つ代議員による選挙制度を続けてきた。直接選挙はその伝統を変えるものとなる。

 他方、5月25日のガーディアン紙は「同労組の民主化を要求して執行部選挙に組合員の直接投票を要求してUAWD(United All Workers for Democracy:UAWメンバーによる草の根運動組織)がフォード工場の電機工、フールディーソン氏を委員長として組織された。UAWDは『コーカス・システムが内部腐敗を起こし、$150万以上の組合費横領、フィアット・クライスラー社での$500万のキックバック事件を起こした。汚職防止だけでなく、組合員の生活改善のためにチェック・アンド・バランスの関係を築く必要がある』」との主張を紹介。
 さらに“ルーサー人物伝”の著者、リヒテンシュタイン氏の声として「組合員の怒りと未だ汚職蔓延と会社癒着に無気力な指導部を考えると、直接選挙による徹底刷新、新たなエネルギーの掘り起こしが必要だ。1989年の全米トラック運転主手労働組合(チームスターズ)でも直接選挙への変更で指導部の自覚が変わった」とする言葉を伝えている。

 しかし、ギャンブル前会長は「直接選挙になると外部干渉を受けやすくなる」として直接選挙には懐疑的である。またガーディアン紙は「直接選挙に反対するミシガン州の地方組織委員長の声として『私のローカルは1,800名の小人数だ。直接選挙では我々は消えてしまう。現行執行部は13名構成だが、黒人4名、ラテン1名、女性2名が在籍する。こうしたバランスは代議員制度で配分可能となる』」との意見を伝えている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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