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No.636(2021/8/2)
カザフスタン共和国労働組合連合(FPRK)の労使紛争への取り組み:石油採掘保守企業ケズビの紛争解決に見る

 カザフスタンの地図を西南に見ていくと、カスピ海にぶつかる。ここがマンギスタウ州で、住民の大半は州都アクタウ (人口約19万人)かジャナオゼン (人口約10万人)に住む。このジャナオゼンで石油採掘用機械などの保守業務に従事する企業ケズビの従業員1200名が、7月1日ストに入った。6月30日の夜まで継続した諮問委員会での交渉が暗礁に乗り上げたからだ。

カザフスタンという国

 カザフスタンは広大な土地に豊かな資源を持っているが、人口は1877万人しかおらず、労働力人口は880万人、その中で被雇用者は670万人、労組員は163万人で、通常なら国民は相当豊かなはずである(FPRKユーラシアチーム提供資料)。だが「カザフスタンは長らく最も悪辣なネオリベラリズムによる反社会的な市場改革と反労組的法制度の実験場との「名声」を博しており、労組活動家への過酷な弾圧、労働組合の自由やスト権等権利の抑圧といった法制度を他の旧ソ連圏諸国に輸出するという役割を担ってきた。」(出典:カザフスタンの労働組合と勤労者の自由と権利の侵害に対する声明2018年8月31日)
 特に富の源泉である石油ガス採掘産業の労働者に対する弾圧は激しく、労働者はこれに対し様々な形で抵抗してきた。2009~2011年の闘いは、民営化による外国資本への資源売却反対と自由な労働組合結成を掲げ、長期にわたって闘われたが、2011年12月ジャナオゼンで起こった労働者の集会に対する警官の一斉射撃、流血の惨事となった。当時大統領だったナザルバエフは、「これはどこの国でもある労働争議だが、犯罪的な分子が政治的要求を行い、混乱を招いた」と語った。その後、体制側は着々と手を打ち、2014年議会は新しい労働法「労働組合について」を採択、これによって新しい労働組合組織を作るのは事実上不可能になり、600以上のローカル組織が閉鎖された。続いて労働法細則が2015年に採択され、2017年にはFPRKに対置してきた独立労組連合を禁止した。これに対し、2018年ILOと共に国際労働組合連合(ITUC)はカザフスタンの労組弾圧に対し、国際キャンペーンに取り組み、ILOもカザフスタン政府にメモランダムを送り、反対の立場を明確にした。

カザフスタンの労使:頻発する労使紛争

 カザフスタンの労働者も政府の方針をそのまま受け入れているわけではない。現在でも労働条件改善と大幅賃上げを求めるストはあちこちで起こり、カザフスタンは旧ソ連圏の中でも労使紛争が相当多い国である。今年6月に行われたJILAFユーラシアチームのオンライン研修では、カザフスタンの代表(FPRK)から次のような発言があった。「実際、石油ガス採取業で、ストは非常に多い。最近も中国資本が入っている企業でストが起こった。スト多発の理由として、外国人との賃金格差が大きいことが挙げられる。外国の会社は、自国から労働者を連れてきて、彼らには自国の法規に従って、手当が払われているので給料は高くなる。我々FPRKが関与して、70%の紛争は解決している。1600人くらいに対し10~15%の賃金を引き上げ、14の企業で、紛争を解決した。」

ケズビの争議

 今回取り上げるケズビ(石油採掘の機械や設備の保守サービスを行う企業)の争議は以下のような経過をたどった。まず労働組合側の12項目の要求は以下の通りである。
大幅賃上げと賃金支払いシステムの再検討、祝日給の支払い、健康に悪影響を与えるエリアで働いた場合の手当の支払い、勤続年数に応じキャリアの成長の可能性を労働者に与えること、健康センターに入る日数について休暇とすること、ボーリング設備の修理など難しい仕事を行う熟練工に対しより良い労働条件を整備すること、ボーリング作業に対する補助者の配置などである。
 これらは当然の要求であるが、なぜこのような要求が提出されるのか?これはケズビの下請け企業としての性格が影響している。例えば、労働者の話として、「通常、夜勤勤務者には仮眠室が用意されるべきだが、ケズビでは労働者が自腹でホテルなどを借りて対応していた」と言う。(出典:「ジャナオゼンのケズビで労働者のスト継続」7月1日自由ラジオ)
 同様に労働者達は2019年6月25日に結成され、登記された労働組合が、ローカルの石油産別インティマークに加入できるようにすることも求めていた。使用者側によってケズビの組合は幾度となく産別加入を妨害されていたからである。インティマークはFPRK傘下の組織である。
 6月30日までの諮問委員会での交渉は不調となり、その日の夜勤勤務者から労働者はストに入る。7月4日交渉は仲裁委員会に場所を移す。仲裁委員会はマンギスタウ州知事、労使の代表の三者構成で、州の労働監督官、FPRKからは地方連合会長、産別インティマーク代表もオブザーバーとして参加する会議である。こうして7月6日賃金の大幅引き上げ(全てを合わせて50%引き上げ)を始め、ほとんどの要求が受け入れられることになった。(出典:インフォビュロー・ニュース7月6日)
 今回の交渉の早い妥結の裏には、今年が2011年のジャナオゼンの虐殺から10年にあたること、またFPRK側の周到な根回しがあったことは疑いない。なぜなら昨年5月にFPRKの会長となったダウレタリン氏は、2015年11月から2016年2月まで地域の石油産別であるインティマークの議長を務めていたからだ。(出典:「FPRKの新会長選出される」2020年5月7日カズタグ)
 前述のJILAFのユーラシアチーム「各国労働事情を聞く会」で、今年3月12日政労使で2021~2023年の基本合意書が調印され、賃金支払いシステムの改善、最低賃金の引き上げ、物価スライド制の検討、社会的パートナーシップの改善などを検討していくことが合意されたという報告があった。こうした地道な努力がカザフスタンの労使紛争を減らし、労使関係安定に導くことは疑いない。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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