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No.635(2021/7/20)
米国の深刻な労働者不足、そして対中国革新競合法

 6月8日のウオールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「労働者不足、特に深刻な先端技術労働者不足の問題」を社説に掲げた。要旨は以下のとおりである。

 全米各地で労働者不足の声が高まっており、4月の労働省JOLT(求人・離職)調査では2000年の調査開始以降、求人が最高の930万人に達した。

 コロナ規制の緩和もあり、4月の求人は998,000人増加したが、その中でレジャー・接客業が391,000人増加、商業・運輸で108,000人増、製造業で102,000人増が報告された。
 しかし、就職数は僅か69,000人で求人数の15分の1であった。不足が最も深刻な建設業では求人23,000人増加に対して107,000人が離職、製造業は求人102,000人増加に対して38,000人が離職した。労働者不足は供給不足に拍車をかけ、物価を押し上げている。

 商業会議所調査では90.5%の会社が労働者不足を報告している。アメリカ・ホテル協会も96%の会社が不足を報告しているが、採用賃金については大多数が現行の連邦失業給付を下回る水準にある。
 週$300の連邦失業給付が無かった昨年12月に比べて4月の就職数が低調な中で、各企業は就職ボーナスや採用基準の緩和を進めているが、目を引くのは、4-5月の新規就職数の40%を16-19歳の未成年者が占めたことだ。未成年者失業は1953年以来の最低にある。

 労働者が復職しない理由にコロナの進行や在宅の子供の世話などがあるが、学校再開など状況改善のなかで、失業給付期限切れの10月以降、労働者不足は緩和する見込みである。

 他方、パンデミック以前に提起された熟練労働者と技術労働者不足が依然として企業競争力の阻害要因となっている。
 今日、米国上院は2,000億ドル規模の対中国を意識したUS革新競合法を通過させたが、半導体や先端技術労働者不足の問題は残されたままである。2019年の調査ではこの水準の科学知識を持つ労働者は高学歴者の中でも22%に過ぎないとされ、米国人だけでは対処出来ない問題となった。

 大学でエンジニア学位を授与される半数は外国人が占める状況にあるが、この水準の移民労働者の雇用促進策はなく、また公立学校教育にも熟練労働者育成の対策が見られない。
 企業が必要労働者を採用できない現状は、海外に仕事を任せるしかないということになる。

 以上がWSJの社説だが、6月7日のニューヨーク・タイムスは上記のUS革新競合法が「対中国を意識した医薬品や半導体、知的財産保護など米国民間企業の競争力強化の助成法」だと紹介しつつ、「国の力を背景に勢力を拡大する中国企業の脅威に対し、従来は民間企業支援に消極的だった共和党が民主党と超党派で取り組みを後押しする」情勢の変化を伝えた。

 WSJの社説は、先端技術を担う労働者が恒常的に不足する深刻な米国の実態を指摘して、一時的な企業助成だけでは済まされない体質的な米国の弱点を憂慮、国民全体の教育を変革する必要性を指摘している。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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