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No.632(2021/7/16)
アマゾン問題が示す方向の働き方とボスウェアの問題

 アラバマ州ベッセマー市のアマゾン物流倉庫における労組結成は失敗に終わったが、「労組結成の動きの背景には多様な意味がある」として、4月10日のワシントン・ポストはマイクロソフト調査部主任で南カリフォルニア大学のケイト・クロフォード教授による論説を掲載した。
 論説はアマゾン社におけるアルゴリズム(数式による問題解決への段階手法)による作業動作の標準化、またコロナによる在宅勤務で利用される “ボスウェア” というソフトウェアが、労働者の動きを子細に監視する問題を指摘する。そして、アマゾン問題が仕事の将来像を映すものとして、アルゴリズム・マネジメントによる仕事の支配、企業経営者への権力集中に警鐘を鳴らしているが、要旨は次のとおりである。

 クロフォード教授はアマゾン物流倉庫で働いた経験から、同社の半自動化された労働手順、広大な敷地の中で行われる配達商品の仕分け、最新の仕事の段取りと標準化、床上を滑るように動き、棚上の重量物を最効率ルートで労働者に運ぶロボットに驚く。
 ロボットのアルゴリズム・バレーに比べて、監視カメラに落ち着かない労働者、反復作業で痛めた腕にサポーターを巻く人、そして全員が仕分け時間の短縮プレッシャーにある。“マトリックス”と呼ばれる数式管理により、商品の行き先や最適の収納箱が選択され、最速の配達を実現する。人間はロボットの出来ない特定で厄介な仕事を担う。

 多くの米国企業が今、この作業方法を真似してオートメーションと監視システム強化に励む。パンデミックはこの傾向を一段と加速し、労働者の動きを追跡、評価、ランク付けするための人工知能システムの採用が増加、使用者の一方的な力関係が一層強化される。
 在宅勤務の増加から、使用者はリモート・ワークを監視する“ボスウェア”を採用している。労働者のコンピューターに入り込んで時間の使い方を監督し、時には転職の可能性も検知する。他の労働者と比較し、危険人物には警報を受ける。パンデミック以降需要が6倍になったボスウェアもある。ヘンリー・フォードに始まった時間と生産性管理が更に進化している。

 数十年にわたる労働組合活動で実現した8時間・40時間労働、残業代、団結権などにひびが入ろうとしている。細かく人を監視、人事評価することになれば人は仕事への信頼を失う。
 AIは人間を補ってくれるが、多くのボスウェアは反対だ。仕事と私生活の区別はなくなる。アマゾンは極端な形でアルゴリズム・マネジメントの方向に先駆けを付け、最大限の顧客情報を引き出すのと同様に、労働者からは最大限の労働力を引き出そうとしている。アルゴリズムが強化され、人間をロボットのように扱うシステムに抵抗する必要がある。(以上 ワシントン・ポスト)

 また、論説の言うボスウェアについて、デジタル問題の人権団体、エレクトリック・フロンティア・ファウンデーション(EFF)のニュース・レターは以下のように記述している。
 ボスウェアには様々なものがあり、労働者の時間管理、仕事の内容分析と生産性計測、データ・リークの防止、ハッキング防止などがあるが、同時に労働者のプライバシーや金銭の扱いなどを検知する危険性もあり、過剰な情報収集で労働者を不当に支配する危険性も持つ。

 ボスウェアは通常、コンピューターやスマホを使うが、使用者はこの記録を全て利用可能で、仕事以外の情報も知ることが出来る。生産性計測のソフトは関連データを全てグラフ化して労働者を評価する。労働者を信用しない使用者が、労働者のコンピューターに入り込んで勝手に操作することも可能となる。特に会社貸与のコンピューターはこれが可能である。監視を労働者がOn/Offする機能もあるが、使用者の乱用を証明することは難しい。

 ボスウェア採用の動きはパンデミック以降特に強まっており、コロナ発生一か月で契約が3倍に増加したソフトもある。多くのソフトウェアが開発されているが、ある大手ソフトは83,000企業が契約、大手不動産会社やIT企業、有名大学や大都市、銀行、製造業、コールセンターなど多様な団体が利用している。しかし労働者は実態を知らない。実態を知って、信頼を失い、素直な仕事ができずに生産性を落とす可能性も強い。(以上 EFF)

 以上に述べられたアマゾン社におけるアルゴリズムによる作業動作の効率的標準化については、怪我予防の作業手順や技能向上の側面もあり、一概に非難されるものでもない。コロナによる在宅勤務とテレワークもその必要から労働者も納得の上で行われている。
 しかし、指摘の問題があるとすれば、それは労使共同の監視の上で解決されねばならない問題である。必要なのは、使用者と労働者の話し合いによる、合意の上での円滑な仕事の進め方である。

 しかし、米国の労働組合はストライキなど戦闘的な協約交渉は行うが、労使協議には消極的である。ましてや、労働組合組織率10.8%の現状では大部分の企業に労働組合はなく、労使の話し合いなど想像もできない。

 アマゾン社の労働組合結成が失敗したとき、同社のジェフ・ベゾスCEOは「従業員調査では、94%が友人に紹介できる良い会社だと答えていたが、改善の余地があるようだ。顧客満足と同時に従業員満足へも改善が必要のようだ」(4月15日 ワシントン・ポスト)と述べたが、アルゴリズムの徹底で「ケースを持ち歩いて小用を足す」状況は知らなかったようだ。
 共和党関係者や経営者には徹底して労働組合を嫌う傾向が強いが、ベゾスCEOも従業員の仕事満足度は気にするものの、調査報告を念頭に上意下達で十分だとする態度が感じられ、労働者グループと話し合おうとする気配はない。

 こうした労働組合、そして経営者の労使対話への極めて消極的な姿勢に、自発的な対話ないし協議の実施は困難と考えられ、法律による強制が必要なのかもしれない。

 そこで期待されるのが、前回記事と同じ主張の繰り返しになるが、共和党のルビオ上院議員からの「経営には労働者の意見反映が必要として、ドイツ共同決定法のような法律による労使協議の促進」の提案であり、また労働組合を決定的に強化するPRO法案(前回記事を参照)である。但し、「PRO法案は労使対立を煽る」として民主党にも反対の上院議員が存在して議会通過は困難視され、また残念ながら、労使協議を促進するものではない。

 その間に最近発足したのがバイデン大統領の行政命令による「労働問題タスクフォース」である。ハリス副大統領を議長、ウォルシュ労働長官を副議長として、20人以上の閣僚級人物を集めたタスクフォースが提出する答申が、民主党、共和党、そして労働組合、産業界からの大多数の賛同を集め得るものになるのかどうか。労使協議制は一方的な力関係が支配するものであってはならない。大いなる期待を持って答申を見守りたい。

 また日本においてもこの問題、特にボスウェアの問題は看過できない内容を持つ。各企業、各種団体、自治体、公官庁に至るまでの幅広い分野において、労使の協力による点検が必要である。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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